第65話「自己犠牲禁止」
円形闘技場内にて、フーソはなんの感情も伴わない目でルーを見下ろしていた。
ただ粛々と転生者に
狙いはルーの首筋。頚椎へ。一撃のもと、苦しまずに殺す為に。
「それ、以上。手を、出すなッ」
リミットはボロボロの体を無理矢理、気力のみで起こし立ち上がった。
ヒザは振るえ、足元はおぼつかず、右腕はだらんと垂れ下がり使い物にならない有様ではあったが、それでも立ち上がった。
フーソは
「その傷では動かない方がいい。ここへ来る前に出血多量で死ぬ」
「ずいぶん、親切、だな……」
「あなたは敵ではない。転生者が死ぬのは本意ではない。動かないでほしい」
心配しているような声音では一切なく、原稿用紙に書かれたセリフを読むかのようだった。
しかし、リミットは逆にその反応こそ、聞きたいものだった。
(こいつは標的以外に危害は加えない。なら僕が取れる策があるッ!)
ニヤリと笑みを浮かべると、トンファーから炎を最大火力で噴出させる。
「止血、できれば問題ないな」
銃身、トンファーの殴打部は熱によって赤く染まる。
リミットはそれを自らの傷へと押し当てた。
「ぐああああぁあああぁぁぁぁ!!」
あまりの苦痛に叫び声を上げるが、その手を放すことはなく、傷は無理矢理に塞がれて行く。
「ハァ、ハァ、これで、まだ……」
リミットは今にも倒れそうになりながらも、ゆっくりと1歩ずつ、歩を進める。
「ルー、今、助けるよ」
少しでもルーへと近づこうと進みながら、フーソへと語りかける。
「キミは転生者に仇なす者を倒すと言ったな。なら、僕を倒すべきだ」
その言葉にフーソはピタリと動きを止めた。
まるで機械が次の動作を待つときのようにピクリともしない。
このセリフを言えば、行動を止めるだろうとリミットは予測し、事実その予測通りの行動をフーソは示した。
リミットは落ちていた自身の剣を何とか拾い、杖のようにしてなんとかその場に立って留まる。
「ルーに転生者を殺すよう指示を出したのは僕だ。僕を倒さない限り、第2、第3の刺客が転生者を襲うよ」
「……リミットくん、なんで」
ルーは涙を浮かべ、ぼやけた視界でリミットを捉える。
なぜそんなウソをつくのか、ルーには理解できなかった。
いや、本当は理解はできたかもしれないが、理解するのを拒んでいた。もし理解してしまったら、自分がリミットのためにしようとすることが、未練が生まれ出来なくなってしまうかもしれなかったから。
「理解した。勇者リミットを排除の対象に変更する」
フーソの機械的な声が聞こえたと思った瞬間には、フーソはルーの側を離れ、リミットの眼前へと迫っていた。
「これより排除する」
リミットは技もなければ大した力も込められてもいないが剣をフーソに向かって振るう。
フーソは避ける素振りすら見せず、ただ立っていただけだったのだが、リミットの剣はダメージを与えるどころか触れることすらできなかった。
「何ッ!?」
リミットの剣と腕は途中で切れたようにそこだけがフーソの背後へと移っていた。
「こいつの能力はやはりワープ!?」
「答える義理はない」
淡々とした口調でフーソは応えながら、膝蹴りをリミットの腹部へと叩き込む。
「ぐっはぁっ!! このパワーはっ!?」
重く鋭い一撃はリミットが考察した最強の身体能力と同程度のパワーがあり、ワープとパワーの2つの能力があるという事実にフーソのやばさを実感する。
こいつがルーの元へ行ったならば、確実にルーは死んでいただろう。その前に助けられたことをリミットは良かったと思い、同時に自分の死を悟った。
「リミットくんッ!!」
ルーは起き上がり、リミットを助けようとするが、
「来るなッ!!」
リミットの
「な、なんで……」
「ははっ。こんな方法で格好悪いけど、好きな子くらい守らせてよ」
リミットはぎこちないながらも、なんとか笑顔を作るとルーへと向けた。
そんな2人のやり取りを気にも留めず、フーソは再び膝蹴りを放つ。
先の一撃で無理矢理閉じた傷も開き、血が溢れ出していたリミットはこの一撃で完全に沈むはずだった。
ガンッ!!
「――ッ!! なんてパワーよ。アタシの剣が曲がったじゃないッ!!」
瞳を金色に輝かせ、全身鎧を纏った人物。『元』勇者ヤマトがギリギリのところで攻撃を受け止めた。
「アタシとクロネの獲物を勝手に奪ってんじゃないわよッ!!」
ヤマトはフーソへと拳を振るうが、フーソは顔色1つ変えずにワープして回避する。
「……なぜ、あなたが」
リミットはそれだけ言うと力尽きたのか倒れそうになる。
ワープさせられた腕は固定されており、抜くこともできず、倒れることすら許さなかった。
「全く、人の獲物を奪おうとするわ、ルーの恋路を邪魔するわ、あんたはアタシらの敵ってことでいいわよねッ!!」
ヤマトは折れ曲がった剣を突きつけながらフーソに宣言した。
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