第4話 歌
生徒会の仕事も終わり、家に着いた俺は今、ものすごく悩んでいた。
悩みの種は明日の新入生歓迎会で歌う、歌のことである。
一体何を歌えばいいんだ……
カラオケの音源を調達したりする関係で、早めに南さんに連絡しなくてはならない。
まぁ、一言言わせてもらうと南さんが、突然歌を歌えなんて言うのが悪いんだけどな。
今日言われて、明日歌えとか中々至難の技すぎるだろ……
俺が愚痴をこぼしつつ、明日のことについて真剣に悩み苦しんでいるその時机の上に置いてあったスマホが、 震えた。
俺はスマホを手に取り見てみると、ゆきからのメールだった。
内容は
今、明日の選曲に迷い中の先輩へ
かわいそうなのでメールを送
らせて頂きます。私とデュエットは
いかがでしょうか?
きっと素晴らしいものができると思
いますよ?
すごくいい案だと思いませんか?
というものだった。
そしてよく、俺が未だに悩んでるなんてわかったな……女の勘恐るべし。
ただ肝心なメール本文には曲名が書いていなかった。
なんなんだこのメールは?
と思ってたその時インターホンがなった。
仕方が無いので、出ることにした。
「はーい。どちらさまですか?」
「私です!」
「私私詐欺か何かですか? だとしたらお引き取り願えますでしょうか?」
「そんなわけないじゃないですかぁ! 松岡ですよ」
笑いながら、ドアを開けるとそこには、頬をふくらませたゆきがいた。。
くっ、やっぱり可愛いわ……
「そんで、 何のようだ?」
「さっきメールしたじゃないですか?」
「あぁ、デュエットどうのこうのって奴だろ?」
「はい! それのCD持ってきました」
ゆきはそういって、CDを差し出した。
俺の部屋にはCDデッキがなかったのでパソコンで再生することにした。
そして聞き終えると、
「普通にいい曲じゃないか!」
俺は、以外にも名曲で感激してしまった。
「当たり前じゃないですか!いい曲を選んだんだから」
「もっと、ふざけた歌を持ってくるのかと思ったわ」
俺は笑いながら言った。
「なんか今日の先輩、失礼ですね」
ゆきはまたもや頬をふくらませながら言った。
そろそろドキドキしすぎて、顔に出ちまいそうだぜ……
気をつけねば。
「まぁ、明日歌う曲は、これにしようかな。 でもお前いいのか?お前はどちらかと言うと明日は、歓迎させる側なのに」
「いいんですよ! 学校を盛り上げるためですから」
なんて良い子なんだ……
感動したわ。
ただ一つ不安があるとすれば、この曲はバリバリの恋愛ソングなので歌ったあと、また変な噂が立たないか心配だということ、そしてゆき、のあのキャラでこの歌を歌えるのかということである。
***
翌日
とうとう歌を歌う日が来てしまった。
と言っても歌うと決まったのは、昨日だが……
「今日は頑張りましょうね!先輩!!」
ゆきが笑顔で俺に言った。
こいつは緊張というものがないのだろうか……?
そして俺はこいつにもう一つ言いたいことがある。
「どうしてお前があたかも以前からそうしていたかのように俺の部屋で、朝ごはんを食べてるんだ!!!!」
そう、ゆきは俺が朝起きて朝ごはんの支度をしようとした時、家に来たのである。
全く、 朝から男の家に入るなんて意識してくださいと言っているようなものじゃないか!
「まぁいいじゃないですか。 1人でご飯食べるの、寂しいんですよ」
「まぁ、こっちからしたら朝ごはんも作ってもらったし、 何も文句は言えないんだけどな……」
「その通りです! もっと私に感謝しなさい」
ゆきは満面の笑顔でそう言った。
その笑顔と来たら、もう可愛いというのも、あほらしくなるくらい可愛かった。
***
数時間後 新入生歓迎会
先ほどとてつもなく可愛い、 ゆきを見た俺はものすごく絶好調だった。
この調子で行けば歌もきっと平気だぜ!
と自分に言い聞かせていると、いよいよ俺達の出番がやってきた。
「それでは新入生の皆さんに、生徒会長内山涼介さんと、副会長松岡雪乃さんより、歌のプレゼントです」
司会の人がそう言うと同時に、前奏が流れ始めた。
俺とゆきは、舞台袖からマイクを持って舞台へと出た。
するとそこは、ものすごい声援に包まれていた。
これはすごいな……
暖かい声援に包まれた俺達は、大きなミスをすることなく歌い終えることが出来た。
歌い終わったあと、体育館中は歓声の嵐だった。
***
翌日
俺達がいつも通り学校へ行くと、学校の校内新聞である『のぎのぎニュース』に、天性のイケボ会長&天使ボイスの副会長。
という大げさな取り上げ方をされていた。
たしかに、ゆきの声は生徒会モードの時とは違い、地声に近いものでものすごく可愛かったが俺の方は、そこまで大げさにいうものではないと思う。
まぁ褒められて悪い気はしないので良いけど。
「会長歌うまかったよ〜」
俺が廊下で張り出されている新聞を読んでいると、そんな声が聞こえてきた。
俺はとっさに声を作り
「ありがとうございます。皆様に喜んでいただけて僕は嬉しいです」
と言った。 今のセリフは我ながら爽やかボイスだったと思う。
「雪乃ちゃんも可愛かったよ〜」
「ああ、感謝する。これからも、こういう機会があればやりたいと思っている」
ゆきは副会長モードでそう言った。
その時
「その言葉、うそはないわね!!!」
という南さんの声が聞こえた。
「学園長、いらしたんですか?」
俺はとりあえず適当に返した。
「ええ、そんなことより雪乃ちゃんの今の言葉聞かせてもらったわよ。あなた達生徒会は、これからも定期的に歌を披露するチャンスを、あげるわ!」
ええええええええええええええええええええええええ!!!!
いらねぇ……
昨日だけでもあんだけ大変だったのに……
ただし学園長の言うことは絶対なので、俺は従うしかなかった。
「とてもありがたいです。 ぜひまだ一緒に歌いましょう。雪乃さん」
俺はその場を自然に流そうとした。
「そ、そうだな」
ゆきは一瞬戸惑ったようになりながらも、なんとか生徒会モードを保ち言い切った。
まったくこれまた大変なことになったな。
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