第14話「トーナメント禁止」

 トーナメントの開催を聞いたイスズは、面倒そうな表情を浮かべたあと、フォーランに宿屋の位置を聞いた。


「それならここを真っ直ぐ行くとすぐに……。なぜ今、宿屋?」


 フォーランは頭の上に『?』マークを浮かべる。


「トーナメントだかなんだか知らんが終わったら呼べ。それまで宿屋にでも行って休んでいる」


「え、ええ!? いや、これから祭りだけど?」


「いや、トーナメントだろ?」


「まぁ、そうなんだけど……」


「神輿と酒と伝統がない祭りなんて遊びと一緒なんだよッ! がたがた言ってねぇでさっさと終わらせて一番強い奴を連れて来いっ!!」


 イスズの剣幕に、「酒はあるけど……」と小さく呟いた。


 そんな2人の会話に割って入るようにヤマトが質問を投げかけた。


「ねぇ。一番強いのって、どう見てもフォーランじゃないの?」


 イスズは眉根を寄せて、「どういうことだ?」と聞き返す。


「気配でなんとなく相手の強さってわかるもんだけど、この村をざっと探っても目の前のフォーラン以上の実力者なんていないわよ。ねぇ?」


 ヤマトはクロネにも問いかけると、コクンと頷き肯定した。


「ほら~」


「クロネが言うならそうなんだろうな。なら手っ取り早い」


「ちょっと、アタシ信用なくないっ!?」


 ヤマトは無視してイスズはフォーランを見据え、拳が届く距離にまで無遠慮に近づく。


「ならお前を倒せばいいんだろ。だいたいトーナメントなんて大方が人気がなくなってきたからテコ入れのために行ったり、尺稼ぎだったり、あとは作者が特に目立たせたいキャラに活躍の場を簡単に与えるためのもんだろ。そんなのが俺の時間を奪うかと思うと虫唾が走るッ!」


 フォーランは困ったように口角を引きつらせ、「それは漫画とか小説の裏話じゃ……」と小さく突っ込んだ。


 周囲に葉っぱが舞うのもいとわず、乱暴に頭をボリボリと掻きながら、これが本音だと言わんばかりに真剣な眼差しで語り出した。


「俺もここであんたらと戦うのはやぶさかじゃないんだけどさ。俺が倒れたら誰がワープさせるんだって話なんだよね。それにこの村の統治と守護も。だから俺以外で最強を決めなくちゃいけないんだよね。まぁ、負けること前提の話ってのがかっこ悪いけどさ」


 最後に笑いながらそう言うフォーランは確かに村長の姿だった。


「村長、そんなことありません! 村長はわたしたちのことを常に考える素晴らしいお方です! かっこ悪いだなんて誰が思いましょうか!!」


 今まで黙って隣で話を聞いていたエルフの女性は熱のこもった眼差しをフォーランへと向ける。


「そんな貴方になら、わたしはいつでもこの身を……」


 顔を赤らめ、木人の葉がエルフの体のでっぱった所に当たりそうなほど近づいていく。


 そんな様子をまるでドブ川を漂うゴミを見るような目で眺めるイスズと、


「転生者ならぶっ潰してやっているところなのに……ぎぎぃぎぃぃ」


 人間の体を持っていたなら血の涙を流し、悔しさで奥歯の1、2本は折っていたであろう形相で睨むアリがいた。


「おい。茶番は誰もいないとこでやれ。とりあえず、お前の言うこともわかった。それなら俺はトーナメントだか祭りだかを止めたりはしない勝手にしろ。終わったら宿屋に言いに来い。ヤマト、クロネ、もう問答はなしだ。行くぞ」


 納得はできないが、フォーランの言うことは、理解は出来た為、イスズはイラつきながらも宿屋で待つことに決めた。


 クロネは特に異論もなくイスズの後について行った。

 ヤマトは、「アタシ、トーナメントに出てもいいけど……」と言い掛けると、ものすごい形相でイスズに睨まれた為、「ひっ」と小さな悲鳴を上げていそいそと皆の後へとついて行った。


 唯一アリだけが納得していないようで喚き散らしていたが、所詮は杖、イスズによって強制連行された。


「ははっ……。ほんとは祭りを盛り上げるため参加してほしかったんだけどムリかな」


 フォーランは苦笑いを浮かべイスズ達を見送った。


 宿屋への道中、イスズはぽそりと、アリに呟くと、とたんにアリは静かになったが、その闘志はただ深く胸の内にしまわれたようでもあった。

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