第45話「忍者禁止」
「完全ッ!!」
「……復活」
荷台の扉が開け放たれ、腕をクロスしたポーズを取りながら、クロネとアリは叫んだ。
しかし、早朝にその声を聞くものは誰もおらず、2人はポツンとその場に立ち
「せっかくの登場に誰もいないってどういうことだよ!!」
アリは文句を言うが、イスズとファクトは改造と戦いに疲れ、深い眠りに落ち、ヤマトとルーは留守にしていた間にファクトによって防音設備を完備されていた室内で全く気づかずにいた。
クロネは、アリが絶対に派手に登場した方が皆喜ぶという言葉に騙され、わざわざポーズとセリフを言っていたのだが、この
「……むぅ」
クロネはアリを投げ捨てると、再び毛布をかぶり、自分の中で無かったことにしようと努めた。
クロネの復活が知れ渡ったのは、数時間後にイスズが投げ捨てられたアリを見つけた頃だった。
※
「もう行ってしまうんですね」
ファクトは名残惜しそうに上目遣いでイスズたち一行を見つめる。
「さっさと行かんと時間に間に合わなくなるからな」
「なるほど。配達時間は厳守しないとですもんね」
ヤマトとクロネを眺めてから、納得したように言う。
「ジョニー号は任せたぞ。何があっても絶対に取りに戻る! 仮に首だけになろうとも絶対だッ!!」
「はい! 任せてください。ジョニー号は完璧な姿でお守りします!! それに……」
「おい。なぜ目をきらめかせてる!」
「それはもちろん! イスズさんの義足とか義手を作れるかなって! 格好良くて強いのを作りますよ~! 首だけでも生きられるようなボディとかもいいですね!」
「最悪、運転できない状況になるくらいなら頼むかもな」
「お任せください!」
イスズはふっと笑みを浮かべ、ファクトはニッコリと笑顔を作った。
「なんでそんなに、にこやかなのこの人たち」
ヤマトは若干引き気味に言うと、心外という風にファクトが抗議の声を上げる。
「ボクたちの世界では義肢はそこまで珍しいものじゃないんですよ! むしろ義肢を持った主人公なんてざらにいますし!」
「創作物の話をするんじゃないっ! まぁ、現実の話でも有能な義肢があるのは否定せんが。さて話が逸れたな」
「そうですね。雑談はこの辺りにしておきましょう。大都市エスパダまでの道のりは、ボクの犬型ロボットが案内するようにさせます。疲れたら乗ってもいいですよ」
ようやくイスズ一行は出発しはじめた。
※
犬型ロボットのおかげで迷うことも、野生の獣や賊にも絡まれることなく、その日のうちに大都市エスパダを視界に捉える位置にまで到着した。
犬型ロボットは、そこで自身の役目は終了と言わんばかりに一声、鳴き声を上げてUターンすると来た道のりを戻っていった。
「さて、あとは勇者リミットを見つけるだけだな」
イスズが呟くのと同時に真っ黒な影が2つその場へと現れた。
「そう簡単にはいかないか。勇者パーティの新手だな」
「いかにも。拙者は忍者のシグと申す。こちらはくの一のファシアン。それでイスズ御一行殿。拙者たちは勇者殿からの伝言を伝えに参った」
イスズは怪訝な顔で相手を見る。
シグと名乗った男は忍装束を身に纏っている為、顔は目元しか見えず、声もくぐもっていた。外見的に見て取れるのはスラリとした体躯に柔軟に動けるしなやかさが備わった肉付きをしているくらいだった。
一方、その後方に控えるくの一のファシアンはその身の丈にあわないブカブカの忍装束で体型すら断定できない。ただ1つ言えるのは、忍装束が全く似合っていないということだ。
「お前らの話を聞く耳はもたん! 話はこれまでだ!」
イスズは断言すると、拳をにぎった。
「では、拙者らを倒し、この広い街の中で勇者を探すというのでござるね。ですが、流石にそれは手間というものでは?」
「手間だろうとなんだろうと、やらなくちゃならねぇんならやるんだよ! グダグダ言っている間に手を動かす方が100倍はマシだ!」
忍者は肩をすくめ、しぶしぶながら懐から一枚の紙を取り出した。
「これを見ても同じことが言えますかな?」
忍者シグが取り出したのは、ポスターのような宣伝を主な目的とした紙だった。
そして、そこには、『勇者VS魔王 世紀のデスマッチがついに!!』とでかでかと書かれ、勇者リミットとテンペストの顔まで載っていた。
さらに開催期日は明後日になっている。
それを見たイスズは、「やられた」と吐き捨てるように言った。
「理解していただけたようでござるな。つまり伝言とは、来る日までお互い大人しくしていようということでござるよ。宿などはこちらで手配しております故、どうか聞き届けてはくださらぬか?」
そのやりとりを横で見ていたヤマトは何が起きているのか、よく分からず、イスズへと質問する。
「ねぇ、イスズ。そのポスター? があると何かマズイわけ?」
イスズは深くため息をつくと仕方ないといった様子で説明を始めた。
「例えば、この期限までに勇者を見つけて倒すとどうなる?」
「そりゃ、ハッピーエンドでしょ?」
「…………。クロネはどうなると思う?」
「ちょっ! 無視しないでよ! まだ殴られた方がマシじゃない!!」
イスズは可哀相なものを見る目で見てから説明を再開してあげた。
「犯人探しが始まるよな。普通に考えれば魔王サイドが怪しいが、勇者パーティが揃って俺らがやったと言ったら? まぁ、実際にやっているわけだが」
「完全に悪役よね」
「それに卑怯者だ。そんなヤツは勇者にはなれないし、魔王の座も危ういだろうな」
「確かに、アタシでもそんなヤツには付いて行かないわね」
ヤマトは妙に納得したようにウンウンと唸った。
「……誰にもバレなければOK」
クロネはぼそりと呟く。
「その通りだ。だが、このポスターのせいでそれは不可能になったわけだ」
「でもさー。もう1つ分かんないんだけど」
「なんだ!?」
「このポスターってやつで知らせるんでしょ? ここまで大掛かりなもの、すぐに何枚も作れないわよ。それなのにどうやって皆に知らしめるの?」
イスズはクロネに視線を向ける。
「……魔物には自分の体を削って複製できるのがいるけど。人間には?」
「普通に居ないわよっ!!」
「なら、今までのはハッタリ。いや、忍者風に言ってやるなら情報操作ってところか!」
シグへと詰め寄ろうとするが、表情1つ変えることなく平然としている。
「バレたでござるか! 数枚はできておるし、貼ってもあるので全くのウソという訳ではござらんよ。ただ効果は薄いかもしれないでござる。ですが、本当の目的は果たしたでござるよ! 今でござるッ!! ファシアン!!」
シグはくの一の名前を叫ぶと、その場へ倒れた。
「ぬ、ぬぬぬ。ファシアン何を……」
ファシアンはブカブカの忍装束を脱ぐと、下からは魔法使いのような、ブラウスにスカート姿の女性が現れた。
「えっと、この辺一帯に睡眠の魔法かけろって言われたからやったんですけど。もしかして、やりすぎちゃいました?」
イスズたちもいつの間にか眠りへと落ちているようで、その場に倒れている。
「その辺だけで、よかったでござる。ど、どうりで魔法発動までが長いと思ったでござるよ。だ、だが、トドメをファシアンが刺すというのなら構わないでござ――」
シグはイスズの周囲を指さしながら眠りへと落ちた。
「えーっと、とりあえず、頑張ります!!」
ファシアンは気合を入れるように両拳を握った。
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