第22話
「では、木村さん!撮影終了です!ありがとうございました!」
ハンディカメラを片手に持ち、笑顔で木村を撮影する赤間。
「ありがとう〜!楽しかったわ〜!」
木村の隣で旦那も微笑んでいる。
「完成を楽しみにしてるわね!」
「はい!」
病院の入り口、車で去って行った2人を見送るとREC停止ボタンを押した。
(とりあえず、初日の撮影は無事に終了、と。)
ハンディカメラを鞄にしまい、駅へ向かい歩き始める。
駅へ到着すると同時に携帯が鳴る。
画面には"コンちゃん"の文字が表示されている。
赤間の表情が一気に明るくなり、すぐさま通話ボタンを押した。
「もしもし!コンちゃん?」
「おお、出るの早いな。」
「あーーコンちゃんだーーーー!」
電話先の近藤の声に安心し、肩の高さがガクっと下がる赤間。
「初日は無事に終わったの?」
「うん、今さっき。これから家に帰って早速今日撮影した分の編集しようかなって思って。コンちゃん仕事終わったの?」
「おう。そしたら撮影の詳細とか話したいからお前の家行ってもいい?」
「もちろん!来て来て!」
「オーケー、じゃあ後でな。」
電話を切って、笑顔で改札を通る赤間。
(こんなにワクワクするの、いつぶりだろう!)
軽やかな足取りで電車に乗り込んだ。
自宅へ戻り、今日撮影したデータをパソコンに取り込んでいると近藤が到着した。
「いや〜久しぶりだな〜。」
「本当だよ!コンちゃん忙しいから!」
「それはお前だろ。この2年間ぐらい終電以降じゃないと遊べないって言ってたじゃん。」
「今思うとありえないよね?働き方改革どこ行った?って感じ。」
久しぶりの再会に笑顔が絶えない2人。
「さて、本題に入りますが。」
しばらく他愛も無い話を楽しんだ後、切り替える様に資料を取り出した赤間。
「明日からの撮影スケジュールはこんな感じ。恐らく持田はしばらく会社に行くことは無いはず。だからその間に私が自殺をする前までの経緯の部分を撮影する。キャストに関してはこの後2人で手当たり次第探したい。結構私が頭の中で妄想してた光景も撮影したいから本当はメイクさんとか簡単なCG出来る人が欲しかったんだけど、目星が付かない・・・。」
「まあ俺たちの仲間内にメイクさんはいないもんな。ただ簡単なCGであれば俺の知り合いがやってくれると思う。」
「え!本当!?」
「企画書読む限り、あんまりこだわった映像じゃない方が面白いと思う。今日だってハンディカメラで撮ったんだろ?全体的に低予算のB級感出していこうぜ。だからメイクも基本はお前がやればいいよ。変な感じでいいんだから。」
資料をめくりながらサラサラと話す近藤。
勢いよく近藤に抱きつく赤間。
「うわ!」
「もう〜・・・コンちゃん最高!頼れる男!!」
微笑みながら優しく赤間の頭にポンっと手を乗せる近藤。
「・・・お前よく頑張ったな。」
「・・・え?」
ゆっくり顔を上げる赤間。
「この自殺までの経緯の部分。これだけじゃないだろ?2年間は書き切れる内容じゃなかっただろ?忙しそうにしてたけど、たまに会った時に、お前は上司の愚痴混じりつつだけど仕事を楽しんでる様に見えた。好きだったろ?仕事。今まで耐えてきたものから逃げ出すって辛いよな。その決心をこういう面白い企画によく変えたよ。ちゃんと面白いよ、お前。」
近藤の言葉に涙が流れた赤間。
急いで近藤から体を離す。
「い、嫌だなあ!コンちゃん良い奴すぎる!」
「それは前から分かってるだろ〜。俺とお前の仲だ。大学時代思い出して全力で作ろうぜ!」
「・・・うん!」
夜な夜なスケジュールの話を進める2人。
時刻は気がついたら24時に近づいていた。
「あ!やばい!」
時計を見て焦りだし、出かける支度をする赤間。
「どうした?どっか行くの?」
「会社にICレコーダー設置しといたの!深夜に回収しに行かないと。」
「そんな事までしてたのかよ。誰かに会ったらどうすんだ?俺が行こうか?」
「こんな時間に会社にいるの持田ぐらいよ。だから今日は絶対に誰もいないはず。だから大丈夫だよ。コンちゃんは明日の為に早く寝て!」
「おお、そうか。じゃあ気をつけて行けよ。俺もまだ終電あるから駅まで一緒に行くよ。」
急いで部屋を後にする2人。
電車のホームで近藤と別れ、最終電車で会社の方面に向かう赤間。
念のために帽子を深く被る。
深夜のビルは真っ暗で1人の警備員が見回りをしている。
警備員が別のフロアにエレベーターで上がって行ったのを確認すると、会社のフロアへ別のエレベーターで上がっていく赤間。
会社に到着すると案の定フロア全体が真っ暗だった。
(予想通り。さっさと回収して出よう。)
自分のデスクに近づき、デスクの下に潜るとICレコーダーを急いで回収する。
そのまま鞄に押し入れて急ぎ足で会社を出る。
逃げる様にビルの前でタクシーを捕まえ、すぐに乗り込む。
タクシーの運転手に行き先を伝えると、鞄からICレコーダーを取り出す。
ポケットからイヤホンを取り出しICレコーダーを再生した。
"ザザ・・・ザザザ・・・"
"松原さん!何かの間違いです!赤間の嘘に決まってる!"
(持田・・・。)
動機が激しくなり、胸に手を当てる赤間。
"あんたが由理を追い込んだ・・・あんたが殺したんだよ。"
(指原・・・!)
"嘘・・・嘘ですよね・・・?由理、生きてますよね・・?"
"電話は警察からだ、自宅で首を吊っているのが発見された。"
"やだ・・・やだやだやだ!嘘だって言って下さい!"
イヤホンを通して指原の泣き声が赤間の脳内に入り込んでくる。
「・・・ごめん、ごめんなさい・・・。」
「え?」
小さく謝りながら涙声に変わっていく赤間に運転手が驚く。
「ごめん、指原・・・ごめんなさい・・・。」
(巻き込んで、悲しませて、ごめんなさい。)
ICレコーダーを鞄にしまい、窓の外を眺める赤間。
目にはうっすらと涙が溜まっている。
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