第69話「無免許禁止」

 イスズはファクトから受け取ったチップを眺めると、ルーとアリを呼び寄せた。


 今回、乗馬するにあたり、イスズの両手が塞がっていた為とバランスを崩す恐れがあった為、アリはルーへと預けられていた。

 ルーは他の荷物と共にアリを背に巻きつけて馬に乗っており、荷を解きアリをイスズへと手渡した。


「ふんっ!」


 アリを手に受け取るやいなや、イスズは思いっきり地面へと叩きつける。


「痛ぇぇ!! 何すんだよ!!」


「何するんだはこっちのセリフだッ! こっちは必死にしがみついてたってのに、ヤマトちゃんの腰にしがみつけて羨ましいだの、密着しすぎだの恨み言を延々言いやがって」


「恨み言だけ言ってた訳じゃない! ちゃんとルーちゃんの背中のぬくもりも味わってたわ!! もう少し、荷物が落ちて尻にまで到達できたら最高だったが、イスズが安全運転を強要したせいで位置は全然変わらなかったぞッ!!」


「なるほど、それで八つ当たりか」


 もう一度アリを地面へと叩きつけようと振り上げる。


「わあッ!! 待て待て、悪かったよ。だから止めてくれ。お前、本気で乗馬ダメだったんだな。ちゃかして本当に悪かった」


 イスズは鼻をならし、ゆっくりとアリを置いた。

 今度はルーに声をかける。


「お前。確かスマホを持っていたな?」


「うん、持ってるけど、イスズくんに渡すと壊されそうなんだけど……」


 冗談めかしつつ、ルーは、「壊さないでよ」と念を入れてからイスズにスマホを渡した。


 イスズは無言で受け取ると、チップが入りそうな場所を探す。


 しかし、なかなか見つからず、アリへと声をかける。


「おい。スマホはわかるか?」


「ああ、それとなくなら。で、イスズが探してるのはSDカードの挿入口だろ? 最近のやつだと、変なハリガネがないと入れられないが、ファクトはそんなミスしなさそうだし、バッテリーのところじゃないか?」


 アリの意見を聞き入れ一周見回した後、躊躇無くバッテリー部を開けた。


「えぇ!! ちょっと壊さないでって言ったじゃん!」


「うるさい。壊してないから安心しろ!」


 SDカードの入り口を見つけると、ファクトから受け取ったチップを差し込んだ。


 そのチップの中には動画が入っていたようで、イスズは再生した。



 動画は少し上からの映像で、すぐにロボット『GZ』からの録画だと見て取れた。


 すでにジョニー号の近くで、ファクトとフーソが何やら言い争いをしているようであり、タクシーのドライブレコーダーと同じで危機を感じたファクトが録画モードにしたのだろう。


「む!? こいつ!!」


 思わずイスズが声を上げた時、映像には、ジョニー号に乗り込もうとするフーソが映し出される。


「俺のジョニー号に勝手に乗ろうとしてるぞ!! 誰か止めろ!」


「えっと、イスズくん、これ映像だから……」


「イスズ、なんか彼女が他の男にナンパされてるとこを目撃したみたいになってるぞ」


「わかってるが、こいつ、無免許だぞッ!! 絶対普通免許取得から3年経ってないだろ!! そんなやつに俺のジョニー号は乗せられん!!」


「無免許って、そこかよ」


「イスズくん、お父さんみたいだね~」


 呆れた声を出すアリにニコニコとしながら眺めるルー。

 そんなやりとりに関係なく、動画は進んでいく。


 乗ろうとするフーソをファクトが止めに入ると、鋭い蹴りが繰り出されるがパワードスーツを身に纏ったファクトも負けておらず、蹴りを防御しつつ、フーソを掴み、外へと転がり出る。


「良くやった!!」


 イスズはLIVEではない格闘技に声援をおくるお父さんのようにデカイ声を急にあげる。


 ジョニー号と離れたことにより、『GZ』が使えるようになったファクトの反撃が始まると思ったそのとき、フーソがワープしてくるのと同じように3人の人物がにゅっと現れた。


 全員が男で、一人は道着に袴の和装、もう一人はロングコートに身を包み、最後の一人は商人風の小綺麗なチュニックとズボンだった。


 GZが稼動したのか、視点が動くと同時に狙いを定め胸部から熱線ブレスト・バーンが発射される。

 フーソ及び3人に当たる前に突然にブレスト・バーンは掻き消された。

 驚くファクトを尻目に、和装の男が刀を抜く刹那の瞬間で、GZはバラバラに斬られ、画像が天地逆さになった。

 トドメと言わんばかりにフーソがワープでファクトの側へ寄ると蹴りを瞬時に数発も叩き込み、パワードスーツが破壊される。


 うずくまるファクトにもう用はないのか、それ以上の追撃は行わずにフーソはジョニー号の元へと戻る。

 それを合図に、商人風の男が不満そうに懐から袋を取り出すと、それが一瞬で消え地面が揺れ出し、塔が現れ始めた。


 ファクトはその混乱に乗じて、ズリズリと体を引きづり、GZの元へ辿り着き手を伸ばしたところで動画は終わっていた。


「ふ~ん、こいつらがボクちゃんたちの敵ってことだね?」


 ルーはニタリと凶悪な笑みを浮かべながら、フーソと3人の男たちの顔をその目に刻みつけた。


「今回女性キャラがいないってどういう事ッ!! ふざけてんのか神はッ!!」


 謎の怒号をあげるアリに同調するようにイスズも言葉を続けた。


「ああ、ふざけてんだろうよ。あの神はッ! こいつら倒して神にもお灸を据える。そしてジョニー号を取り戻す。絶対にだッ!!」


 イスズは塔の天辺てっぺんを睨みつけ、全員に呼びかけるように叫んだ。


「行くぞ!」

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