第43話「ロボットZ禁止 その1」

「俺とジョニー号なら、だいたい2日程で辿り付ける道のりだが、大事をとって3日かけて行く。それでも5日目に着く計算だから、まる1日余裕はあるはずだ。何も妨害がなければな」


 そう言いつつ、バキバキと音を立ててルーのトランシーバーを破壊する。

 たぶん、それ以外にも連絡手段は持っているのだろうが、分かっている物をわざわざ放置するいわれもない。


 全員がトラックへと乗り込むと、助手席にはルーが着座する。


「お~、前はこんな感じなんだね~!」


 目に映るもの全てが珍しい物のようで、楽しそうに周囲に目を配る。


「よくヤマトが文句を言わなかったな」


「みんな優しいからね~、こんなところにスイちゃんを放置するのは気が引けるみたいで縛り上げて後ろに乗せてるよね? 万が一自由になった場合にクロネちゃんが心配らしいからね。ここにはこれないでしょ」


「そうだな」


 イスズはそれだけ言うと、キーを回し、ジョニー号のエンジンに火をつけた。



 それから2日間は勇者パーティの追手もなく、途中の人里に格闘家スイを落としただけで、何事もなく過ぎていった。


 その日の夜。

 イスズは始めからここを目的地としていたようで、明確な意思を持ってジョニー号を駐車した。


「ここは?」


 ルーは不思議な様子で尋ねる。

 それもそのはずで、大都市エスパダから少し離れた場所に位置する一軒家という微妙な場所にてトラックは停まったからだ。

 もう少し頑張ればこの日のうちにエスパダに着けるはずなのにだ。


 普段は何を考えているか読めないと言われる側だったルーだが、このときばかりはまさか自分が言う側になるとは思わなかった。


「ここはヤマトとクロネが住んでたところだ。しっかり休憩するには持って来いだろ!」


 すでにクロネが倒れてから2日経っているが、意識はハッキリしだしたが、未だに動けずにおり、アリが常に側についている。

 それに加え、ヤマトも気丈に振舞ってはいるが、格闘家スイとの戦闘のダメージは抜けきっていないように見えた。


 そんな2人を気遣い、もっともゆっくりできるであろうこの場所で休む為、イスズは3日間かけると言っていたのだった。


「ふ~ん、イスズくんは顔に似合わず仲間思いだね~」


 ニヤニヤ笑いを浮かべながらルーはイスズを眺める。


「でもさ、それならここは無人のはずだよね。でも、人の気配がするよ?」


「ああ、そのようだな」


 イスズも家屋の中から漏れる光を見て呟いた。


 ルーも不審がっていることから勇者パーティが潜んでいるということはなさそうだが、賊の手合いの可能性を考慮して、注意を払いつつ扉へと近づく。


 木製の扉を開けようと手を伸ばすと、ウィィ! と機械音を立て自動的に扉は開いた。


「なにッ!?」


 驚いたイスズは咄嗟に下がると、家の中から、忘れたくても忘れられない声が聞こえて来た。


「やっぱり、そのトラックはイスズさんですね! そちらは知らない女性の方ですけど、ハーレムでも築くご予定ですか?」


 鈴のような甲高い声で馴れ馴れしくイスズに話しかけるのは、金髪ショートの美少年。ファクトだった。

 しかし以前あったときよりも体躯が不自然に大きくなっているようだったが、イスズはそんなことお構いなしに叫んだ。


「ここであったが100年目ッ! 覚悟しやがれッ!!」


 怒りに任せた渾身の一撃を繰り出すが、なんとそれをファクトはギリギリではあったが避けて見せた。


「ちょっと! いきなり何するんですか!? 危ないじゃないですか! 新作のパワードスーツを着ていなかったら死んでますよッ!! それにボク何かしましたっけ?」


 本気で分からないというようにキョトンとした顔を見せる。


「お前、勝手にジョニー号を改造しただろうがッ!!」


「あ~! そうでしたね! えっ、それじゃあ、もしかして、今のはイスズさん流の感謝のしるしなんですか? 外人がハグするノリですか?」


「んなわけねぇだろッ!!」


「じゃあ、いったいなんなんですか? もう!」


「よくもディーゼルからハイブリッドかなんかよく訳のわからんものにしてくれたなぁ!」


 そこで、ある程度を理解したファクトは手を叩いた。


「なるほどぉ! 昔の方が良かったと。むむぅ。確かにそれはボクの技術不足による落ち度ですね。殴られるのも止む無しですけど、詳細にはどこが気に入らなかったですか! 是非教えてください!!」


 おもちゃを見つけた子供のような純粋な瞳で迫られ、イスズは若干たじろぎながらも不満点を答えていった。


「ふむふむ。まずは排気音ですか。それに元の世界に戻ったとき用に燃料でも動くように。あとは魔力供給のシステムでそんなことがッ!?」


 ファクトは、ちょっと考えてくると言って本棚の前まで向かうと、一冊の本を動かす。

 本棚はゴゴゴッと音を立てて動くと地下への入り口が現れる。


「あ、ここは空き家を勝手に改造したんで遠慮なく使ってください!」


 それだけ言い残し地下へと消えて行った。


「なんていうか、良い意味でも悪い意味でも熱烈だね~。あとでパーティに勧誘したいな」



 イスズはクロネを寝室のベッドへと運ぶと、あとはヤマトに聞きつつお茶を入れてすすった。


 ちょうどお茶を飲み終わる頃、地下室からファクトは一枚の大きな紙を持って戻って来た。


「見てください!! これが新ジョニー号の案です! 先ほどイスズさんが言った点は全てクリアしつつ、更に改良を加えてみました!」


 テーブルに紙を広げ、ワクワクを抑えきれない様子で説明を始める。

 イスズは改良案にざっと目を通しながら説明を聞いた。しばらく思案した後、その案も受け入れた。


 ファクトが提示した改良案は3つ。

 1つはジョニー号の燃料に余裕があるとき、逆にジョニー号から魔力供給を行えるというもの。

 2つ目はタイヤとガラスの強化。

 最後の1つは、この世界の地図を入れたカーナビだった。


 今までイスズは車内に置いてあった方位磁石と己の勘を頼りに走っていた。

 それが、カーナビがあれば確実に目的地につけるようになる。

 当初、イスズはカーナビなどいらない機能だと考えていたが、紙には続きが書かれており、『溶岩地帯、氷雪地帯、さらにはタイヤや車体に傷をつけそうな地域も一目瞭然! これであなたの車の安全が守られる!』という謳い文句のような一文だった。


 魔王城の裏にて剣のような特性を持つ葉を見ていた為、カーナビの必要性を理解し、改良案にも納得したのだった。


「俺の要望にこの改良か。まぁ、悪くはないか。とりあえずお前を殴り飛ばすのは保留にしてやろう」


「それでも保留なんですね」


 ファクトは苦笑いを浮かべ、頬を掻いた。


「それじゃ、今から楽しい楽しい改良の時間です!!」


 勇んで外へ飛び出そうとするファクトにイスズはさらに1つ注文をつける。


「ジョニー号からの魔力供給を最優先にしてくれ!」


「クロネさんの為ですね。ラジャです!!」


 勘の良いファクトはすぐに事情を察し、笑顔で答えた。

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