第14話
"これは実話に基づいたフィクションです"
朝、携帯から目覚ましのアラームが鳴る。
赤間由理(25)は布団から顔を出さずに手探りで携帯を探し、アラームを止める。
5分後、再びアラームが鳴る。
布団から顔を出し、今度はちゃんと携帯の画面を見ながらアラームを止める。
「ああ、、、起きちゃった、、、」
気だるそうに起き上がると、すぐさまキッチンの換気扇の下へ行きタバコに火を付ける。
まだ目が完全に開いてない状態で一服すると、ノロノロと風呂場へ向かう。
シャワーを浴び、身仕度を整え、出かける準備をする。
「今日も無事に終わります様に。」
鏡に向かってそう呟き、少し微笑む。
電車に揺られる赤間。
会社の最寄り駅に到着すると、改札の前で深呼吸をする。
小さく頷いてから改札を通り、会社のビルへ向かう。
「赤間、おはよう。」
背後から上司である持田章介から声をかけられる。
振り返る前にゲッという顔をしてから、顔を戻し振り返る。
「あ、持田さん、おはようございます。」
その表情は朝の爽やかさとは無縁の無表情だ。
「君さ、猫背直した方がいいんじゃないかな?後ろから見てるとちょっとみっともないよ、もう大人の女性なんだから。」
持田はやれやれ、という顔でベラベラと話している。
(は?朝からうるせえな。人の猫背注意する暇あったらお前のその中年太りどうにかしろよ。)
「はい、気をつけます。」
赤間は嫌味ったらしくわざと背筋をピンと伸ばし、エレベーターに乗り込む。
沈黙のエレベーター内。
(あー朝からイライラさせるんじゃねえよ。デブ。)
赤間は後ろに立っている持田にバレない様に、イライラを顔全面で表現する。
無言のまま社内に入り、デスクへ向かう。
(こんな事でイライラしちゃ駄目だ。気を取り直して今日をスタートさせよう!)
鞄からペットボトルのお茶を取り出し、クイッとお茶を流し込む。
「そうだ、赤間。」
ゴクッとお茶を飲み込み、赤間は「はい」と答える。
不穏な間が流れる。
ゆっくりと持田の方を見る赤間。
(この不穏な間は)
「、、、赤間さあ」
(くる、絶対なんかくる)
「、、、はい?」
「ペットボトル、直接飲むのやめた方がいいんじゃない?コップに注ぐとか、直接だとしても人がいない方向見て少し隠しながら飲むとか。さっきの続きじゃないけど、女性らしくさ。なんか豪快さが出ててだらしがないよ。」
(キター!)
その瞬間、赤間は脳内でデスクからガムテープを取り、勢い良く切って、そのまま持田の口元に貼り付けていた。フガフガ喋り続ける持田を無視して、耳栓を付け、デスクに向かう。
脳内イメージに笑いそうになるが、ハッと現実に戻り、
「、、、気をつけます。」
と呟いた。
(ペットボトル、直接飲んでる人この世に何億人いると思ってるんだよ!人がいない方向見て隠しながら?宗教?ねえそれ宗教なの?デブのくせに上品ぶりやがって!)
「それは置いておいて、明日の新作映画の打ち合わせ、関係者にリマインドメール送っておいてくれる?」
「あ、わかりました」
深呼吸をし、気を取り直してメールを打ち始める赤間。
10分後。
別件のメールを打っている赤間。
持田からの視線を感じ、持田の方を見るとすごい形相でこちらを見ている。
(え?なに今度は?すごい顔してるけど。)
「赤間」
「はい?」
「"持田の代理でご連絡致します"が抜けてる」
(そこかー!打ち合わせのリマインドメールにそれいる?!内容触れてないのに?場所と時間書いてあるだけなのに??)
「、、、はい。」
「何度も言ってきてるよね?この打ち合わせ、うちの会社の責任者君なの?」
深くため息をつく持田。
「違います。」
「責任者、誰?」
「持田さんです。」
「そうだよね、この打ち合わせ自体私の仕事だよね。君の立場での発言を考えてくれるかな?」
「、、、すみません。」
その時、赤間の脳内では持田が正面を向いた瞬間に持田のパソコンが爆破。メガネが割れ、髪はチリチリ、無傷だが何故か今より太った持田が呆然としている。
(そんなに責任の所在が表れる大事なメールだったのかーーー!だったら最初からお前が出せ!いや、むしろ今すぐ出席者の元に直接言って、ハアハア言いながら場所と時間伝えてこいよ!)
赤間の眉間がピクピク震えている。
そんな事には気付きもしない持田。
「今後は気をつけてください。」
「、、、はい。」
脳内イメージのままの持田がそう言ってきた様な錯覚に落ち入り、思わず俯いた。
昼休み。
同期の指原とランチをしている赤間。
「ほんっっっとにうざい!」
そう叫ぶと、手に持っていたグラスをテーブルに強く置く。
「それはうざいねえ」
パスタを食べながら、ウンウンと頷く指原。
「メールの件は別にいいよ、うざいけど!猫背とペットボトルはなに!?なんか迷惑かけた私!?」
「猫背とペットボトル、今時のバンド名みたい」
思わず二人して笑ってしまう。
「もういっそバンド組もうよ、デビューシングル「女性らしくさ」で!」
「それやばいね」
ゲラゲラと豪快に笑う二人。
「途中途中で持田の名言挟むわ!」
脳内では音楽に乗せてこれまで持田に言われてきた言葉たちが蘇る。
ある日の持田。
「育ちが悪い感じがするよね、親のせいかな?」
別日の持田。
壁の時計は深夜3時を指している。
「タクシーで帰るぐらいだったらコンビニで下着買って会社泊まれば?」
また別日の持田。
「私の下で働きたいんだったら、私の流派を学べよ!」
またまた別日の持田。
「赤間がどうこうじゃなくて、とにかく優秀なアシスタントが欲しいんだよね。」
さらに別日の持田。
「私の仕事を手伝わせてやってるんだ!」
最後に持田が爆発して脳内の曲が終わる。
冷静になり深いため息をつく赤間。
「まあでも、赤間よく耐えてると思うよ?」
「、、、自分でもそう思う。」
「普通あの人の下とか無理だって!私だったらすぐ辞めてるよ!」
「でもさー、あの人が理由でなんで私が仕事失わなきゃいけないんだって思うんだよ。」
「だからそう思えるのが強いって。愚痴ならいくらでも聞くから負けないでね?」
「うん、、、」
そう呟いて自分の頬を両手でパンっと叩く赤間。
「よし!戻ろうか!」
笑顔で店を出る二人。
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