第23話

金曜日。

朝から自宅で撮影を始める赤間と近藤。

自宅でのシーンを次々と撮影していく。

お昼過ぎに他人を装い会社へ電話する赤間。

持田が休みという情報を手に入れる。

安心し、夜まで撮影を続ける2人。


土曜日。

会社のシーンを母校である大学の教室を利用し撮影していく。

持田役、松原役、指原役の3名に丁寧に挨拶をする2人。

ほとんどゲリラの状態で撮影を進めていく。

途中で2人を教えていた教授に出会ってしまい怒られる。


日曜日。

昨日怒られた教授に直接申し込み、半ば強引に牧師役を演じてもらう。

徐々に気分が乗ってきて楽しんでいる教授。

カットがかかる度に笑い出してしまう赤間と近藤。

大学近くの幼稚園に行き、赤間の脳内に現れた園児達を演じてくれる子供を募集する。

数名面白がって参加してくれる事になり安心する2人。



面白いほど順調に撮影は進んでいく。




月曜日。

朝、近藤からの電話で目覚める赤間。

「おはよう、コンちゃん。」

「おはよう。悪い、急に仕事入った。」

「え!・・・うーん、しょうがないね。わかった!」

「悪い!」

「いやいや、連日付き合ってもらってるし。それに今日月曜日でしょ?なんか動きがあるかもしれないから会社の方に行ってみようかな。」

「え、お前誰かと会ったらどうすんだ?」

「ちゃんと変装するよ。おかげ様でここ数日で変装グッズ増えたし。」

「確かに。でも気をつけろよ?」

「うん、ありがとう。」

電話を切り、起き上がって屈伸をする。


(持田が早めに出社するかもしれないから、早めに行って会社の前のカフェで待機するかな。)



急いで身支度を整え、安物の黒髪ロングのカツラとキャップを深く被る。

なるべく目立たない様に濃い緑のネルシャツと黒いスキニーパンツという地味な格好をして鏡の前に立つ。

「・・・だっさ。」

1人で笑い、家を出た。



会社の前のカフェに到着すると、窓際の席に座る。

窓の外、目の前にはすぐ会社のビルが建っている。

腕時計を見ると、定時出社の時刻より1時間ほど早い。

(早すぎたかな。)

会社のビルを眺めながらボーっとアイスコーヒーを飲む赤間。



30分が経ち、ちらほらと知っている人間がビルに入って行った。

(すでに懐かしいな、みんな。社員が1人自殺しても普通に仕事は続いていくんだもんなあ。)

しみじみと実感する赤間。

既にアイスコーヒーはほとんど無くなっている。

(やっぱり持田は来ないかなあ。)



その時、勢いよく2つ隣の席に男性が座ってきた。

チラッと横を見た赤間の目はまさしく"点"になった。


(・・・嘘でしょ?)



帽子を深く被っているが、横にいるのは紛れもなく持田であった。



(ありえない!なんでここにいるの?!)

カツラの黒髪を両手で掴み、顔の前に持ってきて必死に顔を隠す赤間。

(マジでやばい。早く逃げなきゃ!)



急いで立ち上がり、席を離れる赤間。

勢いよくカフェを出ると、ちょうどカフェに入ろうとしていたOL2人とぶつかり転んでしまう。

「うわっ!!」

「え!大丈夫ですか?」

OLの1人が心配そうに手を差し伸べる。

「あ・・・すみません・・・。」

OLの手に頼ることなく急いで1人立ち上がる赤間。

(やばい、目立つ目立つ目立つ!)


焦りながら窓際にいる持田を見る。

持田は顔を上げたまま、会社のビルの方を見て驚いた顔をしていた。

不思議に思い、赤間も会社のビルの方を見る。


(あ・・・。)


会社のビルに入っていく指原が見えた。


(指原・・・。)


持田が俯いたのと同時に赤間も俯く。


(今すぐここから離れなくちゃ・・・。今バレたら、全部意味が無くなっちゃう。)


動かそうとするが足がなかなか動かない。


(なんで・・・?動いて!)


顔をあげると、既に指原の姿は無く、持田は頭を抱え俯いていた。


(持田・・・辛そう・・・。そうだよね、指原に相当恨まれてるもんね。)


頭を抱えたまま動かない持田。

その姿をただ眺める赤間。


(辛いよね?辛いでしょう?・・・こんな場所にあなたもいちゃ駄目だよ。私達はこの場所からもう消えないと駄目だよ。)



赤間の脳内に近藤の言葉が蘇る。


"ちゃんと面白いよ、お前。"




ぎゅっと拳を握る赤間。



(私達がこの場所から消えないと、この映画は完成しないんだから。)



先ほどのOL2人組が会計を済ませ、それぞれのグラスを持ち席に向かい始める。

「・・・すみません!」

2人に聞こえる程の大きさで呼び止める赤間。

きょとんとした顔で振り返る2人。

「・・・はい?」

「あの・・・いきなりのお願いで気持ち悪いと思うんですけど・・・。」

不思議そうに2人は赤間を見つめている。

「今から一芝居打って頂けないですか?!」

「「・・・はい?」」

声を揃えて言う2人。




窓際と逆の店内奥の席に座り、鞄からハンディカメラを取り出す赤間。

OL2人楽しそうに会話をしながら持田の隣の席に座る。

未だに持田は頭を抱えたまま動かない。

OLは殴り書きで書かれたセリフが書いてあるメモを机の上に置き、持田側に鞄を置いてメモを隠した。

様子を伺っている2人に、赤間は手を上げて口パクで"どうぞ"と伝えた。


「よーい、スタート。」

小さく呟きRECボタンを押す。



「あ!てか知ってる?自殺した子の話。」

「え?何?知らない。」

「うちのビルの5階のさ、映画の会社あるじゃん?」

「あー、うん。」

「あそこの社員が一人、先週自殺しちゃったらしいよ。」

「え?まじ?」

「その会社の人が金曜にエレベーターの中で話してるの聞いちゃった。」

「えー、やばくない?理由は?」

「それがさぁ・・・パワハラだって。」

「まじで?」

「上司の名前が遺書に書いてあったらしいよ、やばいよね。」

「え、でもそれってニュースになってもおかしくなくない?なってるのかな?」

「ううん、それが自殺しちゃった子のお母さんが公にはしないって事にしたんだって。まあ、マスコミとかにバレちゃったらアウトだけど。時間の問題じゃない?」

「うわーやばい。あの会社、そういう感じなんだ。やっぱ業界系ってブラックなんだろうね。」

「ていうか、このネタ、週刊誌に売ったらもしかしてうちらお金貰えるのかな?」



持田は必死に額の汗を拭いてから、再び頭を抱え込んだ。

その光景をカメラを通して見ている赤間。

(・・・素人のはずなのに、しかも急にお願いしたのに、演技がうまい。これは持田もかなり焦るはず・・・。)



しばらくし、再び赤間の様子を伺うOL2人。

OLに向かって両手で小さく丸を作る赤間。

「カットです。」

口パクでそう伝えるとREC停止ボタンを押す。

OL達はお互いの顔を見合わせ、意地悪そうに笑って席を立った。

赤間も立ち上がり、OL達の後ろをついて店を出る。



「本当にありがとうございました!面白い撮影ができました!」

店の外で2人にお礼を言う赤間。

「いやいや、急に何って感じだったけど、朝から面白かったよ。」

「こんなお願いされる事、多分一生ないよね?」

笑顔のOL2人に安心した顔をする赤間。

「隣のおじさん、かなり焦ってたっぽいよね。」

「焦ってた、焦ってた!めっちゃ汗かいてたし!」

「ていうか、さっきの話って本当?うちら全然違うビルの人間だから全く知らないんだよね。あのおじさんがパワハラ上司って事?」

「あー・・・。」

気まずそうな顔をする赤間。

興味津々な顔をする2人。



その瞬間に、店内から持田が飛び出して来た。

(持田?!)

持田はこちらに気がつく事も無く、急ぎ足で会社のビルに入って行った。

「あれ?さっきのおじさん?」

OL達もビルの方を見る。

「あ!あの!本当にありがとうございました!えっと、これ謝礼です!さっきの話、基本本当の話なので!」

焦りながら財布から1万円を取り出し、OLの手に無理矢理持たせ、ビルの方向へ向かい走り去る赤間。

後ろから、OL達の"え〜?!"という声が聞こえた。



(持田、なんで会社に?あの焦りっぷりは何?)

ビルの入り口で中に入るのを躊躇している赤間。


(でも私はこの中に入ったらまずい!全部終わっちゃう!)


頭を搔きむしり、足をその場でドタバタさせる。

「あーーーーー!」



(駄目だ、とにかくこの場を離れなきゃ!)


両手で自分の頰をパンっと叩くと、駅の方に向かって走り始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る