第58話「勇者禁止 その2」

「ここからは、本気で倒しに行きますよッ!」


 リミットはクロネから距離を取ると、剣を天へと掲げ、そこから地面へと突き刺した。

 まるで演劇のような大きなアクションで行われる。それをクロネは目を細めて変な者を見るような目で見る。


 リミットの周囲に眩く白い光が発生するが、さらに演劇じみた行動は続く。


「1人は皆のために、皆は1人のために、勇気を持ちて、悪を打ち倒さん! 魔法陣展開ッ! 喰らえッ。これが僕の固有魔――」


 まだまだ何かを喋りそうなリミットに氷柱つららが襲い掛かった。


「うおっ!! 危なッ!?」


 なんとか横に飛び退き、氷柱を避ける。ギリギリではあったが避けきったリミットは次撃に備えて、すぐに構える。


「……隙だらけ。ふざけてる?」


「ハハッ。そういう訳じゃないですけど」


 リミットが苦笑いを浮かべていると、客席から、ある1つの声が上がった。


「Boo~~~!! Boo~~~~~~ッ!!!!」 


 ブーイングの嵐であった。

 クロネの小さな体には過ぎた声たちだったが、特にその声を気にすることなく、リミットを再び攻撃する。

 その度にブーイングは激しさを増していく。


「あ~、すごいブーイングですね。普通は技を出す前の詠唱えいしょう時は攻撃しないのが暗黙あんもくの了解だったりするからね~。勝手に解説席に座ったイスズくんはどう思う?」


 頬杖ほおづえをつきながら、指でテーブルをコツコツと不愉快そうに叩いていたイスズは、話を振られたのを皮切りに、立ち上がって叫んだ。


「ガタガタうるせぇ!! 本気で戦ってるヤツにブーイングなんかしてんじゃねぇ!!!!」


 近くの壁をブン殴るとドゴンッと轟音を立てて大きくえぐれた。

 それを見た観客は静まり返り、先ほどまでの喧騒がウソのようだった。


「ブーイングなんかしてるんだったら、ここへ降りて来い! 勇者の仲間として俺が直々にブッ飛ばしてやるよ!」


 当然だが、そこに名乗りをあげる者はいなかった。


「それにリミットもリミットだ。テメーのパーティたちは全員隙を見せず戦いの中で固有魔法を出していたぞ。隙だらけの技を出そうとするお前の方が悪いだろッ!!」


 イスズの突き刺すような視線を受けながらも勇者リミットは少しも怯むことなく、堂々と答えた。


「もちろん、僕だって、無動作で発動できますよ。でもここはリングで観客がいます。皆にも楽しんでもらってこそ、皆の期待に応えてこその勇者だと思うんですよね。まぁ、『元』魔王相手にそんな暇はなかったって話ですね」


 先ほどとは打って変わり、リミットは狙われないように走りながら、周囲に白い光を発生させる。

 抜け目なく突き刺した剣も抜き取りながら、小さく声を上げた。


Welcome to the Worldこの世界へようこそ



 リミットの周囲の白い光はまずルーの方へと伸び出した。

 そしてルーへと触れると、次に観客席に移り、観客1人1人へ触れて拡大していく。


 ほとんどの観客に触れた光は、円形闘技場という建物の形通りの大きな円を描いた。


「これが僕の固有魔法。そしてこれが発動した今、クロネさん、あなたはもう僕には勝てない」


 リミットの言葉には耳も貸さず、クロネは氷柱を打ち出した。

 すると、リミットの背後にも同じ大きさの氷柱が現れ、相殺そうさいされる。

 クロネは驚きに一瞬顔を歪めるが、すぐに次の攻撃に移った。


 クロネの頭上に幾多もの火球が生まれ、リミットへと襲い掛かるが、全く同じものがやはりリミットの頭上に現れ、相殺する。


「……ッ!?」


 クロネはこの固有魔法は相手の魔法を相殺する魔法だと考え、拳による直接攻撃を狙った。

 氷の籠手を装備し、自身の能力値を上げる魔法を掛け、リミットへと向かった。

 しかし、そこでクロネは信じられないモノを見たのだった。

 

 リミットの両の瞳が銀色に変化していく。そして先ほどより数倍早く動き、クロネの背後を取ったのだった。


「アクセル・アクセス。なるほど便利な技だね」


 リミットは隙だらけのクロネの背中に剣による一撃を放った。


「くあッ!」


 クロネは悲鳴を上げつつも、わざと派手に転がり、その勢いのままリミットから距離を取る。


「あれ? 完全に斬ったと思ったんですけど、その防具のおかげかな?」


 クロネの背中はローブが少し斬れただけで、肉にまでは達しておらず、打撃としてのダメージはあったが、行動不能になるような致命傷は防がれていた。


「……今のはヤマトの。ということはもしかして、この固有魔法は」


 クロネは信じられないものを見たが、事実として受け入れ、それが起きた事を加味してリミットの能力を再検証して推測した。


「ええ、たぶん、それであってますよ」


 リミットはニッコリと微笑むと、自身の固有魔法の能力を明らかにした。

 

 見聞きした技や魔法を、『コピーする能力』だと。

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