第21話

電車に乗っている赤間。

腕時計を見ている。

(店を出たのが17時頃、病院の最寄駅に到着するのが17時半。えーと、うちの会社から病院までタクシーで30分・・・電話の後すぐ移動出来る状況じゃないだろうから、18時頃に持田さんが来るとして・・・ギリギリだな。)



17時半頃、電車が到着すると急いで降りる赤間。

(病院まで徒歩10分・・・急がないと!)

走り出した瞬間に携帯が鳴る。木村からだ。


「あ、赤間さん?木村です。道がすごい空いててもうすぐ着くわよ〜!」

「早いですね!?私も駅到着したので急ぎますね!」

「・・・でも、持田さんって本当に来るのかしら?今相当パニック状態でしょう?」

「大丈夫です。松原さんが引きずってでも連れて来ると思います。あの人はドラマちっくに熱いところがあるので。恐らく電話の後、社内で多少の騒ぎがあって、移動して、18時頃着の想定です。」

「すごいわね、赤間さん・・・その通りになったらすごい予知能力だわ!」

「いやいや、全然予知なんかじゃなくて。あの人たちの考える事とか行動する事はいつも分かりやすいので・・・それは置いておいて、この後持田の写真を送りますね!私の到着よりも先に持田が来てしまったとしても進めちゃってください!撮影間に合わなかったら別日で持田役の人間立ててどうにか繋げるので!」

「わかったわ〜。ちょうど到着したから受付前に座ってるわね!」

「よろしくお願いします!」




全速力で走り続けた為、病院に到着した赤間は完全に疲れ切っていた。

受付前に1人で座っている木村を見つけ近づいていく。

「・・・木村さん。」

「あら!すごい汗!」

「何年ぶりかの全速ダッシュでした・・・。あれ?旦那さんは?」

「あそこにいるわよ。」

木村が指を差した方向を見ると、入り口近くのベンチに腰掛けている旦那がこちらに向かって小さく手を振った。

小さく会釈する赤間。

「それで・・・まだ来てないですよね?」

「大丈夫よ、受付の人にも尋ねたけどまだそんな人来てないって言ってたわ!」

「良かった。じゃあ私は少し離れたところに座ってカメラ回してるので・・・よろしくお願いします。」

「は〜い!」

返事を笑顔でした後すぐに木村は表情を深刻そうな顔に変えた。

(役作りが早い!)

赤間は木村を見て一度頷き、少し離れた席に向かった。



片手にハンディカメラを構え、待機する赤間。

腕時計を見る。17時50分。

(まだかな・・・。1回会社に探りを入れておくか。)

立ち上がり、旦那の方へ近づいていく。


「すみません・・・会社に探りの電話をかけたいので携帯を貸して頂けますか?」

「あっ、うん。どうぞ。」

スムーズにズボンのポケットから携帯を差し出した旦那。

「ありがとうございます!」


古典的に自分の鼻をつまみ、赤間は会社に電話をかける。

3コール以内に、デスクの女性が電話を取る。


「あ〜ずみまぜん。私、株式会社△△の、宮崎と申しますけども。持田さんいらっしゃいまずか?・・・あ、いないんでずね?大丈夫でず、携帯にかけてみまず〜。」


電話を切って、鼻から手を離しフンっと鼻から息を出した赤間。

そんな赤間を見て旦那はクスクスと笑っている。

「実在する人なんですけど、結構モノマネ似てると思うんですよね。」

「そうなんだ。いや、面白かった。」

「お恥ずかしい・・・。でもこれで持田が外出した事は分かりました。間も無く必ずここに来るはずです。戻りますね。」

「良かった。僕はここで見守らせてもらうよ。」

「もう少しお付き合いください!」




再び椅子に座りハンディカメラを入り口へと向けて待機している赤間。

18時を過ぎた頃、持田と松原を乗せたタクシーが入り口に到着した。

(キタキタキタ!!!!!)

急いでRECボタンを押す。

そして木村に向かって手を振り合図を出す。

気がついた木村は入り口に向かってくる2人を見て、気合いを入れる様に強く短く息を吐いた。


「それでは、よーい、スタート。」

周りに聞こえない様な大きさで呟いた赤間。



2人は病院内に入り、松原が持田を後ろに連れて受付の方向へ向かい始めた。

(木村さん!今です!行って!!)

立ち上がり、勢いよく持田の方向へ小走りで向かう木村。


木村が急に持田の肩を掴む。

ビクッと肩を揺らし木村の顔を見る持田。

「あんた・・・持田さんでしょう・・・?」

「え・・・。」

受付間近にいた松原も様子に気がつき戻ってくる。

「あの・・どうされましたか?」

「・・・赤間の母です。」

少しの沈黙が走る。



(あー全然声聞こえないな。アフレコしないと。)

カメラを回している赤間。



「あ、あの先程お電話でお話させて頂いた松原です。この度は・・・」

「うるさい!・・・あんた達、何しに来たんですか?よく来れますよね?由理の死んだ姿を確認しに来たんですか?」

「いえ、あの・・」

「・・・死にましたよ、死んでましたよ、一人で・・・。ねえ、持田さん・・どうしてあんたの顔を私が知ってると思いますか?」

持田の顔を睨み続ける木村。

「え・・・。」

「あの子ね、働き始めてから実家に帰って来てはあんたの事ずっと話してたんですよ。この前はこういう事を言われた、こういう事をされたって。その時に話の流れで写真も見せてもらっててね・・最初は悔しがって話してて、それってパワハラになるんじゃないの?上の人に訴えたら?って言っても訴えたりなんかしたら、また君は甘いって見下されるに決まってる、今は耐えて早く独り立ちするよって言ってたけど・・・最近は何も言わなくなってたから、もう大丈夫になったのかなって思ってて・・・大丈夫じゃなかった・・・一人でかかえ込むしかなくなってた・・・気がついてあげられなかった!」



木村の迫真の演技に驚いている赤間。

(すごい・・・セリフは聞こえないけど、表情がすごい・・・木村さんにお願いして良かった!)



木村の目からは涙が流れ始めた。

「ねえ、持田さん・・・あんたそんなにあの子が憎かったんですか・・・?」

「え・・・。」

「どうしてここまで追い込んだんですか・・・?そんなにあんたに憎まれる事をあの子はしてきたんですか・・・?あの子が死んで嬉しいですか・・・?黙ってないで答えて下さいよ・・・答えて!」


周囲の人間が3人に注目している。

心配そうに1人の看護師が3人に近づき始める。

画面内で看護師の動きに気がついた赤間が焦り始める。

(あ!やばい!看護師さん来ないで!!)


その瞬間、看護師の前に木村の旦那が現れ何かを話しかけ始めた。

(旦那さん!ナイスです!!)

安心した顔をする赤間。



木村の視線が松原へ向かう。

「・・・あんた達を由理に会わす事はしません、もう二度と顔を見せないで下さい、由理はたった今もうそちらとは関係の無い人間として下さい。遺書を公にするつもりは無いです。こんな人が理由で由理が死んだなんて誰にも思ってもらいたくない・・・これ以上話す事はありません。お引き取り下さい。」

そう言い切ると木村は病院の奥へと歩き始めた。



その場に残され呆然とする2人を撮影している赤間。

(・・・情けない姿。持田、口開いてるし・・・。)

少しして、松原は持田の方を叩くと入り口へ向かって引き返し始めた。

それでも持田は木村の歩いて行った先から目を離さない。



赤間がまわし続けているカメラの画面には今は持田しか映っていない。

画面を見つめる赤間。

一人佇む持田。



(持田さん、今どんな気持ちですか?)




ようやく持田も入り口へ向かい歩き始め、病院を出たところで松原に声をかけられている。

2人が話し終わり、解散したところでカメラを止める。



帰っていく持田を眺める赤間。






(持田さん、今どんな気持ちですか?・・・私、おかしいですか?)

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