第8話「インテリジェンスウェポン禁止 その1」
イスズがアリと問答を交わしている頃、村の入り口に3つの大柄な影が現れた。
「ここに魔王様が求めるインテリジェンスウェポンの魔杖があるのか」
そう呟いた男は筋骨隆々とした体を余すことなく見せつけ、衣服は腰布だけだったが、他の2人も似たような格好をしており、彼らにとってはそれが普通なのであった。
村へ1歩立ち入ると、すぐに入り口にいた男が気づき、悲鳴を上げた。
「オ、オーガだぁ!!」
村の紹介しかしないような男が始めて叫んだ瞬間だった。
男が叫んだ通り、3人はオーガという種族の魔物であった。
一見すると姿は人間と変わらないが、体表は深い黄緑色をしており、なによりその頭部には1、2本の角が生えている。
俗説では1本角のオーガは良いオーガなどと言われるが、見たら1本でも2本でも逃げた方が賢い選択だろう。
始めに村に入ったオーガは1本角だったが、それでも逃げた村の男は賢かったと言えるかもしれない。
1本角のオーガは村人に聞こえるように高らかに声を上げた。
「我々の目的はこの村にあるという、思考する武器―インテリジェンスウェポン―の魔杖だ。大人しく渡せば無駄な危害は加えない。だが、逆らうというのなら――」
オーガは一番近くの小屋を、「フンッ!」と力を入れ叩く。
小屋は派手な音を立てて崩れさった。
「こうなる。さぁ、魔杖を差し出してもらおうか!」
「つ、杖なら広場の噴水にある! か、勝手に持って行ってくれッ!!」
村人は誰ともなしにそう告げながら、恐怖に顔を歪め逃げ去っていく。
「誰も持ってきてはくれないみたいだなぁ。ったく。オーガが村の中を闊歩してもいいっていうのかねぇ」
1本角のオーガは仲間に目配せすると、ゆっくりと広場まで歩き始めた。
※
イスズたちは村人たちを掻き分けて行くと、不意に人がいなくなった。
「おいおい、何か出てきそうな雰囲気じゃないか?」
アリは不穏な空気を感じ、イスズへと声をかける。
「鬼が出るか蛇が出るか。まぁ、転生者が出なけりゃ別にいいさ」
目の前からは3人のオーガがゆっくりとだが力強い足取りでこちらの方まで真っ直ぐに向かってくる。
「本当に鬼が出たぞッ!! どうすんだ!? お前ら勝てるのか!?」
まだイスズたちの強さを知らないアリは慌てて、今にも飛び出しそうな勢いだった。
「うるさい。落ち着け!」
「ぎゃっ」
容赦なくアリを地面へと叩きつけ黙らせる。
「おいおい。おれたちを見ても逃げねェやつらがいるぜ」
オーガの1人がイスズたちを見つけるなり下卑た笑みを浮かべる。
今にも人間を食べに飛び掛りそうなオーガを1本角のオーガが制止する。
「待て! 彼らの手にある杖。あれを渡しにきたのだろう」
1本角のオーガは一歩踏み出すと、
「わざわざごくろう。これでこの村に危害は与えないことを保障しよう」
イスズの手から杖を受け取ろうと、ゴツゴツとした岩のような手を近づける。
しかし、その手が杖に届くことはなく、スッとイスズは手を引いた。
「おい。これは俺のもんだぞ。何勝手に
オーガを睨み付け、今にも襲い掛かってきそうな勢いのイスズを見て、完全に予想の外だった1本角は目を点にして、手を伸ばした姿勢のまま固まった。
「おい。聞いてんのか?」
微動だにしないオーガに軽く杖で小突こうとした刹那。
後ろに控えていたオーガの一人が、獣のように跳躍し、その凶悪な拳を叩き込もうと拳を握る。
「あぁん!」
イスズは不機嫌そうに杖を振るい、飛び掛ってきたオーガを叩き飛ばす。
その威力は凄まじく、杖での一撃を受けたオーガは目にも止まらぬスピードで近くの家屋へと衝突し、轟音を撒き散らした。
「なっ!! 一撃で……。これがインテリジェンスウェポンの実力かッ!」
クロネとアリは精一杯に首を横に振ったが、イスズの強さに目を奪われオーガが気づくことはなかった。
オーガは油断なく、すぐ目の前の敵になりうる男を見据えると、笑みを浮かべ、両腕の筋肉が隆起する。
強者を見つけ、今にも飛び掛り殴りあいたい衝動を1本角は抑え、努めてこう言った。
「我らは魔王様の命によりここにいる。大人しくその杖を渡せば命の保障はしよう」
魔王という言葉にクロネはピクッと小さく反応を示した。
「おい。イスズ! 魔王からオレ、スカウトされてるぜ! なぁ、なぁ、魔王って女の子かな? お~い。そこのオーガさん、そこんとこどうなのさっ!」
「…………」
オーガたちからは何の反応もなかった。どうやら転生者と魔法使いにしか届かないアリの声は聞こえていないみたいだった。
「えっと、転生者はいないみたいだな。よしっ! イスズ聞いてみてくれ!」
そんなアリの声を無視しつつ、イスズは、転生者の区別をつけられる便利な杖だなとアリを見直していた。そして、益々渡すわけに行かないとも。
「意外な便利機能がこいつにはあるみたいなんでな。お前らに渡すわけにはいかない。一応聞いておくが、魔王ってのは女か?」
「ん? その質問に意味はあるのか?」
「ああ、あるさ。美少女だった場合。今すぐこいつをへし折るからな」
「おおぉい!! イスズ。そんなオレすぐ裏切るような杖じゃないから! 1本芯のある男だからっ!!」
「なにやらよくわからんが、魔王様は男だ。それも我すらも凌駕する程の美筋肉の持ち主だ。同じ男でも見惚れる程だぞ」
まるで自分のことのように誇らしく語るオーガに気持ち悪さを覚えたイスズ一行は静かに数歩下がった。
「クッソ!! なんで毎回男なんだよっ! 張り切って鬼退治するぞ! 絶対に勝つからな!」
オーガは恍惚の表情を浮かべ、アリは絶望の涙を見せる。
誰からともなくこの空気をなんとかしようと放たれた
「闘う準備はできたようだな。先に名乗らせてもらおう。我は魔王四天王の1人。北のシュエ! さぁ、かかって来い!!」
咆哮ともとれるような大声で名乗りをあげ、両手を広げ独特の構えをとった。
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