第2章 魔王編

第13話「魔物の村禁止」

 トラックにあるまじき静かな排気音を立てて進むジョニー号。

 その運転席にはその様子を悲しげな瞳で見ながらハンドルを握る屈強な男。


 トラック乗りのイスズは未だにジョニー号が魔力と電気のハイブリッド車に変えられたことに落ち込んでいた。


「……イスズ」


 助手席から声をかけるフードを目深にかぶった『元』魔王のクロネは、心配そうに何度もイスズの方を見たり、正面を見たりと落ち着かない。


「すまん。大丈夫だ。それより魔王城ってやつはこっちでいいのか?」


 クロネはコクリと頷き、これからの進路を説明する。


「ハイッ。魔王城は防犯の為、定期的に場所を変える仕掛けを施してあります。その為ある条件を満たさないと行けないようになっているのですが……」


 イスズに強制的に転生者が好まなそうな口調にさせられている為、どこか軍人のような口調でハキハキと答える。


「チッ。その条件がこの先にある魔物の村で認められて、村長に近くまでワープしてもらうって訳か」


 再びクロネは頷く。


「面倒だが、それが一番近いってんなら仕方ないか」


 イスズはどれだけ踏んでもいまいち手ごたえを感じられないアクセルを目一杯に踏み込んだ。



 魔物の村、『テラス村』魔物が作ったとは思えないレンガ造りの家々が立ち並び、流通量以外は大都市よりも近代的であり、服装なども個々人が高い水準を保ち貧富の差も見られないような優良都市であった。


「おいおい。奴隷もいないし、しっかり服をきてるし、人間どもよりよっぽど良い暮らしをしてるじゃねぇか」


 その様子を見て、愕然とする2人の美少女。

 片やトラックの助手席にいたクロネは小さな体をぷるぷると震わせ、


「……違う。こんな牧歌的ぼっかてきなの。違う」


 と怒りのため肩が震えていた。


 そしてもう1人。

 全身を鎧で固めた装備をしている『元』勇者のヤマト。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイル抜群の美少女なのだが、転生者が好むという理由で超強制的に全身鎧プレートアーマーを身に付けさせられている。


 そのヤマトは自分が今まで戦ってきた意義を失いそうになっていた。


「えっと、いや、アタシの頃は魔物っていうと無差別に人を襲う凶悪集団で集落なんかもそりゃあ酷くて雨風がしのげればいいって感じか、人をこき使って立てさせた城って相場が決まっていたのに……。これじゃあ、もう」


 平和的に解決してしまってお互いがお互いに関心を得なければ戦う必要すらなかった。

 よって統治の為の王は必要かもしれないが、戦う為の勇者は必要とされないのではないか。


 自身の考えにグラグラと足元が覚束なくなっていると、力強く肩を掴まれた。


「落ち着け。なんとなくだが、お前が考えてることくらいはわかる。だが、それならなぜ未だに勇者と魔王は戦っているんだ」


 こいつはきな臭いと付け加え、イスズはあの神の所為かと殺意を向けた。

 おそらく神は今頃悪寒に襲われていることだろう。


「さて、クロネ、ここで認められるにはどうすればいい?」


「一番強い魔物を倒すこと……です。でも今は違うかも、ワタシのときはこんなじゃなかったから……」


 クロネの声はだんだんと先細り、ほとんど聞こえなくなる。


「おい。もっとハッキリ喋れ。お前らは転生勇者と転生魔王に変えられた世界を戻すために旅してんだろうがっ! 大切なのは今がどうかよりこれからどうするかだ!」


「とりあえず片っ端から倒していけばいいな」と付け加え、トラックの荷台から武器となる杖を取り出した。


「いや~、やっとオレの出番だな」


 いきなり喋り始めた杖、思考する武器インテリジェンスウェポンのアリエイト。通称アリは外に出られ伸びをするように体を曲げる。


 この2人と1本がイスズの転生者を倒し、現代のトラックの事故率を下げるという目標を共にする仲間であった。


「あら~、お客さんですか?」


 村の入り口で立ちすくんでいたイスズ一行に声を掛けてきたのは、エルフの女性だった。

 普通ならばスレンダーな体型と美しい顔に見蕩みとれるところだが、イスズは一切の躊躇もせず、アリをその首元へ突きつけた。


「魔王城への道まで案内しろ!」


「う~ん。この村なら人間でも観光可能ですけど、それでは?」


 エルフのおっとりした口調にイライラしながら、「ダメに決まっているだろ」と吐き捨てる。

 ヤマトとクロネも同様の気持ちだ。


「えっと、確か魔王城までは認められた方しか通れないって先代の魔王様が決めていましたから……」


 エルフは少々お待ちくださいと言って村の奥へと去って行く。

 そして数分の後にやってきたのは先ほどのエルフの女性と全身が木のツタで出来た木人、俗にエントと呼ばれる種族の男性が同伴していた。


「こんにちは~。あんたたちが魔王城に行きたいって人?」


「ああ」


 イスズは中々事が運ばない苛立ちを隠そうともせず、ぶっきらぼうに返事を返す。


「俺はエントのフォーラン。この村の村長をしている。

でも、そっか、困ったな。一応先代のときはこの村で一番強い奴と戦って勝ったら認めるってルールだったらしいけど、今の魔王様に変わってからは顔見知りしか通さないようになってるんだよね」


 フォーランは悩んだように頭をぼりぼりと掻くと周囲に葉が散っていく。


「つまりどういうことだ?」


「つまり、誰が今一番強いか分からないのさ。というわけで――」


 魔法なのか何なのかわからないが、村中にフォーランの声が響き渡り、


「これより、第1回テラス村最強決定戦を行う! 優勝者には名誉と俺から豪華商品だっ! 皆、祭りだッ!! きばれよッ!!!」


 こうしてフォーランによりトーナメントの開催が宣言された。

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