偽りのキャラを演じる生徒会役員の日常

優輝斗

第0話 内山涼介

『次は生徒会長、内山涼介さんの挨拶です。 内山生徒会長、宜しくお願いします』


 視界に呼ばれた俺は、体育館のステージにのぼり、礼をした。


 「新入生の皆さん御入学おめでとうございます…… 」


 俺の名前は内山涼介。

 絶賛体育館のステージ上で、入学式の生徒会長挨拶をしているところだ。

 俺の通っている私立乃木ノ沢高校は、去年できたばかりの新設校である。

 そんな新設校に新入生が入ってくるわけだ。

 3年生のいないこの高校では2年生の俺が、生徒会長を務めている。


 ***


 入学式を終え一段落ついた俺は、 生徒会室でくつろいでいた。

 生徒会室と言っても、ほぼほぼ俺の個室と言ってもいいだろう。

 なにせ生徒会のメンバーは、俺1人しかいないからな!!!

 なぜ1人しかいないかって?

 それは、俺が中3だった頃まで話が遡る。

 事が起こったのは中学三年生の冬である。

俺はこの時、既に志望校が決まっており、その学校に合格するべく受験勉強を頑張っていた。

 しかしある日、父さんと母さんが俺に話があると言ってきたのだ。


 「南が高校を創るっていうでしょ?そこの学費を、あなたなら教材費とかもろもろ込みで、無料にしてくれるっていうのよ! こんなおいしい話は、乗るしかないでしょ!!学校は家うちからは遠いから高校の近くにマンションを南が借りてくれるってよ」


 南というのは母さんの妹、俺からしたら叔母に当たる人だった。

 その南さんが学校を創立するということは、前々から聞いていたが、その学費がどうやら無償になるらしい。

 家うちは決して裕福ではない。

 しかし俺の第一志望の高校は私立だ。

 それに姉ちゃんも来年大学受験ときた。

 確かに経済面で今は少し厳しい状況かもしれない。

 俺は、そう思い乃木ノ沢高校への入学を快諾した。

 一人暮らしも、してみたいと思っていたので好都合だったのだ。

第一志望だった学校を選んだ理由は、特殊なカリキュラムが面白そうだと思ったからだが、実は経済面で少し気持ちが揺さぶられていたので、ここに来てこの話は考え直す良いきっかけとなった。

 ここまでが学校に入学した理由の説明だ。


 次に、生徒会長をしている理由だが、俺は、中学での成績で、学年トップを取っているくらい勉強を頑張っていた。

 なので乃木ノ沢高校には主席合格を果たした。

 そして入学式の前日、 俺は学校から呼び出しを受けた。

 理事長室に入ると南さんがいた。


 「やあ涼介くん。 久しぶりね。会いたかったわ」


 南さんはその後こう続けた。


 「あなたを、この学園への進学を勧めたのには理由があります。 単刀直入に言うと、あなたに生徒会長をやってほしいのです」


 それは突然の申し出だった。

 まぁたしかに、なんの対価もなく学費免除のうえに、マンションまで借りてくれるなんて思ってはいなかったが、まさか生徒会長をやれだとは……

ただ、普通に生徒会長をやるだけなら簡単、とは言わないまでも学費免除の対価としては軽いだろう。

 俺はこのことを告げられた後、 「普通に生徒会長をやるだけですか?」と聞いた。

 なぜ俺がこんな質問をしたのかと言うと、南さんは昔から、普通とは少し違うことをしようとするような人だからである。

 そしてこの質問の答えはもちろんNOだった。


 「いいえ。 涼介くんあなたには、この高校で1番真面目な生徒になってほしいの。 具体的に言うと一人称を『俺』から『僕』に変えて、その少し長めでセットしてない髪の毛もワックスとかを使って爽やかさが出るようにして、高校生活の中では、常にクールに過ごしてもらいたいの。ちなみに言うと生徒会メンバーは今のところあなた一人よ。今後増えるかもしれないけど、とりあえず今は1人で全ての仕事をこなして頂戴」


 俺はこのわけのわからん発言に対して、奇声をあげるように驚いた後に「なんでそんなことをするんですか!?」と聞いた。

 その答えは


 「面白いからに決まってるじゃない」


 というなんとも訳のわからないないものだった。

 まぁでもひとり暮らしもできるし、生活に困らない程度のはお金も貰えるというとてもありがたい条件なので、俺は生徒会長を、やることにしたのである。


 ***


 コンコン


 一人で回想シーンをやっているとドアをノックする、音が聞こえた。


  「南よ」


 「入ってどうぞ」


 俺は、南と名前を聞いた瞬間にそう言った。


 「やぁ、涼介くん。 今日の挨拶も実に真面目な素晴らしいものだったよ」


 「そうですか?そりゃ良かった。原稿書くの、割と苦労しましたからね」


 「こらこら、ここはまだ学校なのよ。そんな言葉遣いをして誰かに見られたら、今までの会長のイメージが崩れちゃうじゃない」


 「南さんしか、この口調で喋れる人がいないもんで、すみません」


 「あなたは校内で、頭脳明晰、超クールメガネイケメン生徒会長と言われてるのよ」


 「何じゃそりゃ…… 語呂悪すぎだろ……」


 言っけね、崩した敬語じゃなくて素のタメ口がでちまった。


 「まぁ、聞いてる人なんていないだろうから平気だろうけどね。まぁとりあえずあなたは、イケメンメガネ生徒会長なのよ」


 「はぁ、まぁ嫌われるよか良いですよ。バレンタインも物凄い個数貰えましたし……」


 今年のバレンタインは恐ろしいものだった。

 まさかあんなにもらうとはな……

 生徒会長補正すげぇわ。


 「おっと、私はこんな無駄話をしに来た訳じゃないのよ」


 「何かあるんですか?」


 「ええ、生徒会に新メンバーを一人入れることにしたわ」


 「!? マジですか?1年間一人でやってきた俺に遂に仲間がァ」


 仕事が楽になるうううううう。

 よっしゃあああああ!!!


 「1年生の、松岡雪乃ちゃんよ。この子は君が去年たたき出した入試の点数に限りなく近い482点だったから、生徒会に入れることにしたわ」


 俺は去年の入試で500点中485点をとった。

 そして生徒会になる条件は、南さんが俺の入試得点に合わせて、480点以上ということになったのである。

 なんか、かたっくるしいやつが来そうだけど、まぁ仕事が楽になるならいいか。


 「分かりました。たのしみにしておきます」


 「ええ、それじゃまたね」


 南さんはそう言って生徒会室を後にした。


 新しいメンバーか……どんな奴だろうなぁ。

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