第38話「ダンジョン禁止」

 それぞれが準備を終え、再び集結すると、明るい調子でルーが口を開いた。


「やっと皆集まったね~。クロネちゃんとヤマトちゃんはイメチェン?」


 ルーは2人を見回すが、イスズと出会ってからの彼女たちの服装に戻っただけで、むしろ先ほどまでがイメチェンしていたと言えるだろう。


 そんな事情もあり、2人はルーの問いかけに曖昧に返事を返した。


「おい。それより、勇者パーティはどこにいるんだ?」


 イスズは会話を本題へと切り替える。


「ああっ! それなら、そこだよっ!」


 ルーは魔王城の周囲に茂る森の入り口を指差す。

 そこは一部分だけ不自然に土がえぐれ、洞窟ができていた。


「……こんなの今までは」


「うん。そう! 作ったんだよ! ボクちゃんとリミットくんが森を抜ける為にね」


 ルーはぴょんぴょんと跳ねながら洞窟へと寄る。


「この罠や人工モンスターをマシマシで配置したダンジョンをもし抜けられれば、森の反対側に出られるから、頑張ってね! ってなるはずだったんだけど、ボクちゃん負けちゃったからね。通るのも避けるもキミたち次第だよ~」


 イスズは無防備にダンジョンに近づき、中へと入る。


「なるほど、本来ならここを通らないと行けなかったのか」


「あっ! 中に入ったら――」


 ルーの声を掻き消す程の声がダンジョンの中から響いた。


Welcome to the Worldオレ様の世界へようこそ 果たしてキミはここから脱出できるかな?」


 甲高い男の声。それと同時にダンジョンの入り口がまるで生き物が獲物を食べるように閉じていった。


「ちょっ! イスズッ!」


「……イスズ」


 ヤマトは咄嗟に手を伸ばし、クロネは地面を隆起させ入り口へと迫る。

 しかし、2人の行動もむなしくダンジョンの入り口は閉ざされた。


「もしかして、イスズは1人でこのダンジョンを攻略しなきゃいけないの!?」


 ヤマトが心配そうな声を漏らした直後、ダンジョンの入り口から振動と微かな声が伝わってきた。


 その振動と声は次第に大きくなり、とうとうしっかりと聞こえるにまで至った。


「オラァアアア!!」


 イスズの怒声が轟くと、入り口を塞いでいた壁が弾けとんだ。


 ダンジョンから無理矢理に出てきたイスズは肩をわなわなと震わせ叫んだ。


「こいつ、俺をジョニー号から引き離そうとしやがった! 許せんッ!!」


 イスズは入り口をキッと睨むと今度は逆に入り口を埋めるように、ぶっ叩いた。


「これで、誰かが間違ってはいることはないな。よし、次行くぞ」


 イスズの瞳には漆黒の炎が宿ったように見え、一瞬で怒りの度合いが見て取れた。



「イスズ、もう3メートル先だ。さらにそこから斜め右へ3メートル。さらに左へ1メートル。そこだ。そこの真下に居るはずだ」


 共にダンジョン内へと入っていたアリに、勇者パーティの居場所を地上から探させていた。


「本当に合ってるんだろうな?」


「中で感じた魔力と同じだから間違いないぜ」


 イスズは地面を睨みつけると、続いてクロネへと指示を出す。


「ここに穴を開けろ。下の洞窟に届くまで目一杯にな」


 断るという選択肢を与えないような、鋭い物言いにクロネは黙って従った。


 下まで続く穴が穿うがたれるが、イスズはさらに注文をつける。


「これから降りるから、穴の端をハシゴ状にしろ」


 クロネはコクリと頷くと、穴の周囲は形を変え、誰もが降りられるようになった。


「よし。良くやった」


 イスズが満足そうに頷くと、恐る恐るといった感じにヤマトが声をかける。


「ねぇ、イスズ、今からやろうとすることが、分かっちゃったから言うけどさ。ダンジョンをそういう風に攻略するのは、その、ロマンに反するとかって思わない?」


「ロマン? ああ、ロマンなら分かるぞ。重要だよな」


「そ、それなら」


 イスズはニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、それを見たヤマトは悪寒を感じ、数歩後ずさった。


おとこのロマンである、トラックと引き離そうとしたんだ。ロマンを分かっていないのはヤツの方だろ? そんなヤツにわざわざ付き合ってやる義理はないッ!」


「あ~、ははっ。ですよね~」


 ヤマトは乾いた笑い声をもらし、それ以上何も言わなくなった。


「用件は以上か? なら俺は行くぞ」


 イスズはアリを片手に勢い良く穴へと飛び込んだ。


 すぐに下へと辿り着いたようで、話声が聞こえ始めた。


「誰だ、貴様! どうやってここへ!? 黙ってないで何か言え! グホッ」


 地面にいるヤマトたちにすら、うっすらと振動が伝わってきた。


「ちょっと、待て! オレ様は本来、肉弾戦は出来ないんだ。ダンジョンを攻略してここへ辿り着いた時点でそちらの勝ちだ。ゲハッ!!」


 再び地面が揺れる。


「も、もう、オレ様の負けだがら、殴るのは止めろ。いや、止めてください! 宝とかも差し出しますから。ゴフッ!!」


 三度目の揺れ。その後に声が聞こえることはなかった。


「えっと、これ、生きてるかな?」


 ルーは苦笑いを浮かべながら、ヤマトとクロネを見るが、2人はサッと視線を逸らした。

 そんな様子を見て、ルーは両手を合わせ、冥福を祈った。


「キミは頑張ったと思うよ。だからイスズを連れて来たボクちゃんを恨まないでね。あとあまりに不憫だから、あとで勇者パーティでダンジョンマスターのクロスっていう相手だったって紹介はしておくよ」


 ルーが手を合わせていると、ハシゴ状になった穴からイスズが這い上がってきた。

 その表情はいつもの多少不機嫌そうな表情へと戻っており、ヤマトとクロネは安堵した。


「安心しろ。殺してはいないぞ。だいたい、異世界に転生した程度でいきなり人を殺せるか! 俺は殺人者じゃない、トラック乗りだからな」


 しかし、一部始終を見ていたアリは後に語った。


「あのときのイスズには情けも慈悲もなかった。一欠けらも。相手が生きていたのは運が良かっただけとしか思えない」

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