第73話「信心禁止 その2」
アリの空気弾はコバトへと命中するが、まるで意に介さず、歩みを止めない。
「オレの攻撃は1発だけじゃあないぜッ!!」
無数の空気の塊がコバトに襲い掛かるが、コバトは左腕だけ庇い、残りはその身で受けながら、痛みなど一切感じないと言わんばかりに、怒りの表情を崩さない。
「おいおい。化け物かよ」
コバトは傷ついた体を左手で治すとついにアリの眼前へと辿りついた。
「射程距離内に入ったぞ! この木片がぁ!!」
右手を伸ばすコバトに対し、アリは一瞬ニヤッと笑ったように見えた。
「学習しないのか? さっきの繰り返しだぜ」
空気弾が再び、コバトの腹へと放たれたが、
「真の信仰の前ではどんな攻撃も無力に等しいッ!! この程度ッ!」
先ほどは吹き飛んだ空気弾を受けながらも、その場で耐え、一歩たりとも後ずさらなかった。
「わたしは、もう二度とあの方の姿を壊すことはせんッ!! 報いを受けろ!」
ガシッ!! とアリを捕まえる。
「や、やべぇ……」
アリは消されるのを危惧し、冷や汗を浮かべると、
ゴキッンン!!
「いぃ、てぇぇぇ!!!!」
アリの体が2つに折られる。
「一思いに死ねると思うなよッ! ここから徐々に消していってやる! 懺悔の時間だ。謝罪の遺言くらいなら聞いてやるッ!!」
「ふっ。ああ、そりゃ助かる。クロネこれでお前は助かった。お前だけは大丈夫だ。いや、マジに焦ったよ。無駄死にかと思ったぜ。だが、お前がくれたこの時間、有効に使わせてもらうぜ」
「何を言って……ッ!? 体が動かない、だと?」
「オレの魔法には相手の動きをある程度制御できるのがあるんだよ。本来はラッキースケベ用だから、転ばせたり、視線を動かしたり程度なんだけどよぉ」
「その程度で、わたしを止められると――」
「もちろん、思ってねぇよ。だから合わせ技だ。回復ができるあんたなら、オレの空気の塊くらい、無視して突っ込むと思ったぜ。だから、そいつを組み立てて牢を作った。お前が無視したそれは、背後と左右に配置され、あとは前面だけだ。少しの時間が稼げりゃ充分だろ?」
ガンッ!
空気の塊がまるではめ込まれるかのように、コバトの足元を襲う。
次に胴体、肩へと順次組み込まれていく。
「この、ビチクソがぁぁぁぁ!!!!」
「お前は、この戦いが終わるまでは絶対に出られない。神の野郎を助けることも、イスズを倒すことも出来ない。ましてやクロネを殺すことはありえない。絶対にな!」
「……アリ。……ダメ」
全てを理解したクロネは薄っすらと涙を浮かべながら、声を振り絞る。
「おいおい。そんな悲しそうな顔するなよ。まぁ、オレの命1つでここまで出来たんだ。むしろ上出来だろ。美少女とイチャイチャするってのはクロネ、お前のおかげで叶ったんだ。そしてお前を守れた。オレは充分にこの運命に納得してるんだ」
アリはニッコリと笑みを作り、クロネへと投げかけた。
「ダメッ!!」
クロネは
「……誰か。誰かアリを助けて!! 誰でもいいからッ!!」
クロネは大粒の涙を零しながら、力の限り叫んだ。
助けてくれる者は誰もいないと分かっていながらも、それでも叫ばずにはいられなかった。
「……誰か。……お願い」
クロネが自分の無力さに打ちひしがれていると、
「体の自由が戻って来たぞ! 貴様を消すのが先か、わたしが閉じ込められるのが先かッ! 神よ。わたしに栄光をッ!」
絶望的なコバトの言葉。
「大丈夫。オレは負けねぇ!」
アリの元気づけようとする声が逆にクロネを追い詰める。
「なんで、ボクはいつも……」
重要な場面で負けてしまうのか。
そんな言葉を最後まで言えず、クロネはただ、うずくまり、「助けて」と呟き続けることしか出来なかった。
「えーっと、よくわからないけど、くらえッ!!」
ザンッ!
空気の牢ごと、コバトの右手は切り飛ばされる。
「えっ!?」
「あれ? アタシ何か間違った?」
クロネが顔を上げると、そこには全身鎧の少女、ヤマトがこともなげに牢もコバトも切り払っていた。
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