第39話「ハンター禁止」
ダンジョンマスターのクロスを打ち倒したイスズ一行は、ジョニー号を迎えに森を出て再び魔王城の前へと戻っていた。
魔物の村までの転移を考えてのことだったのだが、今まで転移を担当していたフォーランはイスズの言葉通りにすでに、村外れにエルフの女の子と隠居生活を始め、後を任されたゴブリンは謎の人物に闇討ちに会い、とてもではないが1週間は転移の魔法は使えない状態だという。
それに加え、ダンジョンの出口付近にも勇者パーティの1人がいるというルーからの情報もあった。
「なら森を突っ切るしかないが、あの森の様子だとジョニー号が一緒にいけんっ! ヤマト、お前今から森の木を全部切り倒せ!」
「イスズ、いくらアタシが『元』勇者でもそれは無理だから」
イスズは露骨に舌打ちし、矛先をクロネへと変える。
「お前はどうだ?」
クロネはすぅっと息を大きく吸ってから返事をした。
「ワタシでも無理です! ですが、ジョニー号を同行させることはできますっ!!」
大声でここまで長く話したことがなかったクロネは喋り終えると、息があがっていた。
「でかした! どんな方法かわからないが、その方法で行くぞ!」
クロネは頷くと呼吸を整えた。
一行はジョニー号の元へ行くと、クロネを見守った。
クロネはジョニー号へ手をかざすと、「ゼログラビティ」と唱えた。
ジョニー号は重さを失い、その巨体を徐々に宙へと浮かす。
「……これなら一緒に行ける。けど――」
「戦えないんだろ。安心しろ、クロネにもしものことがあればジョニー号が落ちるからな。俺が守ってやる! だが、万が一なんでもないときに落としたり傷つけたりしてみろ。わかってるな?」
途中まではヒロインにかける言葉のようだが、最後の一文で台無しだった。
※
イスズ一行は、森の中をずんすんと進んでいく。
頭上にはジョニー号が気球のように浮かんで付いて来る様は、異世界でも異様な風景だった。
「へ~、この森ってこんな風なんだね~」
ルーは物珍しそうに周囲をキョロキョロと眺める。
「普通の森がそんなに珍しいのか?」
「ここを普通の森として通れるのが珍しいんだよ!」
謎かけのような返答にイスズは首をひねった。
「……ここは四天王以上のものしか通れないようになっている。森の木にまぎれたツリーフォークが襲ったり惑わしたり。森に配置された魔物が攻撃してくることもある」
勇者リミットですら、この森を避けて通ったことからも、この森を進むのが本来ならどれだけ難しいかが伺える。
周囲に気は張るが、特に障害もなく進んでいると、先頭を歩んでいたヤマトがピタリと動きを止めた。
「気をつけて。何かいるわ!」
ヤマトが前方に気を張っていると、周囲の葉がガサガサっと揺れ、一人の男が飛び出ししてきた。
その男は
男は芝居がかったように、ツバの折れた帽子を指で上げながら、セリフを吐き出す。
「オレっちの勘は当たりだったようだな。勇者パーティ、恋の狩人とはオレっちのことさ。今夜狙い撃ちされたいお嬢さんはどこだい?」
狩人を名乗る男は、イスズ以外に正確に視線を送る。
「あ~、彼はハンターのシグナルくん。彼はダンジョンの反対の出口にいるはずだったんだけど。なんでここに?」
ルーは困ったような笑みを浮かべながら質問する。
彼女からしたら、せっかく万全の状態のところに、『元』勇者と魔王が飛び込んできてくれる状況にも関わらず、わざわざここへ出向くシグナルの思考が分からないでいた。
「そりゃ、オレっちのセンサーが可愛い子が居るって轟き叫んでいたからさっ! 事実大当たりだろ? こんなに可愛い子が3人も!」
「なるほどねぇ。つまり、空飛ぶジョニー号を見つけて、ボクちゃん達にいいところを見せようとやって来たってことか~。そういうスタンドプレイをするからボクちゃん、キミの事キライなんだよね~」
「ふっ。イヤよイヤよも好きのうちっていうからな。モテる自分が恐ろしいぜ!」
「えっと、さっさとシグナルくんを倒してくれるとボクちゃんとしては嬉しいんだけど」
シグナルは自分に都合の悪い言葉は聞こえないようで、ルーの言葉を無視しつつ、今度はヤマトとクロネに声をかける。
「お嬢さん方。良かったらこのあとお茶でもどうだい?」
「なんで敵とお茶するのよっ!」
「……ヤダ」
「ふっ。そっけない態度。これは脈なしかな。ところで、ルーはどうだい?」
急にお茶に誘われたルーは、珍しく笑顔を崩し、視線を全く合わせようとせず面倒そうに答える。
「えーー、じゃあ、ここで1週間くらい皆を足止めできたらいいよ~~」
「よっしゃ!!」
シグナルはガッツポーズを取ると、イスズを指差す。
「ならばオレっちと勝負だ! 女の子と戦う趣味はないからな。男のお前が来いっ!!」
「断るっ!!」
イスズは一喝し断ると、ヤマトを指差す。
「こいつが変わりにお前を倒す!」
「だから女とは戦わないって言っただろ!」
「いつからこいつが女だと思っていたんだ? 全身鎧だぞ。声だけで本当に女かどうかわかるのか?」
「なっ!? まさか『元』勇者のヤマトではないのか?」
シグナルはルーの方を伺い見る。
さっさとこの軽薄な男を視界から消したいルーは、明らかな棒読みで、「そだよ~」と言った。
「なるほど。よくもオレっちを欺いたな! ここからは本気で行かせてもらおう!」
シグナルは弓を構えると呟いた。
「W
「ちょっ! どうみてもルーも脈なしでしょ!!」
「そんなことないよ~。アンデットくらい脈あるよ~」
ヤマトの指摘に、ルーはやはり棒読みで答える。
シグナルは嬉しそうに、「ほらっ!」と言っているが、アンデットにはそもそも脈がないことに気づいていないようだった。
「そのポジティブさ。羨ましいわね」
そう
「ッ!?」
反射的に身を反らすと、背後の木へと矢が突き刺さる。
「野郎が、戦闘中に余裕だな」
シグナルは冷たい眼差しをしながら、身を
「ヤマト、気をつけろよ。昨今、勇者パーティといえどリストラの波が来ているからな。あんな軽薄そうで不真面目なヤツ弱かったら真っ先に首を切られるだろう」
「要するにどういうことよ!?」
「バカそうなヤツは強いってことだ!」
その点に関してはヤマトも同感で、攻撃を避けるべく木の影に身を隠す。
「ついでに~。シグナルくんの固有魔法は索敵だから、どこに居ても無駄だよ~」
ルーの言葉の後、すぐにヤマトの元へと矢の雨が降り注ぐ。
「くっ! そういうのは先に言いなさいよ!」
ロングソードで矢を弾くが、あまりの量に耐え切れなくなり、ヤマトは木の影から出る。そのとたんに今度は横から鋭い一射が襲い掛かる。
なんとか腕で受け、最小限のダメージに抑える。
「痛ったいわね! あぁ! もうっ!! 全然ハンターは見つからないし、矢はがんがん飛んでくるしっ! やってられるかぁ!!」
周囲を見回すが一向に相手の姿は見当たらず、一方的に矢を射られる。そんな状況にとうとう我慢できなくなったヤマトは、力任せに一番近くの木を切り倒した。
そして狂ったように周辺の木を切り倒していく。
木に成りすましていたツリーフォークたちは斬られないように、すごすごと逃げ出していく。
「う、うおおぉぉぉ!?」
樹上に隠れていたシグナルは、倒れ行く木と共に落ちないよう脱出するが、それはヤマトの目の前に対峙することを意味していた。
すぐに周囲は更地へと化し、ヤマトはシグナルの姿をしっかりと確認する。
「おいおい。ウソだろ。バーサーカーかよ」
シグナルはまさかの光景に目を見開いて驚いていた。
そして手が止まった一瞬を見逃す程、ヤマトは甘くなく、目にも止まらぬ速さで懐へと潜り込むとソードの柄で
シグナルは苦しそうな声と共に意識を手放し、どさりっと倒れ込んだ。
「ふぅ。なかなかにやる相手だったけど、このアタシの敵じゃあなかったわね」
満足気なヤマトに対し、クロネは、「……も、森が」と哀しそうに唸った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます