第17話
翌日。
いつもと変わらない騒がしくも静かでもないオフィスで、赤間と持田だけが黙々とパソコンに向かって仕事をしている。
赤間と持田の間に会話は無い。
赤間には腕時計の針がものすごい速さで回転していく様に見える。
(あっという間に時間が過ぎていく、、、すぐに18時になっちゃうな。)
フーっと小さく深呼吸をする赤間。
持田の様子をチラ見すると、持田は相変わらずすごい形相でパソコンを睨みつけている。
(またすごい顔してるよ、、、自分から言ったものの、逃げ出したいなぁ)
もう一度、今度は先程より少し大きめに深呼吸をする。
チクタク、チクタク
時計の針が間も無く18時に到着する。
チクタク、チクタク、、、ジャジャーン!
鳴るはずも無いゴージャスな音が18時になった瞬間に赤間の頭の中で鳴り響いた。
腕時計を見る赤間。
"いけ!いくんや!さっさと終わらしてしまい!"
腕時計君が応援してくれている。
"大丈夫や、所詮このオッサンもただの人間や。噛み殺されたりせぇへんから!"
(、、、そうだよね。よし!行こう!)
勢いよく立ち上がる赤間。
「持田さん、ミーティングさせて頂いても宜しかったでしょうか?」
ゆっくりと赤間を見る持田。目は完全に死んでいる。
「もちろんです、会議室で良いですか?」
(密室キター!)
「はい。」
持田も立ち上がり、先陣を切って会議室の方向に歩き始める。
(やる気満々じゃねぇか。)
会議室に向かう途中、持田の後ろ姿を見ている赤間。
脳内では背後から持田の頭を鈍器で殴り、持田を気絶させる。
気絶した持田を会議室の椅子に座らせ手足をロープで縛る。
そのまま会議室を出て、外から会議室のドアの隙間を接着剤で埋める。
そして丸窓から持田の滑稽な姿を眺める。
ハッと目が覚め焦る持田。
いつの間にか持田が縛り付けられていた椅子がメリーゴーランドのお馬さんに変わっている。
丸窓の向こうでニヤついている赤間を発見し、パニックを起こす持田。
そんな持田を無視して、メリーゴーランドは愉快な音楽と共にクルクルと回り始めた。
「、、、フッ」
自分の妄想に思わず少し笑ってしまう赤間。
気がつくと社内で一番奥にある会議室に到着していた。
(妄想している場合じゃなかった!)
無言のまま2人は椅子に座る。
俯く赤間と、赤間をジロジロと見る持田。
赤間はテーブルの下で拳をぎゅっと握りしめる。
(大丈夫。辛いのはここから数時間だけ。)
意を決して顔を上げる赤間。
「持田さん、お時間頂き有難うございます」
「いえ、今日の議題はなんですか?」
ぶっきらぼうな態度の持田。
(なんですか?じゃねえよ、絶対わかってんだろ!)
「、、、昨日の新作映画の打ち合わせについてなのですが、出席させて頂けなかった理由をお伺いしたくて、、、」
眉間を少しピクピクとさせて質問をする赤間。
「理由?新作映画の打ち合わせだから私が集中したかったからです。」
その質問必要?と言う様な態度の持田。
(、、、は?)
「、、、私が出席する事によって持田さんの集中力が欠けるという事ですか?」
突如、持田の魂を持って消えていったはずの神父さんが再び持田の後ろに現れた。
「スミマセン、コノオトコ、シブトイ、タマシイ、トリカエサレマシタ。」
何故か傷だらけで焦っている神父さん。
(え?魂返しちゃったの!?)
ハッと持田の顔を見る赤間。そこには魂を取り戻したハイパー持田が座っていた。
「、、、あのさあ、君の立場は何?」
「、、、え?」
ハイパー持田の周りは紫と赤が混じった様なオーラで囲まれていて、神父さんが息苦しそうに咳をし始めた。
「ア、コレ、マジヤバイカモ」
(え?くる?なんかくる??)
焦りで固まってしまう赤間。
「私の部下だよね?つまりアシスタントだよね?私の仕事を一緒にやっているっていう感覚じゃないのかな。私はね、ものすごい仕事量を抱えていて、それでも一つ一つ丁寧にやりたいと思ってるんだよ。だから、私が一緒に働きたいと思うのは、あ、赤間の事をどうこう言ってる訳じゃなくて、ただすごく優秀な部下が欲しいんだよね。赤間が優秀じゃないって言ってる訳じゃないんだけど、赤間は自分の意にそぐわない事があるとすぐに態度に出すよね。それは正直私にとってものすごくストレスで。この仕事量の中でいかにストレス少なく仕事できるかを考えてるから。、、、昨日の打ち合わせは特に集中したかったし、赤間のやる気もよく分からなかったから、一人で出席する事にしました。」
会議室全体が持田のオーラに包まれ、神父さんは「モウダメ」と言って倒れてしまった。
持田は言い切った感満載のすっきりした顔をして赤間を見る。
赤間は目を大きく見開いてから俯いた。
(神父さーーーーーん!生き返って今すぐこいつを黙らせて!!!!!)
「、、、赤間さあ、やる気はあるの?」
その言葉に顔を上げる赤間。
ハイパー持田は"ストレスの無い環境を"と書かれた襷を肩から掛け、謎の七三分けになっていた。
(神父さん!この議員、自分の事かなり棚に上げてます!殺してください!!)
神父さんは未だに気絶している。
「、、あります。」
「成長したいって思ってるんだったら、一から私から学びたいっていう姿勢を見せてよ」
(、、え?)
「、、え?」
思わず心の言葉と現実の言葉がリンクしてしまった赤間。
「プロデューサーってそんな簡単になれる仕事じゃないから。私はその狭き門の先にいる人間で、私は私から全てを学びたいって思ってる人間にしか教えて上げたいと思えないよ、当たり前だけど。」
言い切った持田に向かってたくさんのフラッシュが光る。
唖然とする赤間。
(あ、もうこの人の下、本当に無理かも)
"無理かも"というテロップが会議室いっぱいに散らばる。
テロップと持田のオーラが混ざり合い、持田の姿はもうほとんど見えない状態だ。
一瞬、持田の口元だけが綺麗にはっきりと見えた。
「私には私の流派があるんだから。」
そのセリフを受けた瞬間、持田は議員風の服装から料理の達人の様なコック姿に変わり、会議室中に大島ミチルの"Cooking man"が鳴り響いた。
試合終了のゴングが鳴り、持田の下に現れたHPはゼロを目がけて急速に無くなった。
(私から全てを学べ、、?こんな事を言う人間になれと、、、?)
赤間の視界はだんだんと暗くなっていく。
「、、持田さんのお考えはよく分かりました。」
「、、分かってくれたならよかったよ。」
「、、、少し考えさせてください。」
会議室は黒みに落ちる。
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