第76話「否定禁止 その1」

 タッタッタッ!


 たった1つの足音が階段を3段飛ばしで響く。

 イスズの胸中にはジョニー号の事しかなく、一心不乱に階段を登った。


 そして、階段の切れ目、光が漏れてくる場所へ勢い良く飛び出す。


 今までの場所とは違い、そこは真っ白な何もない空間が広がっていた。

 何もない空間とは語弊があった。そこにはただ1台だけが居た。


「ジョニー号……」


 イスズの愛車、大型トラックのジョニー号。

 久々の再開に、感極まったイスズは、その一言をやっとのこと発すると、すぐに駆け寄った。


 あと少しで、ジョニー号の車体に触れるという瞬間、2人の仲を引き裂くように、イスズに蹴りが襲う。


「くっ! やっぱり、来やがったなヤロー」


 蹴りをなんとか受け止め、攻撃が来た方向にガンを飛ばす。

 

 足だけがそこに存在しており、胴体等は見当たらない。


「さっさと出て来いよ。でなきゃ、俺がブッ飛ばせないだろ」


 今までになく怒りを顕わにするイスズは、その足を睨み続ける。


 ズズッ!


 足から、胴、頭と順番に姿を現すとそこには学ラン姿の転生者、フーソが虚ろな瞳で立つ。


「おいおい。すでに随分、お疲れの様子じゃあねぇか。生気ってやつが感じられねぇぞ?」


 フーソはイスズの軽口にも答えず、がらんどうな目でただただイスズを見るだけだった。


「だが、そんな事は関係ないよなぁ! ジョニー号を攫いやがって、テメーは俺を怒らせた。そのツケは払ってもらうぜ」


 イスズは地面を蹴って、一気にフーソに近づくと、拳を叩き込む。


「……無駄」


 その拳は虚空へと吸い込まれ、フーソの背後へと現れる。

 転生者をワープさせるフーソの能力。勇者リミットもこれでやられた絶対回避。


「無駄かどうか、テメーが決めてんじゃねぇ!!」


 反対の拳を叩き込むが、それもワープさせられる。


「攻撃は全て無効化される。無駄。無理。無意味」


 フーソの否定の言葉と共に、イスズの顔面が蹴り飛ばされる。


「ッツ!!」


 口の中が切れ、うっすらと血が滲む。


「クソがっ! こんなもんで俺を止められると思うなよッ!!」


 イスズは腕を無理矢理引き、ワープの穴からの脱出を試みる。


「脱出は不可能」


「だから、テメーが決めんじゃねぇ!!」


 腕の血管が浮き出るほど、力を込めると、次第に腕が抜かれていく。


「オラァ!!」


 イスズの両腕の拘束は解かれ、自由を手にする。


「どうだ! やってみなきゃ分かんねぇだろッ!」


「不可解」


 フーソは表情は一切変えないが、その言葉から驚愕していることが見て取れた。


「喰らえっ!」


 イスズは再び、殴りかかる。

 しかし、その拳は再度、ワープさせられる。


「行動が理解不能。学習しない?」


「フンッ!!」


 今度はすぐに腕を引き抜くと、再々度殴りかかる。


「1回でダメなら、2回ッ! 2回でダメなら3回。男はなぁ! 一度決めた事は、最後まで、何度でも挑戦するんだよッ!!」


 何度も何度もフーソに向かって拳を叩き込む。


「おおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!」


「……無駄、無駄、無駄」


 全てかわされているように見えたが、その間隔は次第に狭まり、今ではなんとかフーソに当たる直前にワープに吸い込まれるまでになっていた。


「うおりゃぁぁぁぁああああああっっっ!!!!」


 ドンッ!


 ついに、百数発を経て、ついに、1発! フーソの胴体に拳を叩きこんだ。


「ぶふっ!」


 表情は無表情なのだが、胴体を殴られたことにより、空気が口から漏れ出す。


「さっきから、テメー、出来ない、出来ないばっか言いやがって。男なら、出来る事を探しやがれッ!!」


 一撃叩きこんだのはイスズの方なのだが、そこまでに費やしたエネルギーは明らかにイスズの方が大きく、額や腕には球の汗が浮かんでいた。


「……出来る、事」


 フーソの瞳にわずかな光りが宿り、そう呟くと、一瞬でイスズの後ろに回りこんだ。


 イスズの頭部目掛け、蹴りは放つ。


 イスズは腕でガードしつつ、反対の腕で反撃の一撃を放つ。

 足を受け止めたと思ったそのとき、イスズの腕は消え、蹴りがもろに頭部へ炸裂し、その場でよろける。


 しかし、よろけたのはイスズだけではなく、フーソも同じように、よろよろと後退する。


「……必中」


「ハッ! 防御を捨てて、絶対に攻撃を当てに来たのか! いいぜ! さっきまでより、断然俺好みじゃあねぇか!!」


 ここからが真の本番だとでも言わんばかりに両者ともが油断なく構えた。

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