第61話「勇者禁止 その5」
「ちょっと、アタシのイス取らないでよ!!」
地面に倒れながら発するヤマトの抗議にイスズは
「お前は空気イスでもやってろ。なんでも空気イスは
「はんっ! このアタシのパーフェクトボディに必要だとでも?」
そうは言いつつもなぜか空気イスをやろうとするヤマト。しかし、その瞬間ヒザ裏にガツンッと衝撃が走った。
「なっ!?」
バランスを崩し、倒れこみそうになるとストッとイスへ腰が落ちた。
「へっ? イスがある?」
「残念だったね。ヤマトちゃん。空気イスはこのボクちゃんがもらったよ!」
ウインクしつつルーはヤマトを見る。
ヒザ裏への衝撃はルーのイスが差し込まれた為のものだったようだった。
「あんた別にダイエットなんてしなくてもいいんじゃ?」
「ふっ、甘いよ、甘すぎるよヤマトちゃん。いつの間にか迫っている魔物、それが脂肪。常日頃からそいつに備えておくのが出来る女ってヤツなのさ」
すでにルーの足は震え始め、笑顔が引きつっている。
そんな様子をリミットは苦笑いを浮かべ眺めていた。
「ちょっ、さっきまですごいシリアスな流れだったのに、なんだこれ?」
「……余裕? シリアスにしたいなら、自分でするべきッ!!」
クロネの声で我に返ったリミットは背後の魔法陣に注目した。
「そう言えば、まだ、発動中でしたね」
クロネの魔法陣は漆黒から徐々に灰色へと変わり、さらには銀色へと変化していった。
「その魔法は。僕らの固有魔法と同じッ!?」
「……アリがあなたたちの魔法を分析、解析して理論を解明しワタシ用に落としこんだ。ワタシもただ魔力切れで寝ていた訳じゃない」
その言葉を引き継ぐようにアリが説明を続ける。
「その通り、それによって今まで1割も成功しなかったクロネの魔法が約8割の確率で成功するようになった。さらにやる気に満ちた今のクロネなら成功は確実だぜ! 魔法陣の名前は、勇者パーティが世界に固執しているようだったからな、こういう名前にしたぜ!」
『The world is mine』
「世界はワタシのものか、傲慢だな」
リミットは銃口をクロネへと向けると躊躇なく撃ち出した。
「……技の発動中は攻撃しないのがルールでは?」
銃弾はクロネの前に現れた土の山に吸い込まれる。
「僕は一度もそんなことは言ってないですよ!」
リミットは銃では発動を防げないと確信し、剣を持ち駆け出す。
「……土は基。体となり土台作る」
リミットの周囲が炎に包まれ疾駆を阻害する。
水の魔法を駆使し炎を消すと、クロネの周囲に熱が集まっていくのが感じ取れた。
「……火は活力。血脈となり動きとなる」
火が消え、熱がクロネへと流れると、今度は氷がリミットの足にこびり付き、行動を妨げる。
気を足から放出させ氷を割る。
「……氷は死。皮となり固定する」
すでにリミットは剣が届く位置にまでクロネに迫っていた。
横薙ぎに剣を振るわんとすると、ズンッと重くなり、地面へと落ちる。
「……重力は出会い。臓となり運命となる」
「生まれろ!! 新たなる同胞よッ!!」
クロネの声と共に、銀色の魔法陣は砕け、周囲は銀の光に包まれた。
※
光が収まり、なんとか目を開けられるようになると、クロネの側にはまるで影のように寄り添うように立つ人型のものが居た。
明らかに土からできた肌の色。
目や鼻がないだけではなく、筋肉も何もないひょろい体。そんな土人形をわざわざリスクを犯してまで出すほどとは思えなかった。
しかし、直に対峙しているリミットだけは違った。
そのモノが放つプレッシャーに無意識の内に一歩後ずさっていた。
土人形が一歩足を出そうとした瞬間、生まれたての小鹿のように足が震え、ガクンとヒザが折れ、地面に付く。
「なんだかわからないけど、今だッ!」
リミットは術者であるクロネに目掛け剣を振るう。
しかし、その刃が届くことなく、いつの間にか寄り添う土人形の腕によって阻まれた。
土人形は氷の剣を作り出すとリミットに向かって振るい始める。
「くっ!!」
なんとか受け止めるが、土人形の猛攻は止まらず、その全てを受け止めるが、次第に後退せざるをえず、クロネとリミットの距離が開いていく。
(スピード、パワーともにヤマトさんよりやや落ちる程度。こいつ1体だけならなんとかなるけど、果たしてあのとき感じたプレッシャーでこの程度なのか?)
リミットは防御度外視で攻撃してくる土人形の隙をついて、銃口を付きつけ、マガジンに残っている弾丸を全弾撃ち込んだ。
土人形は盛大にぶっ飛び、動かなくなる。
リミットはマガジンを入れ替えつつ、クロネへ視線を向ける。
「魔法を複合させて生物を生み出す。とても僕では真似できない、まるで神のような魔法でしたが、所詮それだけでしたね。覚悟はいいですか?」
装填が終わった銃をクロネの眉間に狙いを定める。
「……何を言っているの? 彼だって悲しむ時間くらい必要」
クロネの意味深な発言に、リミットは眉根を寄せて怪訝な顔つきになる。
「そっちこそ、なにを言っているんですか?」
ゾクッ!
リミットは背後から凄まじい圧と悪寒を感じ、体が勝手にその場から飛び退いた。
「ハァ、ハァ、いったい何が?」
冷や汗を流しながら、周囲を観察する。
「ッ!?」
そして気づいた。
いつの間にか、自身が作り上げたサソリの死体がなくなっている事に。
「……別れは済んだ?」
クロネが問いかけると、そこには黒い甲冑を纏った土人形が立っていた。
その甲冑はおかしな事に金属ではなく、まるでカニの殻のようなキチン質で出来ているようだった。
「まさか、そいつは」
「……彼は、生者に寄り添い、死者を悼むことが出来る。そして、その遺志を! 力を! 受け継ぐッ! ワタシたち魔物の絆の力、その身を持って体験しろッ!!」
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