第66話「巻き込み禁止」
ヤマトはフーソを見据えながら、吊られた状態で意識を失っているリミットとペタリと地面に座っているテンペストに気を回す。
「リミットはかなりやばそうね……。ちょっとテンペストッ! あんた回復みたいなことできるんじゃないの!? さっさとリミットにかけてやりなさいよ!」
「我が出来るのは、水による止血と細胞の活性化で回復ではない」
「そういうのどうでもいいから、友達なんだったらさっさと助けなさいよ!」
テンペストは言われるがままにリミットの傷口を水で覆う。
「なぜ、我が小娘の言う事を。リッ君を助けるのはどのみちやる予定だったが、やる前に言われるとやる気を失くすというか……、貴様は我のお母さんかッ!? て話だ!」
「ちょっと、この美少女のアタシのどこが母親に見えるのよッ! 子供どころかまだ付き合ったことも――」
話の途中ではあったが、そんなことはフーソには関係なく、剣のように鋭い蹴りを放つ。
「なァ!! 今、熱烈アタックしてこないでよねッ!!」
ヤマトはギリギリで避けると、破れかぶれで剣を振るう。
もちろんフーソには当たりそうにない攻撃だったが、それでもワープで距離をとった。
「ふ~ん。すごく厄介な能力だけど、なんとかなりそうね」
ヤマトは体力の限界もあり、瞳の色が銀へと変わるがそのことに焦りの色は見られなかった。
今度はヤマトから仕掛けに飛び出す。
フーソへと接近すると、繰り出された蹴りを軽くいなし、懐へ潜り込むと剣を振るった。
「当然、ワープして避けるわよね」
その通りに、フーソの体は消える。
「たぶん、この辺っ!」
ヤマトは何もない空間に剣を振るうと、ちょうどフーソが現れ、体を切り裂く。
「やった。大当たりね!」
フーソの体からは斬られたにも関わらず、一滴の血も流れず、内部の骨や筋が見えるだけだった。
無表情でその様を眺めると、体の動きに支障がないかだけを確認し、あとは放置した。
「えっと、アタシが斬っておいてなんだけど、せめてもう少し痛がったり、傷押さえたり、リアクションしてくれない?」
「この体には不要」
それだけ述べた後、フーソは先の立ち居地、ヤマトの行動を分析し、なぜ斬られたかを解析する。
「……視線の動きで追尾されたと結論。修正加える」
すぐに答えを導き出すと再び姿を消しワープした。
(視線ではアタシの左だけど、たぶん逆かしら? 四方どこから来ても、あの素人臭い動きならパワー、スピードがあってもなんとかなるわね)
しかし、フーソの行動はヤマトの予想を超えていた。
足だけがヤマトの頭上に現れ、ルーのときと同じように蹴りを放ってきたのだった。
不意の頭への衝撃に、遅れてガンッという金属を叩く音が聞こえるような錯覚を覚える。
「ッ!? 上ッ!?」
兜は頭から抜け、開けた視界でヤマトは足だけのフーソを見て、何をされたか理解した。
「同じ手が利くとは思ってなかったけど、ここまでとはね」
フーソは追撃を加えるべく全身を顕わにする。
足元のヤマトの兜に気を止めることなく、踏み潰し、ヤマトへと接近する。
「ま、予想外のことをしてくるのはイスズもだけどね」
ヤマトの言葉をほぼ同時にフーソに向かって解説席の机が投げられていた。
※
イスズとしては勇者リミットがどうなろうとどうでもよかった。しかし、案内役とはいえ、一度は同じトラックに乗った仲のルーをぼこり、クロネの成果を無にしようとする。なにより――。
「テメー、折角の兜を壊してんじゃねぇ!!」
ヤマトの兜を壊したことにキレていた。
投げられたテーブルはフーソを捉え、ついでにヤマトも巻き込んだ。
「なんでアタシまで攻撃すんのよッ!!」
「勝手に兜を取ってるんじゃないッ!! むしろお前を狙ったんだこの痴女がッ!!」
「兜は不可抗力でしょ! だいたい顔を見せただけで痴女ってどういうことよ!!」
イスズとヤマトが罵り合っていると、フーソは何事もなかったかのように立ち上がり、新たな排除の対象としてイスズを認識した。
その瞬間――。
ズキンッ!!
頭に強烈な痛みが走り、その場で頭を抱えヒザをつく。
「ん? どうしたんだそいつ」
「きっとイスズのテーブル投げの打ち所が悪かったんでしょ!」
「そんな様子じゃないが……」
フーソは苦痛に顔を歪めながら、イスズを視界に捉え、ジッと見つめる。
「銀河イスズ。トラック乗り? あなた? 貴様? お前? はあのときの……」
今までとは違い、とても人間らしい声音で話すフーソにイスズは違和感を覚える。
フーソは呻きながらも言葉を発した。
「ぐぅうう。神はぼくとあなたを戦わせる為なら、なんでもするはず。大切なものには気をつけて……」
痛みはさらに増し、喋ることもできなく、「ガガガァ」と呻き声しか口から出せなくなった。
「最優先排除対象、銀河イスズ。排除、削除、消去、現状では不可能。一時帰還する」
急に当初の無機質な声に戻ると、フーソはその場から消え去った。
「いったいなんだったんだ? それに大切なものに気をつけろって」
不穏な言葉を残し立ち去ったフーソに、イスズは怪訝さを顕わにし、眉根を寄せた。
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