第44話「ロボットZ禁止 その2」

 イスズはジョニー号のことはファクトに任せてはいるが、信頼しているわけではない為、あえて家の外、ちょうどジョニー号を見ているように見える位置に座り睡眠を取っていた。


 クロネの為の改造と聞いた為かちょいちょいとヤマトがやってきて、お茶やら毛布やらを用意してきていた。


 作業は皆が寝静まった頃になっても続いた。

 イスズはファクトが何かを取りに家へと戻る度に薄目を開け確認していたが、先ほど入ってから数分がすでに過ぎていた。


 何か変なことをされるんじゃないかと怪しんだイスズはファクトを追って家の中へと入ろうとすると、ちょうど出ようとするファクトと出くわした。

 その腕の中にはクロネが軽々と抱えられていた。


「とりあえず1つは完成したんだな」


「ええ! 意外と時間がかかってしまいましたが、完成しました。今からクロネさんに魔力を戻します」


 荷台へとクロネを寝かせるとファクトはチューブをつなぎながら、このトラックをいかに魔力で走るようにしたかの仕組みと、どうやって魔力を戻すかの仕組みを説明しだしたが、イスズが聞いてもよく理解できず、なんとかわかったのは、『マヒアニウム』と言う、とんでも鉱石があるおかげだということだった。


御託ごたくはいいからさっさとしろ!」


 ファクトは口もさることながら、手も素早く動いており、すでにクロネへ魔力を戻す装置の設置を終了していた。


「これで数時間ほど安静にしていれば全快になると思います」


 一仕事終えたと言ったように額の汗を拭ってから、ニヤ~とした笑みを作った。


「ここからが本番ですね。ふふふっ。タイヤとガラスの強化にカーナビ、あとはエンジンもいじって」


 ぶつぶつと言いながらも作業を進め始めたファクト。

 イスズは邪魔にならないよう再び家の壁へと背を預けて座りながら見張ることにした。



 クロネの件が一段落つき、無意識に安堵していたのか、イスズはいつの間にか寝ていたようで、日が昇り始めていた。


「しまった! ジョニー号は?」


 寝ていた時間はたぶん1~2時間くらいだが、それだけの時間があればファクトなら何をするかわからない。そんな思いからすぐにジョニー号を探す。


 そこには今までと変わりないジョニー号の姿があった。

 一瞬、安心しかけたが、中身がどうなっているかわからない。

 近くへと駆け寄り確かめようとすると、


「あっ! イスズさん。ジョニー号の改良終わりましたよ!」


 徹夜で目の下にくまが出来ているが、その声音はハッキリとしており活力に溢れていた。


 イスズは改良案に出ていたものを1つずつ確認していった。

 全て注文通りの出来以上。特にエンジン音はディーゼルそのものでイスズを喜ばせた。


「いや~、喜んでもらえて良かったです。それで1つお願いがあるんですけどいいですか?」


 イスズは嫌な予感がしながらも、そのお願いの内容を聞くことにする。


「えっと、ですね。今、ボクは勇者ロボットを作っているんですけど」


 イスズの眉がピクッと動き、不愉快そうな顔つきへと変わっていく。


「ほら、勇者ロボって言ったら、変形・合体だと思うんですよ!」


「……ほう」


「で、つい、ジョニー号を右腕部分に改良しちゃいました。てへっ」


「そうか……」


「あ、でも安心してください。肘から先の部分にしてあるので、ジョニー号にドッキングシステムと接続部をつけただけで普段の使用には問題ないですし、それに合体するのは有事の際だけですから!」


「ああ、なんだそういうことか。それくらいなら別に構わないぞ」


 イスズはにこりと笑顔を作りながら答えた。

 しかし、付き合いの浅いファクトは知らなかった。本当に良いというときは真顔で言うということを。そしてジョニー号に手を出した者の末路を……。


「ところで、その勇者ロボっていうのはどこなんだ?」


「そうですよね! 男の子なら誰しも気になるもんですよね! 今見せますね」


 ファクトはスイッチのような見た目のコントローラーを取り出すとボタンを押した。


 どこからかサイレンの音が響き、地面が割れる。

 以前と同じように、しかし以前より派手派手しくロボットがせり上がってくる。


「登場にも今回はこだわってます! ですが……」


 ファクトが言葉を濁した理由はすぐに明らかになった。

 登場したロボットは頭部と胸部、それに右腕の上腕部しか出来ておらず、不恰好な姿だった。


「試作機2号『Gゼータ』です! 左手と脚部が出来ていないのは大変お恥ずかしいですが……。ついでにジョニー号は右腕として指も付けたかったんですが流石にそこは怒られるかなって自重しました。代わりにどんだけ強く殴っても壊れないフロントガラス! のこが出て回転することで全てをズタズタにし押し通すタイヤを装備してます!」


 カラーリングは以前と同様の黒。頭部はロボットなのだが、鼻が造詣ぞうけいされておりどこか人間のようにも見える。胸部には大きく『G』の文字の装飾がほどこされており、何かしらの機能を持っていそうな威圧感を放っていた。


「おおっ! これが勇者ロボとかってやつなのか。なるほど、なるほど」


 イスズはゆっくりと勇者ロボ『GZ』へと近づく。

 その様子を、楽しんでいると思っているファクトは微笑ましく眺めていた。


「これが無くなれば、ジョニー号はちと異世界使用になっちゃいるが普通のトラックってことだよなッ!!」


 ダッ! っと一気に駆け出したイスズに呆気に取られたファクトだったが、すぐに何をされるか理解し追いかけた。


 ファクトのスピードもパワードスーツのおかげで速かったが、イスズの走力はそれを上回っていた。

 一向に近づけないファクトは意を決したように、リモコンのボタンを押した。


「外から操作するのは、あまり好きじゃないんですが、仕方ないですね!!」


 『GZ』から駆動音が鳴り響き、胸部の『G』の文字が赤く染まり始める。


「行きますよッ!! ブレスト・バーンッ!!!!」


 『G』の部分から熱光線が放たれ、イスズを襲う。


「チッ! 何年代の兵器だよッ!?」


 横っ飛びにかわしながら愚痴る。

 その言葉を聞いたとたんファクトは膝から崩れ落ちた。


「仕方ないじゃないですか! ボクだって本当は熱光線じゃなくて、何か強そうな動物の形をしたビームとかにしたかったですよ! 他にも脚部とか新幹線とか使いたいですし、というか本来は腕も戦闘機とかそういうのにしたかったですしッ! でも、イスズさんのトラックを見て、これもカッコいいかなって思って作ったんです。全部イスズさんのジョニー号がカッコいいのがいけないんですよ!!」


「そうか、ありがとよ」


 イスズは歩みを止め、振り返ってジョニー号を褒めてくれた礼を述べる。


「だが壊す!」


「ええぇー!! 今のは完全に許すパターンだと思いますよっ!!」


「知るかっ!」


 イスズは飛び上がり、『GZ』の頭部に拳を叩きつけた。

 頭部は体から外れてゴムボールのようにバウンドしつつ転がっていった。


「ああ! くぅ、たかがメインカメラがやられたくらいで!」


 こんな状況ながらも言いたいセリフを言うあたりに、まだいくらかの余裕が伺えた。


「次は胸だな!」


 次に破壊する箇所を見定め、拳を振り上げる。


「本当に壊していいんですか!? ボクの話しを聞いて下さい!!」


 この期に及んで何を言うのか。ファクトならば無駄なことは言わないだろうと思い、拳の位置はそのままに話しだけは聞くことにした。


「イスズさんの目的は昨日ヤマトさんから聞きました。転生者を倒して、現代世界での憧れを減少させることですよね。さしあたっては大都市エスパダに勇者を倒しに行くと」


「その通りだが、それがどうした?」


「ならエスパダに着いた後のジョニー号はどうするんですか? 都市の外に放置していたら魔物や勇者の仲間の手によって壊されるかもしれないですよ!」


「むっ……」


 特に考えていなかったことを指摘され口ごもる。


「ここなら1日かければ徒歩でも着く距離です。ならば、ボクがジョニー号をお守りしますよ!! あ、でも『GZ』を壊されちゃうと大勢で攻め込まれた場合に対処できないかもしれないですね~。勇者の信者軍団とかゴブリンの軍勢とか来たらヤバイですよね~。その後、復讐の鬼と化したイスズさんに殺されるかもしれませんけど、ジョニー号を失ってますし、そんなLoseルーズLoseルーズの関係はイヤですよね~」


 明らかに壊させない為の方便と分かるのだが、最悪の事態を考えるならファクトの案に乗ったほうが安全だというのは小学生でも分かる自明の理だった。


「ぐぐぐっ」


 悔しがるように唸り、葛藤の証拠なのか手に力が入り血管が浮かぶ。


「チッ。わかった」


 大きく舌打ちし、大人しく拳を引くが、その顔はものすごく不愉快そうにしかめていた。


「その間にもし変な改造……、どんな改造もしたら許さんぞ」


「は~~い!!」


 ファクトは手を上げ暢気のんきな返事を返した。

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