第1話 新メンバー

「ふぁ〜あよく寝た」


 昨日の入学式が金曜日だったので、土曜日の今日は休日である。俺の住んでいるのは5階の1番奥の部屋だ。今までお隣さんはいなかったが、1週間くらい前に、隣に人が引っ越してきたのだ。

 しかし挨拶にもこないしエントランスで会うこともないので、未だに顔を見たことがない。

 いやでもエントランスにいたところで顔がわからないんじゃ、しょうがないか……

 表札も出てないので名前すらもわからない。

 本当に人住んでるのか?

 まぁいいや。今日はせっかくの休日だからな、少し遠くに買い物にでも行くか。

 朝食を早急に済ませた俺は、支度をして外に出た。

 すると驚いたことに、隣の部屋に表札がかかっていたのだ。

 そこには『松岡』と書かれていた。

 松岡さんか、ちゃんと人住んでたんだな。


 エントランスに出ると、面倒なことに同い年くらいのカワイイ系の美少女が、わけのわからん大男に絡まれていた。

 美少女は嫌そうに誘いを断っているように見えた。

 なんてこった、こんな朝っぱらから、マンガに出てくるチンピラみたいに美少女に絡んで……

 はずかしくないのか?

 しかも、場所わきまえろよ……

 俺はため息をついて、大男に近づいた。


 「ちょっとあんた。馬鹿なことやってないで部屋に帰ってマンガでも読んでたら」


 俺は大男に向かってそう言った。


 「ああん!?てめぇ誰だ。ぶっ殺すぞ」


 こいつは本当に、漫画の世界から出てきたんじゃないだろうか?

この状況マンガでよく見る光景みたいになってるな。

 と油断していると、大男が殴りかかろうとしてきた。

 俺はそれをとっさに避けてみぞおちを食らわせた。


 「アホかお前。 相手の力量もわかってないのに、突然殴りかかってくんなよ」


 俺がそう吐き捨てると、大男は一瞬で逃げていった。


 「あ、あのありがとうございます!!! あなたうちの学校の生徒会長さんですよね?」


 ん? なんだって???

 うちの生徒がなんでこのマンションにいるんだ?俺が普段こんな格好だったり、口調がこんなだったりするのが、バレたらせっかくの面白さが無くなるから、このマンションにうちの生徒は入れないようにしてある、とか南さん言ってたのに……

しかも、俺は生徒会長モードの時は今見たなラフな格好はしていない。 生徒会長補正があるうちの学校の生徒は、パーカにジーパンそして、セットを一切していないことをことなんて気づかないと思ったが……

俺のことちゃんと見てくれてる人がいたんだなぁ。

俺は不覚にも感動をしてしまった。


 「あぁ、うん、 そのまぁ、そうだな」


 俺は否定しようかどうか迷った挙句、肯定してしまった。


 「なんでそんなに動揺してるんですか? 大丈夫ですよ。 私先輩の真面目に振舞っている事情全部知ってますから」


 「!? なんで知ってるんだよ。 誰から聞いた?」


 「学園長にきまってるじゃないですか。 あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。 私新しく生徒会メンバーに加わる、松岡雪乃まつおかゆきのです」


 松岡……? さっきそんなような名前を口にしたような……


 「あっ!? お前俺の隣の部屋に引っ越してきたやつか」


 「そうです。そうです。その通りなのです」


 む、可愛いな。

 俺は、松岡の仕草や喋り方に可愛いと思ってしまった。顔に出てないよな。 と、とりあえず会話を続けよう。


 「で、でも昨日まで表札が出てなかったみたいだけど、 なんかあったのか?」


 「不覚なことに、引っ越してきてから昨日の入学式まで、ずっと熱が下がらなくて…… 」


 「そういうことだったのか。 具合は良くなったのか?」


 「はい!!! なんとか。 私は体がそんなに強くないのでしょっちゅう風邪ひいちゃうんですよ」


 「マジか、 俺は生まれてこの方学校を休んだことないからちょっとだけ羨ましいぜ」


 そう言うと、松岡は少し複雑そうな顔をした。

 その顔もまたかわい……じゃなかった、羨ましいなんて言うもんじゃなかったな、本人はなりたくて風邪ひいてる訳じゃないんだから。


 「あの、ご、ごめん。不謹慎だったな」


 「い、いえ。 気にしないでください。 それにしても先輩って本当に昨日と髪型や声色、喋り方全然違いますね」


 「まぁな、割と頑張ってるからな。毎日苦労が耐えないぞ」


 「でしょうね」


 松岡はそう言いながら微笑んだ。

 その顔もまたかわ……だめだ……一つ一つの表情が可愛すぎて一々ドキッとしてしまう……

 なんてこった。 俺はこんなやつと一緒に仕事をしていけるのか?

 不安になってきたぜ。


 「まぁ、これから宜しくな、松岡」


 「あっ、私のことはゆ、ゆきって呼んでください」


 松岡は、はにかみながら言った。


 「かわ……わ、わかった。 そうする。 そう呼ぶよ」


 あ、危ねぇ、 可愛いって口に出すところだった。


 「じゃあ先輩、私はこれで。あっそうだ月曜日は一緒に学校に行きましょうね」


 「あ、ああわかった。じゃあな」


 ***


 月曜日


 俺はいつも通りの時間に起き、朝ごはんを済ませた。

 そして髪の毛を、生徒会長モードにセットした。 この髪の毛のセットが割と厄介で15分くらい時間をとるのである。 全くいい迷惑だぜ。

 そして最後の仕上げにメガネをかければ、生徒会長内山涼介の出来上がりである。

 身支度が完了した俺は、学校に向かうべく部屋を出た。

 するとそこには、まつお、じゃなかったゆきが立っていた。


 「遅いですよ。 先輩!」


 「あ、ああすまん。 待っててくれたのか。 でも、インターホンを押せばよかったんじゃないか?」


 「きっと髪の毛のセットとかに時間かかってるだろうなと思ったら、押せなくて」


 なんか、とっても面白い理由で、待っててくれたんだな。

 しかし、ゆきも昨日と姿が違っていた。

 肩にかかるくらいだった髪の毛を後ろで束ね、これまた俺と同じようにメガネをしていたのだ。もしかしてこいつも俺と同じパターンなのか……?


 「お前、その格好が普通なのか?」


 「うふふ、 そんな訳ないじゃないですか。 とりあえず、この後の朝会での生徒会新メンバー発表を楽しみにしておいてください」


 「お、おうわかった」


 ***


 数時間後。

 朝会の時刻がやってきた。


 「本日は、新生徒会メンバーを発表したいと思います。 僕と一緒に今日から生徒会として学校を盛り上げてくれることは間違いないでしょう。 新生徒会メンバーの松岡雪乃さんです。 それでは一言お願いします」


 俺はそう言って、ゆきを紹介した。


 

 「今紹介にあずかった、松岡雪乃だ。私は、優しい内山先輩と違い厳しくやっていこうと思っている。 よろしく頼む」


 !?!?!?!?!?!?!?!?ええええええええええ


 こういうキャラかよ…… 嘘だろっ。

 楽しみにしとけってこういう事かよ。

 今俺は外面は真顔でクールに保っているが、内面は死ぬほどびっくりしている。

 昨日と今日の朝のゆきはどこに消えたんだ。

 声色が全然ちげぇ……

 これは、これからの学校生活が荒れそうだぜ……

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