第46話「魔法使い禁止 その1」
魔法使いのファシアンは気合と共に、ポンッという音を鳴らす。
その瞬間いつのまにか手にはとんがり帽子が握られ、ちょんと頭に乗せる。
次にもう一度、同じ音が響くと、今度は手の中に短剣が納まる。
「これ一突きで終わるんだけど。人の形をしたものに刃物を突き立てるって……」
「魔物なら殺す抵抗も少ないかな」
自分で自分の行いを弁護するように独り言をぽつぽつと呟く。
ファシアンは言葉とは裏腹に一切の
ガチッ!!
肉体にずっぽりと入っていくのを予想していたファシアンは予想外の手ごたえに目をしばたたかせた。
「へっ? なんで?」
疑問に思っていると、その隙を狙ったかのように火球が襲う。
「あっ――」
言葉を発する間もなく、ファシアンは吹き飛ばされた。
「……だまし討ちにはだまし討ち」
不愉快そうにぽつりと言いながら立ち上がったのは、魔王のクロネだった。
ローブの下のワンピースにはいつの間にか氷で出来た胸当てがついており、ただの短剣くらいならば、造作もなく止められたのだった。
「……いっぱい寝てたんだから、もう寝てられない」
下級魔法を無効にする能力を備えるクロネにはファシアンの魔法は効いておらず、不意をつく為に寝たフリをしていた。
先の火球で勝負が着いたかに思えたが、ファシアンは、「ビックリした~」と言いながら何事もなかったかのように起き上がった。
土ぼこりを叩いた手をそのまま何気ないようにクロネへと向けると、クロネが放った火球よりも大きな火球が放たれた。
すぐに対応するように氷の壁を出し、それを防ぐ。火球の熱によって一部が水へと変化したが、壁を
「ありゃ、威力が足りなかった? 流石魔王の魔法ですね」
ファシアンは再び手をかざすと、なにやら呟きはじめた。
「えっと、爆発には、水素と酸素が必要だから、水を電気分解させればいいね。水はあるから後は電気と火を……」
パチパチっと氷の壁に電気が流れ、再度放たれた火球は氷の壁に当たると、それごと粉砕するような大爆発が起きる。
「……なっ!」
爆風と氷のつぶてによってクロネは紙くずのように吹き飛ばされる。
追撃を避ける為、すぐに今度は土の壁を作り上げる。
「穴を掘るには、硬度と回転、あとは形状も重要ですね」
ファシアンは特定の土を集めつつ、周囲に雷を帯びていく。
ふっと腕を上げると、土の中の鉄分だけが浮き上がり、円錐形に集まり出す。
現代に生きる者ならば誰もが分かる物体、ドリルが作られ、発射された。
ドリルはクロネが作った土壁をまるで障子紙を破るように易々と突き破った。
「……うそ!?」
一瞬で壊されるとは思っていなかったクロネは短く驚きの声を漏らす。
すぐに次の手として、ドリルを重くする。
紫色の粒子がドリルを包むと同時に地面へと落ちる。
しかし、ドリルはそれでも動きを止めることなく地面を掘りながらクロネへと向かってくる。
「クロネ! そいつは土を掘る道具だ!! 止まらない! 避けろッ!!」
その声によって反射的にクロネは飛びのいた。
声の主は、魔杖の為か眠りの魔法の効果が薄くすぐに目を覚ましたアリエイトだった。
ドリルは魔法の範囲から出たことにより、本来の重みに戻り俄然元気になり凄まじい速度で進み出した。
もし、クロネがアリの声がなく、そのまま
永遠に進むかに見えたドリルは地面の中へ潜っていき、その後から温泉があふれ出す。
「おおっ! 温泉が出たっ! これは後でお風呂を作るしかないですね」
ファシアンはのんびりとした感想を抱きながら、立ち上る湯柱を眺める。
そんなファシアンの隙を付くようにアリは叫んだ。
「クロネ! 相手は転生者だっ!! オレを使え!! 科学の知識を持っているのなんてオレと同じ世界から来ている証拠だ! 遠慮するな!」
「おおぉ! インテリジェンスウェポンが仲間にいるんですね! いいなぁ~。羨ましいです」
ファシアンの注意は一瞬で魔杖アリエイトへと注がれる。
「んんっ?」
アリはこのとき、もしかしたらファシアンの側についたら、自分は女の子に使われるハッピーな杖になれるのでは? と考えていた。
クロネはすでに目前。果たして、合法ロリ枠のクロネか正統派ヒロイン枠のファシアンか。どちらを選ぶべきか悩ましく思っていたが、カッと目を見開き、結論を出した。
「ファシアンの味方についたら、オレの望む女の子とキャッキャウフフな生活は実現できるかもしれない。だがしかし、もう1つのハーレムをやってる気に入らない野郎を不幸のどん底に
アリは覚悟を決めていたのだが、クロネからの言葉によって現実を思い知る。
「……イスズが掴んだまま離さない。使えない」
アリは自身の体に視線を動かすと、確かにイスズがガッシリと掴んだままであり、寝ているというのに手が緩む気配はなかった。
「ふっ、2択なんて始めっからなかったのか。現実は非常だぜ」
諦めと悲しみの混じった声でアリは呟いた。
心の俳句でも詠もうかと、現実逃避気味に考えていると、「アリッ!」とクロネから声が再び掛けられる。
「……杖としては使えないけど、知識は有用」
「つまり?」
「……助けて」
アリは脳内で、幼い女の子が自分に上目遣いで助けを求める絵を思い描き、その女の子とクロネを重ねることで、現実へと戻ってきた。
「よっしゃぁぁぁぁぁあああ!! オレに! 任せろぉぉぉぉぉおおおお!!」
アリの咆哮は気持ち悪いくらいに響き渡った。
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