第19話

朝6時。

パソコンに向かって必死に何かを打ち込んでいる赤間。


エンターキーを力強く押す。

「、、、よしっ。」

携帯を手に取り、完成したデータをパソコンから携帯に転送する。

携帯でトークアプリを開き、過去のグループトークを遡る。



探し出したグループトーク名は、

"◯×映画大学 自主制作の会"




「では、送ります。」

大げさに携帯を持つ手を上に掲げ、送信ボタンを押す。




様々な場所で、受信音が鳴り響く。





"朝早くからごめんなさい!そして急なお誘いになるのですが、、、今日から一週間で私と一緒に映画を作ってくれませんか??企画書を添付するので、興味を持ってくれた方は返信をお願いします!"




添付された企画書のタイトルは、





"ブラック上司の憂鬱"







「、、、とりあえずこれで一旦待つか。」

眠そうにクーッと伸びをし、ベッドに倒れこむ。

達成感がピークに達し、ウトウトとし始める赤間。

1分間だけ目を瞑る。



1分後、目を開き起き上がる。

「こうしちゃいられない。」



すぐさま支度をして家を出る赤間。

家を出ると、昨日までとは違う清々しい気持ちの良い空気に包まれた。



今すぐにでも寝てしまいそうな目を擦り、電車に揺られる。




数十分後、会社に到着する赤間。

時間は朝7時30分頃。

まだ誰も出社していない。

コソコソと自分のデスクに向かい、デスクの前に到着すると鞄から小さなICレコーダーを取り出した。

デスクの下に潜り込み、奥底の電源タップにACケーブルを接続し、タップの上に荷物を被せる。

目立たない様にケーブルを這わせて、ICレコーダーをデスクの裏に丁寧に貼り付けた。


「、、、覗き混まない限りバレないな。容量も多分足りるから、、、よし。」




ICレコーダーのRECボタンを押す。

「よーい、スタート。」




違和感の無いように椅子の位置を戻し、早々と会社を出る赤間。




朝8時過ぎ。再び電車に揺られ自宅に戻った。

今度こそは、とベッドに倒れ込み個人携帯の目覚ましのアラームを10時に設定する。

そして会社用携帯の電源を落とす。

電源が落ちた画面を見ながら少し微笑む赤間。




「さようなら、ブラック上司。」






10時になり、目覚ましのアラームが鳴り響く。

いつもとは違い、2時間も寝ていないのにパっと目が覚め、アラームを止めるとすぐに起き上がった。

「、、、すっごいよく寝た気がする。」



携帯画面を見ると数件の返信が届いていた。

送信したグループトークのメンバーは約20名。

トーク画面を開くと3件の返信。

"何いきなり!笑 しかも面白そうなんだけど!笑"

"マジでいきなり過ぎ・・・一週間はきつくないかー??"

"面白い! でも急すぎww "



画面を見つめる赤間。

「、、、スタッフはもう少し待つか。その前に、、、」

携帯の連絡先を開き、スクロールしていく。

「えーっと、、、き、、、木村、、木村、、いたいた。」

見つけた連絡先に電話をかける。



発信音が鳴り、しばらくするとガチャッという音と共に相手が電話に出る。


「はい、木村です。」

「あ!木村さん、午前中にすみません。◯×映画大学卒業生の赤間と申しますが、、覚えていらっしゃいますでしょうか?」

「、、、赤間さん。あー、自主制作でプロデューサーやられてた、赤間さん?」

「そうです、そうです!その節は大変お世話になりました!」

「あらー久しぶりー!元気でしたー?どうしたの急に!」

「本当に急ですみません!かなり急なお願いになるのですが、、、木村さん本日ってスケジュール空いてたりしますか?」

「えっ?今日!?」

「今日なんです、、、すみません、、、。」

「あ、いや、本当に急ね!、、、日中は予定があるんだけど、そうね、16時ぐらいからなら空いてます。」

「本当ですか!折り入ってお願いしたい役がありまして、、、」




企画の詳細を伝える赤間。

その表情は希望に満ちている。



電話を終え、一息つく。

再びトーク画面を開くが、新しい返信は特に無い。

「、、、今日の撮影は1人でやれるかな。」




11時。昨日までの生活では、もう会社で働いている時間だ。

電源が落ち真っ暗な会社用携帯が気になる赤間。

ハッとして頭をブンブンと振る。

「、、、もうやるしかないからね。」



どうにもこうにも落ち着かないので、また一眠りしようかとベッドに入った瞬間にトーク受信の音が鳴る。

画面を見ると一件の返信がきている。



"おー赤間久々だな!無事に生きてたかw でも内容見る限り無事ではねーなww 今日は仕事だけど明日からしばらく休みだから付き合う!"



その返信を見て赤間の表情はみるみる明るくなっていく。

「うわーーー!コンちゃんからだ!最高!」

すぐさま返信を打つ赤間。



"返信くれた方々ありがとう!そしてコンちゃん!近藤様!!本当にありがとう!!コンちゃんが撮影してくれたら怖いもの無しです!"



返信を送った後に携帯を握りしめる。

そして、テレビの前の写真立てを見つめる。

そこには大学時代に作っていた自主制作映画の撮影終了時に撮影した集合写真が飾ってある。

真ん中のあたりで屈託の無い笑顔を見せている赤間。後ろにはカメラを大事そうに持っている体格の良い男・近藤も笑顔で写っている。

写真を見て笑顔になる赤間。


「よし!カメラマンゲット!!、、、監督・脚本・編集・選曲は自分でやるとして、、あとはヘアメイクとCGをやってくれる人がいれば、、、とりあえず、、、」




メモ帳に今後の流れなどスケジュールを書いていく赤間。




あっという間に時間は過ぎていき、気がつくと時計の針は15時を指していた。

時計を見て驚く赤間。


「もうこんな時間!?やばい、始めなきゃ!」

慌てて会社用携帯を手に取る。


電源を付けようとするが、一旦手を止める。

「、、、すっごい電話きてたらどうしよう、、、いやいや、この時間まで無断欠勤してたらもうなんでもいいか、、、。」




大きく深呼吸をする。

意を決して電源をつける赤間。



電源がついた瞬間、予想以上の着信件数と留守電に驚く。

「うわ、、、しかもほとんど持田さんじゃん、、、」


その名前を見た瞬間に表情が一気に暗くなる。



「もうおさらばしてあげる。」



会社用携帯のトークアプリを開き、指原のトーク画面を選択する。

真顔で文章を打ち込んでいく。




"ごめん、これが最後の連絡です。もう持田さんがいる世界で生きていたくない。死んで楽になります。指原にはすごい感謝してる、今までありがとう"





「、、、、。」

何度か読み返し、静かに送信マークを押した。



無事に送信され既読マークがついたのを確認すると、急いで再び電源を落とす。




少し息が上がっている赤間。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン





「持田さん、赤間は今死にました。あなたが理由です。」





天井に向かってそう呟いた。

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