第41話「小休止禁止 その2」

 イスズはクロネの回復を待つ間に、先ほどの幼女の素性を調べようと、ジョニー号から降りた。

 

 横になっている幼女とその横に座るルーを見つけ近づくと、周囲の異変に気が付いた。


「やろう……」


 苦々しく呟き、陥没したり、逆に隆起したりしている地面を踏みしめた。

 

 このままではジョニー号を走らせることができない。

地面を平らにしたり、ジョニー号を浮かしたりできるクロネは安静にしておかなければならない為、大きく迂回する必要があった。


 軽く舌打ちすると同時に、素性を確認するまでもなく、そこで寝ている幼女は確実に勇者パーティの格闘家スイであると結論付けた。

 そして、この惨状を起こせるほどの強さがあるということも確かめるまでもないことのようだった。


 ドカッとルーの隣に座ると、不機嫌さを隠そうともしない声音でルーに語りかけた。


「今日のところはゆっくり休ませてやるが、明日は覚悟しとくように伝えておけ!」


「あははっ。イスズくんはやっぱり優しいねぇ。寝込みを襲ってもいいんだよ~」


「今倒そうが、明日倒そうが時間に差はないだろ!」


 話を切り上げ立ち上がろうとすると、荷台から降りたヤマトがこちらへとやってきた。


「あのアリエイトとかって魔杖のおかげで、だいぶ落ち着いたみたい。今はゆったりと寝ているわ」


 クロネの状態を告げると、言葉を続けた。


「ねぇ、イスズ。勇者が戦えないうちに倒したい気持ちはわかるけど、クロネがこんな状態だし、ゆっくり向かってもいいんじゃない? それに心配しなくてもクロネならきっと万全の勇者リミットにも勝てるよ!」


 今更そんなことを言うのかと言ったように鼻で笑うと、イスズは指を3本立てた。


「お前は俺がそれだけで急いでいると思ったのか? 俺は今、3つの可能性を危惧している。

まず1つ目。テンペストと勇者が共闘することだな。まぁ、この場合、難易度は上がるが、倒せばいいだけだからそこまで問題ではないだろう。

2つ目は、テンペストを魔王として公開処刑にでもして勇者としての地位を確固たるものにするってことだ。これをされるとヤマトは偽勇者もしくは魔王の手下に堕ちた『元』勇者って扱いになって国1つを敵に回す可能性があるから、かなりマズイ」


イスズの説明を2つ目まで聞いたルーは驚いた表情を浮かべるが、まだまだ余裕の笑顔を崩さなかった。これくらいは予想の内ということだろう。


「最後にこれが一番マズイと思うんだが、1つ目と2つ目を同時にされることだ」


「同時にするっていうと、どういうことよ?」


 すでに2つ目まででも早く進まねばならないと考えていたヤマトは先を急かすように口を挟んだ。


「2人が裏で手を結び共闘。テンペストは勇者に捕まったフリをするってことだな。そしてそれを言いふらすんだよ!」


「それのどこが一番マズイのよ?」


 イスズはため息をつくと、ヤマトを罵倒しながらも続きを話す。


「少しは自分で考えろ! この脳筋痴女!!」


「なっ! 脳筋痴女って何よッ!? そこまで言うなら考えてやるわよ!!」


 ヤマトは腕組みしながらブツブツと呟き、必死に考えている様子を見せる。

 イスズは頑張って勉強する子供を眺めるお父さんのような心境でその様子を見つめた。


「共闘ってことは、わざわざ捕まったフリだけってことじゃないわよね。戦力になる何かがあるってことよね……。あっ!!」


 何かに気づいたのか大声をあげる。そしてそのままマシンガンのようにまくし立てた。


「勇者リミットはテンペストを捕まえている間は勇者としての地位を確立できるし、しかも魔物たちに魔王を人質にしているって言い聞かして戦力にできるってことね!!」


 ヤマトはイスズに向かって、「どうよっ!」と胸を張る。


「そうだな。お前の割りには良く考えたな。ついでに補足するなら、俺たち全員を人間、魔物、両方からのお尋ね者に出来るってこともあるな」 


「それってマズイわよね。早く行かないとッ!!」


 ゴンッとイスズの拳骨が落ちる。


「クロネが倒れてるんだろが! 休ませろアホがッ!!」


「うう、今のは話の流れ的に卑怯じゃない!?」


 涙目で頭を押さえながら訴えるがイスズは全く気にする素振りを見せなかった。

 それどころか、ルーの方へと話しかける始末だった。


「で、どのあたりまで正解だ?」


 ルーはわざとらしく顎に指を当てながら体をくねらせる。


「え~、どうしよっかな~。賭けの内容は敵とか罠に出会ったときにボクちゃんがその情報を言うって条件だから、敵でも罠でもない情報は言う義理も義務もないよ~」


「まぁ、そうだな。普通そう言うな」


 答えないことを特に気にした素振りもなく、むしろ当然の事として受け止めた。


「だが、とりあえず最悪の事態に備えておくのが、運転でもっとも重要なことだ! 備えておくに越したことはない。ってやつだな」


 聞きなれない単語に2人は小首を傾げた。

 アリが居ればもう少し違った反応を示してくれたかもしれないが、イスズはジェネレーションギャップみたいなものだろうとさして気にも留めず立ち上がった。


「さてと、話も休憩も終わりだ。俺はジョニー号の為に洗車でもしている。お前らは適当にもう少し休んでろ!」


 ぶっきらぼうに言い放つイスズだったが、ジョニー号を綺麗にできることに心が躍っていたのか、その横顔は見たこともない純真無垢な笑顔だった。


「今、アタシは人生最大の恐怖を感じたわ」


「ボクちゃんもその意見には同感だね~」


 ヤマトとルーはお互いに身を寄せて、イスズを見送った。



 イスズのトラックの洗車とは汚さないことも含まれていたようで、どうやったのか、その日の夜には道が全てならされており、再びヤマトとルーを戦慄させた。

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