第50話「冒険者ギルド禁止 その1」

 リミットの部屋を出たイスズたちをルーは玄関まで送る。


「それじゃ、ボクちゃんが賭けの代償で協力するのはここまでだね。いや~、なかなかにイスズくんたちとの旅は楽しかったから名残惜しいよッ!」


「ふんっ、1ミリたりとも思ってないだろ」


「1ミリ?」


 ルーは知らない単語に首を傾げながら聞き返す。


「ああ、そうか。知らねぇよな。俺たちの世界の単位だよ。少ないことの例えだ。気にするな」


 その説明で何を言われたのか理解したのか、わざとらしく両手を振って否定してくるが、その仕草は実にウソっぽかった。


「そんなことないよ。結構思ってるよ?」


「ウソくさすぎてツッコム気にもならんな」


「ヒドイ言い草だね~。ま、本来は敵同士だもんね仕方ないかな。それじゃ、ボクちゃんはこれからリミットくんとイチャイチャでもしてるから、またね~」


 ルーは両手を掲げて大きく手を振る。周囲にいるであろうヤマトやクロネにも見えるように。


「ふんっ! 絶対になるからな」


 イスズは片手をあげ、簡単に別れを済ませた。



 イスズはサンタに案内を頼み宿屋までの道を歩む。

 何かを探すように周囲を見ながら、先の経緯をヤマトとクロネに話す。

 

 ちょうど全てを話し終わった頃、宿屋の前までたどり着くと、イスズはおもむろにきびすを返し、「少し行きたい所がある」と言って、サンタとアリを連れて出かけた。


 男たちだけで出かけたことで、ヤマトとクロネからあらぬ疑いをかけられても良さそうなものだが、


「ちょっと転生者が居そうな場所をつぶしてくる。お前ら、特にクロネは勇者との戦いに備えて休んでろ」


 その言葉だけで、日ごろの行いのおかげか、それ以上何も聞かれることなく、出かけることが出来た。


「おい、サンタ!」


「はいっ! アニキ、冒険者ギルドの場所ッスね!」


「おっ! よくわかったな」


 イスズは一瞬驚きの表情を見せ、サンタへと語りかける。


「そりゃ、アニキのことッスから、転生者がいそうな場所に目星がついてると思ったんスよ」


「ということは居るのか」


「受付嬢2人とイチャイチャしているギルドマスターがいますッス」


 サンタの情報を聞いたアリは血の涙を流さんばかりの迫力で、「ゆ、許せん!」と歯軋はぎしりの音を交えながら怨嗟えんさの言葉を吐き出す。


「ところで、いくつか聞きたいんだが?」


「なんスか? なんでも答えるッスよ」


 サンタは器用にイスズの方を振り向き答えながらも、前方の障害物を避けて歩く。


「まず、冒険者ギルドって何するんだ?」


「う~ん、その質問は難しいッスね。色々なんでもやる印象ッス。採取や討伐、探索に情報収集とかッスかね」


「なるほど。ギルドってのは冒険者ギルド以外もあるのか?」


「もちろん、あるッス。有名どころなら商人ギルドや鍛冶師ギルドなんかがあるッス。他にも盗賊ギルドなんていうやばそうな響きのところもあるッスね」


「ふ~ん、それらは冒険者ギルドに比べて稼ぎはどうなんだ?」


「まぁ、ピンキリッスからなんとも言えないッスけど、平均したら同じくらいじゃないッスかね」


「それなのに、冒険者はずいぶん人が多いんじゃないか?」


「そうッスね。やっぱ冒険者ギルドは誰でも入れるからッスからね」


「どんな奴でもか?」


「そうッス!」


「住所不定でも?」


「そんな奴ざらにいるッス」


 イスズは頭をボリボリと掻きながら、吐き捨てるように呟く。


「住所不定でも仕事が貰えるって、どう考えてもおかしいよな」



「ここが冒険者ギルドッス」


 サンタに案内された冒険者ギルドは、西部劇で出てくる酒場のような外観と内装をしており、ファンタジーに慣れ親しんでいるならばギルドだと一目で分かる造りになっていた。

 こういう現代のギルドのイメージを反映させている辺り、転生者が絡んでいる可能性が高そうに見える。


 イスズはここに来るまでに、いくつか寄り道をしており、その成果なのか背後には幾人もの人が並んでいた。


 イスズは思いっきり空気を吸い込むと、大声で冒険者ギルドに向かって叫んだ。


「テメーら冒険者ギルドは色々やりすぎだぁ!! 他のギルドの仕事まで取ってんじゃねぇ!! これ以上続けるようなら、こいつら他ギルドがストライキを起こす!!」


 周囲からは、「そうだ! そうだ!」との声が上がり、中には明確に文句を言う者もいた。


 例えば、商人ギルドからは薬草などの採取を冒険者ギルドがした後、ギルド内で売買することを非難する声があがったり、鍛冶師ギルドからはドロップ品の武器の性能が良すぎる為、冒険者ギルドの方が客が多いという声。

 他には、盗賊ギルドも参加しており、情報収集の依頼がブッキングした際、素人の冒険者は大いに邪魔だという意見。暗殺者ギルドなんてものもあり、そこからも冒険者は暗殺が雑という批判があった。


 冒険者の数にモノをいわせ手広く行う冒険者ギルドに対し、不平不満を呟くものは少なくなく、こうしてイスズの呼びかけ1つで多くの人間が集まっていた。


 声は徐々に大きくなっていき、周囲を呑み込んでいった頃、イスズはそろそろ冒険者ギルド側が何かアクションを起こす頃合だなと踏んでいた。


「ガタガタとうるせぇ!!」


 イスズの予想は当たり、両開きの扉を荒々しく開けて、筋骨隆々な男が現れた。


「アニキッ! あれがギルドマスターの『ゲベェル』ッス」


「ようやくお出ましだな。ギルドマスターさんよぉ!」


 ニッと不敵な笑みを浮かべるイスズ。

 ゲベェルはそれに気づいてかはわからないが、


「文句があるヤツはかかって来いッ!!」


 先頭に立つイスズに向かって啖呵を切ったのだった。

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