第18話
深夜1時。
帰宅した赤間は電気も付けずに洗面台の前に立つ。
「、、、もう逃げてもいいかな?」
鏡の中の自分に話しかける。
「大好きな映画の仕事なのに?」
鏡の中の自分も答え始める。
「大好きな映画の仕事だから、あんな人に負けずに頑張ろうって思えてたんだけど、」
「うん。」
「なんだか檻の中の鳥の気分なんだよ、あの人の意にそぐわなかったからすぐに仕事が無くなる。何も与えられずに死んでいく気がする。」
「今はまだ若いから、、、ずっと続く訳じゃないよ。」
「じゃあいつまで?いつまで耐えればいい?、、、あの人がいなくなるまで結局続くよ。」
「、、、じゃあ辞めるの?」
「あの人の仕事なんだもん、耐えられないなら私が辞めるしかないよね。」
「、、、そう。」
鏡の中の赤間はしょんぼりと落ち込む。
「落ち込まないで。」
「、、、うん。」
「悔しいけど、ごめん、もう頑張れないかも。周りの上司が皆あの人みたいだったら同期と愚痴って、励ましあって、頑張れたかもしれないけど。あんな上司、あの人しかいない。なんで私ばっかりって、、、思っちゃうんだよ。」
「、、、悔しいね。」
「悔しいよ!誰に一番腹が立つって、逃げ出そうとしてる自分に腹が立つ!こんな弱い自分に!やりたかった仕事なのに!あんな一人の人間が原因で逃げ出すなんて!情けないよ!」
鏡の前の赤間が泣き出すと、鏡の中の赤間も涙を流した。
深夜2時。
ひとしきり泣き終えると、寝る準備をしてベッドに入る。
(明日、朝一で持田さんに辞める事を伝えよう。)
ぎゅっと目を瞑り、眠りにつこうとする。
真っ暗な視界の中に、
"本当にそれでいいのか?"
と文字が現れる。
(、、、だってもう耐えられないから、逃げるしかないよ)
"この負け犬が"
(もう負け犬でもなんでもいい、あの人の下で囲われて生きていくなんて耐えられない。)
"つまんない人間だね"
(今のままでもつまんない人間になっちゃうよ)
"悔しくないの?他の人達は楽しそうに働いてるのに"
(、、、悔しいに決まってる。でも私が弱いせいでしょ)
"あのオッサンのせいじゃなくて?"
(元はと言えばそうだけど、、、)
"普通に逃げて、悔しくないの?"
(、、、逃げるって言ってもちゃんと最後に言いたい事は言ってから辞めるよ。)
"つまんない人間だね"
(もういいって、、、)
"そんなつまんない人間が作った映画もきっとつまんないよ"
"辞めて正解かもね"
「うるさい!」
パッと目を開く赤間。
すると目の前に広がる天井には、大学時代に友人達と自主制作で作った映像たちがダイジェストの様に映し出された。
作った映像と、楽しそうに作っている赤間の映像。
「絶対映画の世界で生きてから死ぬぞー!!」
友人たちに囲まれて、大学生の赤間が笑顔でそう叫んでいる。
目を見開いて涙を流す赤間。
そして、何か思いついた顔をする。
勢いよく立ち上がり、再び洗面台の前へ行く。
「私!ごめん、仕事は逃げる!でもやっぱり映画を作りたい!」
鏡の中の赤間が驚く。
「、、、転職する?」
「ううん、もう落ちるところまで落ちるの!面白い映画を作る為に!」
赤間は鏡に向かってニッコリと笑った。
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