第47話「魔法使い禁止 その2」

 アリの咆哮ほうこうを耳にしながら、ファシアンは不敵な笑みを浮かべ張り合うように声を上げた。


「そっちにインテリジェンスウェポンがつくなら、こっちも本気を出しますよ! 固有魔法発動ッ!! Welcome to the World異世界へようこそ


 オレンジ色の魔法陣が広がり始めると、アリとクロネはその範囲に驚愕した。


「おいおいウソだろ!」


「……広い」


 魔法陣は都市1つ丸ごと呑み込むほどの広さにまで広がり、オレンジ色の光を怪しく放つ。


 魔法陣の生成が終わると、アリとクロネは同時に微かな倦怠感を覚えた。


「っ!? これは。この魔法陣の効果は!」


「あ、やっぱり魔法使いの方々には分かっちゃいますか。そうです。この魔法陣は陣の中に居る人たちから少しずつだけ魔力をもらう能力! その名も龍玉りゅうぎょく魔法陣です!!」


「元ネタはわかったが、分けてくれじゃなくて、強制的に奪っている辺り全然違うだろ!!」


「同じ世界から来ていると話が早くていいですね! では理解したところでッ!!」


 ファシアンは火球をいくつも生み出し、一斉に掃射する。

 クロネは向かってくる火球を見据えながらも、恐怖で逃げることもなく、淡々とアリへと話しかけた。


「……で、どうすれば勝てるの?」


「ま、まず、この火球をどうにかしてからじゃないか!?」


「……それは問題ない」


 クロネは自身の足元の土をせり上げると、その反動のまま飛び上がった。

 地面には火球が数十発と当たり、その場にいたら消し炭になっていただろう。


「……次は?」


 クロネの言葉にアリはどんな状況でも全力で答えようと覚悟を決めた。


「科学っていうのは事象じしょうを研究することだ。つまり、どういう原理で火が起きるかを解明する学問って言えばいいかな。まぁ、そういうヤツだ。だから属性がある魔法は全部攻略されるし、全部強化できるんだ。だからそれ以外の攻撃、あとは魔法使いが苦手な攻撃なら活路があるはずだ」


 説明している間、あえて待っていたのかファシアンからの攻撃はなく、


「……わかった。それだけで充分」


 というクロネの言葉と共に再び魔法が展開された。

 

「火球によって熱せられた空気に水蒸気、雲ができるには充分ね」


 いつの間にかクロネの頭上に雷雲が発生し、今か今かと待ちわびるようにゴロゴロと轟音を響かせる。


「行けッ!!」

 

 ファシアンの号令と共に雷がクロネ目がけ落ちると思われたが、雷は逆に天へと向かって放たれる。


「重力が変わった! さっきのドリルもそうですね!」


 クロネは空中で自身の体を軽くし留まると、魔王然とした冷たい視線で見下ろす。

 手を振るうと、紫色の光が降り注ぎ、ファシアンの周囲を重くする。


「確かに重力をどうこうするのはムリだけど、さっき見せたのは失敗でしたね!」


 ファシアンは角度を計算し地面を斜めにせり上げ、片手から炎を出して推進力とすると、流転する石のように転がり、クロネの『グラビティ』の範囲から抜け出す。


「さぁ! 反撃開始です!」


 立ち上がったファシアンの目の前にはクロネが立っていた。

 その両腕には氷で出来た籠手こてを装備し、肘からは威力をブーストさせるべく炎が揺らめく。


「……この攻撃は逃げるしかない。逃げる方向が分かれば、近づくのは簡単」


 科学でもどうしようもない回避するしかない攻撃。それによってファシアンの行動を予測し、魔法使いが苦手とする近接戦闘へと持ち込むことができた。


 肘の炎が勢い良く噴射されると共にクロネの拳がファシアンへと向かう。


「ちょっ!? 魔法使いが近接攻撃!?」


 目を丸くしながらも、思考は止めず、瞬時に防御できる方法を考え、アリが使うのと同じ空気の壁を作り防御した。


「……予想内。もう一発」


 反対の腕の炎が揺らめき、拳が発射される。


「クッ!」


 ファシアンは反対の拳も壁を作り出し止める。


「ふ、防いだ。これで――」


 これで反撃に移れると言おうとした瞬間、クロネからの、「リブート」という言葉にハッとし、次撃へと備えた。


 始めに殴った拳が再び襲う。さらに次の拳、さらに次。

 その度に空気の壁を作り防ぐが、そうすると今度は反対の拳がやってくるというイタチごっこだった。


 右、左、斜め上、斜め下と縦横無尽に繰り出される拳、その動きにアリとファシアンは現代の知識を当てはめ、同時に叫んだ。


「「デンプシーロール!?」」


 壁を作る魔力量は十全だが、毎回位置を予測し壁を作り出すのは精神力を使い、そしてふと油断すると。

 ゴリッと鈍い音を立てて脇腹へと拳がめり込む。


「ぐぅうう!!」


 唸り声を上げるが、苦しさに負け壁を作れなくなった瞬間、死が待っていると思うとファシアンは気が抜けず再度壁を必死に作り出す。


 しかし、長くは続かず、精神は疲弊し、防御の手が疎かになった瞬間、クロネの拳がファシアンのあごを捉えた。

 激しく脳を揺らす一撃にファシアンの意識は吹き飛んだ。

 

 クロネの勢いは止まらず、さらにもう一撃見舞おうとした時、空気の壁が再び現れ防いだ。


「……!?」


「クロネ、もういい。相手は気絶してる」


 クロネの腕から氷は溶け、炎は徐々に消えた。


「ふっ、オレたちの勝利だな」


 クロネはコクリと頷いた。


 アリは自分がほとんど何もしていないことを自覚していたが、あえてオレたちという言葉を使ったが、そのことをツッコむ訳でもなく、同意してくれたクロネに、心中で、「なんていい子だ」と涙を流した。

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