第31話「魔王禁止 その5」
ヤマトとテンペストが戦闘を開始し、『アクセル・アクセス』を使用し始めた頃、イスズは手に持った石ころを捨てた。
「あとはお前の相手だけだ。どうにかして来い!」
アリを人魚の少女に向かって投げつける。任せるとは言うものの、その速度は物理攻撃無効があっても壁にめり込むのは確実という程。完全にこれで決めに来ていた。
「うおぉぉぉぉ!!」
バシンッ!!
アリは空気の壁に弾かれ、人魚少女に当たることはなかった。
イスズは不機嫌な表情で、弾かれたアリを拾いあげる
「てめー、どういうつもりだ?」
ドスの聞いた声でアリに語りかけると、
「いやいや、お前こそどういうつもりだよ! オレに可愛い女の子を殴れる訳ないだろッ!!」
イスズはアリを握ると人魚に向かって思いっきり振るったが、再びアリが作り出す空気の壁に阻まれる。
「おいっ!」
イスズの声は聞くものを恐怖のどん底に叩き落すような冷酷なものだったが、アリも負けじに声を張り上げる。
「ッ!! これだけは絶対にゆずらねぇぞ!!」
強い覚悟を持つアリの瞳を見つめたイスズは、舌打ちをする。
「なら、お前のやり方でなんとかしろよ。まぁ、ヤマトの邪魔にならなけりゃいいだけだ。殴らなくてもやりようはあるだろ」
「おうよっ!!」
アリはその言葉に明るい調子で応える。
「って、あれ? マーメイドちゃんがいないんだが……」
イスズとアリがやり合っている間に、人魚少女は全力で後退し、扉の前まで行くと、魔法の力か人魚としての特性かは分からないが、室外にのみ響き渡る大声を張り上げた。
「誰か助けて~~~~~~ッ!!!!!!!!」
イスズとアリは顔を見合わせ、「「ハァッ!?」」と同時に叫んだ。
※
数秒後なんとか冷静を取り戻したイスズは、深いため息をついてから、誰に言うでもなく叫んだ。
「おい! 諦めてんじゃねぇ!!」
驚きから立ち直ったとたん、苛立ちが勝り、地面に転がる石片に八つ当たりで蹴り飛ばす。石片は壁に当たり反射し、意図しない方向へ飛んでいく。
「クソッ! チクショー。やられたな。よくよく考えれば助けを呼ぶのは結構いい手かもしれん。強くはなくても大勢詰め掛ければ多勢に無勢、さらにクロネの意向で手加減しながら戦わないといけない訳だ」
「う~ん、確かにキツイかもしれねぇな。でも、オレは野郎なら容赦なく攻撃するし、他はイスズとクロネでなんとかなるんじゃないか?」
アリの楽観的な意見に、「どうだかな?」と渋面で呟いてみせた。
すぐに騒ぎを聞きつけた魔物の兵士たちが駆けつける。
獣人やエルフ、ドワーフ、亜人などなど。
側近の少女たちほど豪華絢爛な装備の者はいないが、それでもなんらかの魔法が付与された装備を持って集まっていた。
「おいおい、これはヤバイんじゃねぇの?」
アリの呟きを無視しながら、イスズは杖を鈍器として最前列にいた盾持つ獣人に叩き付ける。
確かにダメージは与えたようだが、普段に比べ効果が薄く、イスズも手ごたえのなさに眉根を寄せる。
「こいつ、衝撃吸収の効果つきだ! 吸収できないくらい連打だッ!」
「言われなくてもッ!!」
イスズは何度も殴りようやく1人倒す。
クロネもその間に危なげなく1人倒していたが、数の多さに
「時間がかかる上に、面倒ときたか」
唾を吐き捨てるように呟き、アリを握る手に力を入れた。
その時、兵士たちの中央に位置していた人魚の側近が悲鳴をあげた。と、同時に兵士たちにざわめきが走り、攻撃も防御の手も止まる。
そこにはざわめくに足る光景が広がっていた。
魔王テンペストがヤマトに切られ、
「良くやった」
ぽそりと誰にも聞こえないように呟くと、兵士たちの戦意を完全に奪う為、近くの兵士を見せしめに倒そうと一歩踏み出すと、魔王の言葉が聞こえて来た。
――ま、待て! 我は本当は魔王なんてやりたくなかったんだ! こんな座なんて今すぐ誰かにくれてやる。こんな城もいらんッ!――
――ぶ、部下も置いていく。我には数人のハーレムが居れば充分だ。今すぐ出て行く。だから見逃せ!――
それらの言葉を聞き、クロネは拳から血がにじみ出る程強く握り締める。
アリは、「おいおい、今のはよぉ」と全ては口にしないが、怒りを
そして、イスズは、
「ヤツは上に立つ者として言っちゃあいけない一線を越えた」
ドンッ!!
轟音を響かせ、アリを地面へと突き刺す。
クロネに目配せでアリを使うよう促し、手に取らせる。
「こいつらはお前らがなんとかしろ。できるな?」
「ああ、魔法使いと組んだオレの力見せてやるよ!」
「……大丈夫。イスズは?」
「あの魔王とかいうヤツは、クロネの想いを踏みにじり、ヤマトの努力を
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