第57話「勇者禁止 その1」
リミットはスッと立ち上がるとウンファルの元へと駆けつけた。
「2人ともよく頑張ったね」
リミットはウンファルを抱えると、多少ふらつきながらも控え室へと向かっていく。
控え室の長椅子へウンファルを寝かせると、リミットはリングへと戻った。
「ん? イスズさんじゃないのか?」
リングの中央にはローブを目深にかぶったクロネが
イスズはいつの間にか先ほどまでリミットがいた解説席にドカッと座っていた。
「勇者と戦うのはトラック乗りじゃなくて、魔王だろ。普通」
「普通のトラック乗りならそうですけどね……」
リミットは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「で、僕がクロネさんに勝ったら、それでこちらの勝ちでいいんですか? それともやっぱりイスズさんが
イスズは、鼻で笑うと、「そんな漢らしくないことするわけないだろう」と続けた。
「
「クロネは負けん。言質とか小難しいことをわざわざ言う必要がないな」
イスズとリミットの視線がぶつかり合う中、クロネはイスズの言葉に静かに拳を握りしめた。
魔物たちのため、イスズやヤマトの期待に応えるためにも絶対に負けられない。そんな思いを抱きながら、クロネは前を向いた。
「相手はこちらですっ!!」
いつものような小声ではなく、イスズから注意された事を思い出しながら、大きくハッキリとした声で勇者リミットへと応じる。
その声にイスズは満足そうにニヤリと笑みを作り、リミットは目を点にして驚いた。
「そんな大きい声が出せるんですね。いえ、まずはすみません。僕の相手は『元』魔王、あなたでしたね」
リミットは剣と銃を抜くとクロネに向かって構えた。
「ルーッ!! 合図をッ!」
「はいは~い。それじゃ、本日のラストイベント! 勇者リミット対『元』魔王クロネ始めるよ~。レディ、ファイトッ!!」
開始の合図が発せられると、リミットはクロネへ向かって真っ直ぐ走り出す。
クロネはすぐに魔法で向かえ討とうとしたとき、リミットの口が、「話しがしたい」と動くのを見て
「……全然本気じゃない」
リミットの一撃は、ただ当てただけの一撃で攻撃の意図は見て取れず、本当に会話を望んでいるようだった。
「取引をしないか?」
リミットはクロネにだけ聞こえる声量で話しかけた。
「僕が望むものは平和だ。クロネさんは?」
「……もちろん、平和」
「なら、話は早い。今までテンちゃん。テンペストがやっていた役割をクロネさんがやってくれればいい。そうすればあなたは魔王と平和両方を得られますよ」
「……役割?」
「ええ、定期的に魔物と僕ら勇者パーティとが戦います。小さな小競り合いをしていれば、民衆は納得します。そしてお互いに大きな戦争を避けるよう立ち振る舞って有力者を抑えれば、小さな犠牲でしばらくの平和が訪れます。現に今現在それなりに皆平和を享受していますよね」
「……つまりこちらから生贄を出せと?」
「まぁ、そういうことになりますね。でも獣みたいな魔物でいいんですよ。何も知性ある仲間を出さなくていいんです。どうですか?」
クロネは体をプルプルと震わせる。
「……確かに、その方法なら定期的に4、5ヶ月程度の平和が訪れるかもしれない」
「はい。その通りです」
「でも断るッ!!」
クロネはリミットの剣を弾くと、睨みつけながら声を上げた。
「……何が、……何が獣でもいいだと! ボクにとっては皆大事な
「それは、人間と魔物、どちらかが敗北するまで続けるってことですよね? 僕のやり方よりはるかに多くの血が流れますよ」
リミットは真剣な眼差しでクロネを睨み返す。
この提案には決して、楽をしたいとか利益を得たいといった物はなく、純粋に人間と魔物の平和を願ってのものだと言わんばかりの眼力だった。
「
「やれやれ、お互い平和を願っていても、その方法は全然違う。平行線のように僕とあなたが交わることはないようですね。なら――」
クロネもその言葉に頷き、リミットと同時に同じ言葉を発した。
「「ここで決着をつけるッ!!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます