第51話「冒険者ギルド禁止 その2」
ギルドマスター、ゲベェル。
その体躯は熊のように大柄で、日々の絶え間ない努力の跡を伺わせる。
外見にはあまり
「先に言っておくが、そこで
ゲベェルは他のギルドの者たちを見回しながら、威圧的に告げる。
その様子をイスズは不機嫌に見つめつつ、話が終わると同時にゲベェルに肉迫するほど近づく。
「なるほどな。今流行りの
ゲベェルは鼻先にまで近づくイスズに臆することなく、鼻で笑う。
「ふんっ。私を恐れるとするなら、それはこの武力の所為だろう。だが、力こそ正義のこの異世界で、武力を否定するのか?」
「いいや、全然。むしろそっちの方が分かり易くていいよな。こっちの意見を通したきゃ、テメーに勝てばいいんだろ」
「出来たらの話だがなっ!」
「上等ッ!!」
イスズは凶悪な笑みをゲベェルへと投げかける。
それに応えるようにゲベェルも口角を吊り上げる。
「いい度胸だ。私はお前みたいなヤツは好きだぜ」
「ああ、俺もあんたのことは憎めそうにないな」
2人共が、「ハッハッハ!」と笑いだし、和やかなムードが訪れた。かのように周囲には見えたが、おもむろにイスズがアリを左手に持ち替えたのを合図に、2人の右手が動いた。
ゴンッ!!
鈍い音と共に、両者の拳がお互いの顔面を捉えていた。
「ぐぅっ!」
「ぐぐぐっ!」
歯を食いしばる声ともつかない音が口中から漏れ出しつつも、両者とも一歩も退かなかった。
拳が離れると、ゲベェルは口から流れる一筋の血を拭い、イスズは真っ赤に染まった唾を吐き捨てた。
「良い拳じゃねぇか。お前が他ギルドの代表で来た意味が分かったぞ」
「そっちこそ、転生者のクセに気合の入ったパンチだったぜ」
両者の間には見えない火花が散り、誰も近くへと寄れない雰囲気をかもし出していた。
「え、えっと……、オレもこの戦いに参加すんの?」
強制的にイスズの元へ居たアリは杖の体でなければ、滝のように汗を流していただろう。
なんとか、逃げたい
「むむっ。インテイジェンスウェポンか。それがお前の
「いいや、俺のはこれだ」
イスズはアリをサンタに向かって投げると、拳を掲げて見せた。
「なるほど。私と同じだな。しかし、いいのか? その杖はレベル188の逸品だぞ?」
ゲベェルもゴツゴツとした岩のような拳を見せ付ける。
イスズはその強固な拳を見つめるが、違和感を覚え、疑問が思わず口から漏れた。
「レベルってなんだ?」
「そうだな。説明させてもらおう。公平さこそが、正義である為に必要だからな」
ゲベェルはイスズを見据えると、値踏みするように眺める。
「銀河イスズ、レベル50か、かなり短期間で鍛えているな。クラスはトラック乗り。能力は最強の身体能力か、装備は特筆することのない普通の服だな」
名前と職業まで言い当てられ、イスズは怪訝な表情を見せる。
「どういうことだ?」
「私の固有スキル、『ゲームウィンドウ』全てがゲームのように見えるスキルッ!レベルが上がれば身体能力が上がり、魔法や技術は習熟度がわかり効率的に伸ばせる。そしてっ! 私のレベルはカンストの255だッ! 圧倒的レベル差でも、立ち向かうかッ!?」
「レベルだなんだのとガタガタうるせぇ! どっちが強いか確かめるために戦うのが漢だろうがッ!」
ゲベェルは目を丸くして、その言葉を聞くと、ふっと口元を緩ませた。
「悪い。今のは私の失言だ。許してくれ。さて、それではヤリ合おうか」
すっと腰を落とし、正拳突きの構えを取る。
その右拳には、まるでオーラを
一方イスズは型もなにもあったものではなく、ただただ大きく振りかぶる。
静まり返った空気の中、その雰囲気に耐えかねたサンタがゴクリと喉を鳴らすとそれが合図かのように2人は同時に殴りかかった。
ドンッ! っとゲベェルの拳が先に胴を捉え、打ち貫く。
「ぐっぐぐ……」
イスズは苦しそうな声を漏らすが、グッと歯を食いしばり、拳を緩めることはなかった。
倒れないように揺るがないように、一歩踏みしめる。
「オオオッ!! 運転は慎重ッ!! ケンカは根性ッ!!!」
先に攻撃を与えていたこともあり、完全に意表を衝かれたゲベェルはイスズの拳をもろに顔面で受ける。
「なっ!?」
拳によるダメージでゲベェルは思わず膝をつく。
立ち上がろうとするが、たった一撃にも関わらず膝が笑い、満足に立ち上がることができなかった。
無理矢理に立ち上がろうとしたところで足がすべり、地面へと倒れ伏す。
ゲベェルは避けられないとは思いつつも次の攻撃に備え、イスズの動きを注視する。
しかし、いつまで経っても攻撃は来なかった。
「なぜ、攻撃しない……。同情のつもりか?」
「倒れているヤツを殴る趣味はないッ! 負けていないというなら立ち上がれッ!!」
ゲベェルは気合の雄叫びを上げ、両足が震えて今にも崩れ落ちそうだが、立ち上がった。
その姿を見たイスズは、ふっと笑みを浮かべてから、渾身の力で満身創痍のゲベェルにトドメの一撃を放った。
※
流石と言うべきか、すぐに意識を取り戻したゲベェルは周囲の様子からも自分が負けたことを悟った。
「どうやら私の負けのようだ。なんでもそちらの条件を聞こう」
あぐらをかき、敗者とは思えぬ強い眼光で答える。
「まず、ギルド内での売買は止めろ。ちゃんと他の該当するギルドを通してやれ。それから冒険者ギルドで適正が認められたヤツを盗賊ギルドなり暗殺ギルドなりに紹介してやれ! それなら雑な仕事も減るだろう」
「なんだ? 冒険者ギルドを職業訓練所にでするつもりか?」
「まぁ、そうなるな」
そこで、今まで黙っていたアリが口を挟む。
「おいおい、現代世界のギルドの形じゃねぇか。イスズ知ってて言ったのか?」
「いや、全然」
「ふっ、知らないのにその答えに辿り着くなんて、恐ろしい子ッ!!」
周囲に雷でも起きそうな勢いのアリだったが、この場で聞こえるのはイスズとゲベェルだけで、2人には後半はことごとく無視された。
「それから最後にもう1つ。住所不定、身元不明のヤツを冒険者ギルドに入れさせるな! なんでそんな怪しいヤツを簡単にギルドに入れるのか理解できん! 現代だったら絶対に仕事もらえないだろッ!!」
「住所不定のヤツは私やイスズみたいな転生者が多いんだが、それでもいいんだな」
「俺はむしろ、転生者の憧れをぶっ壊すためにいるからな。なんの努力もしてねぇヤツに簡単に仕事なんかさせてたまるかッ!」
ゲベェルは条件を聞き、考えるように目を閉じた。
10秒ほどで目を開けると、深く頷いた。
「わかった。その条件は全て飲もう。それが敗者の責務だ。それに武力で負けた私に対して全員でストライキなんて起こされたらそれこそ本当にギルドが潰れちまう」
その瞬間、周囲から歓声が沸き起こった。
そして、他ギルドの面々は口々にイスズを称えた。
こうしてイスズをアニキと呼ぶ人々がまた増えたのだった。
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