第6話「ラッキースケベ禁止 その2」

 村の中へと3人は進んでいくと、やたらと服飾関係の店が目につく。


「こんなに偏って店があるってことはこの辺は絹とかが盛んなのか?」


 イスズの問いに2人とも首をかしげる。


「この辺で有名なのって聞いたことないわね。クロネは?」


「……ない」


 イスズは不振に思いながらも村の中をうろついていると、


「きゃああああ!!」


 女性の叫び声が聞こえた。

 元勇者だけあり、ヤマトは即座に方向を察知し、誰よりも早く走りだす。

 まずヤマトが辿り着き、すぐあとにイスズが声の方へ駆けつけると、一軒の洋服屋に辿り着く。


「声はこの中からねッ!」


 元勇者ヤマトは率先して店内へと入ると、すぐに戻ってイスズが入ろうとするのを食い止める。

 その表情は困惑しているというか恥ずかしがっているというか、とにかく叫び声を上げた女性を見て来たにしては要領を得ない表情だった。


「おい。いったいどういう了見でテメーはそんなことしてんだ?」


 青筋を浮かべて無理矢理にでも入ろうとするイスズにヤマトは全力で弁解し始めた。


「あんたが入ったら絶対死人が出るからッ!」


「ほお。何があったかちゃんと説明してくれるんだろうな?」


 ヤマトは頷くと、店内で見たものを説明し始めた。


「とりあえずこの中には危険はないわ。居たのはただの恋人同士だけで、試着室のカーテンが外れて着替え途中で彼氏に見られちゃっただけよ」


「なぁ、それって――」


 イスズが言葉を発しようとすると、店内から気味の悪い裏声でイスズたちに声がかけられた。


「あらあら、ずいぶん無骨なお客さんね。ほら、あなた顔はいいんだからもっとオシャレしなきゃ。そっちの彼氏も入って入って」


 筋骨隆々にもかかわらず、気色の悪い言葉使いに派手な洋服を華麗に着こなす男性店員が、ヤマトとイスズを無理矢理に店内へと引きずり込む。


「え、アタシ別に服なんてぇ」


 イスズの顔色をチラチラと伺いながらも満更ではなさそうなヤマトに対し、全力で嫌がるイスズだったが、それでも中へと連れ込まれ、ヤマトの服を選ぶこととなった。


(この力は……)


 イスズが不信に思っている間に、ヤマトは服を物色し始め、手にしたのは、ヘソ出しシャツだった。


「却下」


 イスズの凍てつくような冷たい声が店内に響く。

 ヤマトは大人しくその服を戻そうとすると、ガシッと手を掴まれた。


「んもう。ダメよ。気に入った服があったらまず着て見なきゃ。彼も似合っているかどうかは着たあとに答えなきゃ」


 店員はヤマトを試着室へ連れて行き、イスズをその前で待たせようと導く。

 しかし、イスズはそんな店員を意にも介さず店内から出ようとした、そのとき、


 ゴンッ!!


「ッ!!」


 見えない壁のようなものに妨げられ店内から出ることは適わなかった。それどころか、ぶつかった衝撃で、体は試着室の方向へ弾かれる。


 イスズはこのあとのテンプレート展開が一瞬で脳裏に走り、とっさに拳を突き出した。


「ごふっ!!」


 息が無理矢理漏れる音に拳が肉へとめり込む柔らかな感触が試着室のカーテン越しにイスズへと伝わる。


 中からどさっと人が倒れる音も聞こえて来たが、イスズは気にする素振りも見せず、額の汗を拭きながら、「ふぅ」と息を吐く。


「危ない。今のは完全に試着室に飛び込んで、着替え中の女の子の胸にダイブする流れだった」


「イ、 イスズ、いきなり、なんで……」


 息も絶え絶えなヤマトに、冷たい声で告げた。


「何かの力が働いているみたいだ。敵がいるかもしれん。まぁ、そんな中で鎧を脱いだお前が悪い」


今度こそ店から出ようと出口へと向くと、首は勝手に試着室のほうへ曲がり始め、抵抗しようとすればへし折らん威力で力がかかる。


「こいつは確定だな」


 イスズは常人ならば首の骨が折れるほどの圧力に抗い、店の出口にまで来ると、その拳をもって見えない壁を叩き割った。


 一歩外へ出るとウソのように首への力は無くなり自由を手にする。


「クロネ。この村には何かある。気をつけろ」


 店内に入らず外で待機していたローブ姿の元魔王へ声を掛け、辺りを油断なく伺う。


「あ、あの……」


「なんだ? もっとハッキリ喋れ」


「はいっ! 2人におかしな現象が起き、ワタシにだけ何もないことから魔法での事象だと推測されます。そこで魔力探知をした結果、中央広場にて異常な魔力を感知しました」


 まるで軍人が話すように身体を反らせ全力で声をあげる。

 それでもやっと普通の話し声程度の声量なのだが、イスズはその気概を少し気に入った。


「良くやった。あの元勇者の痴女より数倍は役に立つな」


 ゴキゴキッ!! っと首の骨を鳴らしながら、「これから反撃だ」と呟いた。

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