第9話「インテリジェンスウェポン禁止 その2」

 1本角のオーガ、魔王四天王のシュエ。

 彼の名乗りに応えるようにイスズもアリを投げ捨て、ゴキゴキッと拳を鳴らすが、すぐに考え直したようにアリを拾い呟いた。


「ここで俺が倒すと、それはそれで俺という転生者がカッコいい行動を取ったことになりそうな気がするんだが……」


 強大な魔物、村の命運を預かり闘う転生者という構図ができていることを危惧したイスズは本気で悩んでいると、


「イスズ。ここはワタシがやる」


 クロネがイスズより先にシュエの前へと立つ。


「魔王四天王ならワタシが倒すのが筋のはず」


「そうか? そうだな。その方がいいな。そういうことなら任す」


 イスズはアリを拾い上げると、邪魔にならないよう端の方へドカッと座った。

 その様はまるで、野球中継をみるおっさんのようで剣呑とした雰囲気はいっさい感じさせなかった。


「おい。小娘。魔法使いと見受けるが、多少の自信なら今すぐあの男と交代しろ。年端もいかぬ女を嬲る趣味は我にはないからな」


「小娘……? 嬲る? ふんっ。見た目だけで相手を推し量るとは。愚かしいにも程があるぞ小童がっ」


 ヒュン!


「きゃっ」


 クロネが魔王らしい言動をした瞬間、何かが飛来し、クロネの頭を打ち付けた。

 『元』魔王に不意打ちとはいえこんなことができる人物は限られる。


 クロネは飛来したモノをアリだと確認し、ゆっくりとイスズの方を向いた。


「おい! 次はないぞ。わかっているな」


 視線と言葉だけで魔王をも殺しそうなイスズを見て、クロネはガクガクと首を縦に振った。


「むっ! 魔杖を渡しての加勢か」


 1本角のオーガ、シュエはクロネに投げられたアリのことを加勢だと受け取っていた。


「……確かにアリは使えるかも」


 クロネは、ずれたフードを直してから、自分に投げつけられたアリを手に取ると、イスズの元まで行き、


「これで四天王を撃退すれば魔王が悔しがるかも……」


 使用の許可を求めると、いつものごとく。


「もっとハッキリ言えッ!!」


「ハ、ハイッ!! 魔杖アリエイトの使用許可をいただけないでしょうかっ!!」


 キビキビとした言葉にイスズもすぐに許可を出した。


「まぁ、別に使っても構わないが――」


「い、いやったぁぁぁぁーー!!!!!」


 アリは絶叫にも似た歓喜の声を上げた。


「やった! 初の女の子だ。ちっちゃいお手々にすべすべの肌。柔らかな感触に優しく包み込むような力加減。しかも、しかもオレに魔力を送り込んで使ってもらえるんだろ! もうそうなったら脱童貞と言ってもいいよね。あれ? ってことは夫婦といっても過言ではないよな!! 添い寝とかもしてもらっちゃったりもありなんだろうか。ハァハァ!!」


 もちろん過言だし、なしだった為。


「……気持ち悪いからやっぱり止めとく」


 クロネはそっとイスズへ魔杖を手渡した。


「……賢い選択だな」


 再び男の手の中へと戻ってしまったアリは、「なん……だと……」と失意の声を上げた。


 クロネはオーガの前へと再び立つ。


「おい。本当にインテリジェンスウェポンの魔杖の援護はいらないのか。お前は知らないかもしれないが、魔王四天王の北を任されるというのは――」


「知ってる。北はもっとも武力・暴力に優れた者が冠する称号」


「そこまで分かっていて立ちはだかるとは、面白い! よほど腕に覚えがあるか、自殺志願者か。是非前者であることを願うぞッ!」


 シュエは後ろに控えるオーガに目配せで、手出しは無用。もう一人のオーガの介抱へ向かえと伝える。


「では行かせてもらおう!!」


 シュエは村中に響渡る程の咆哮を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る