第6話
午前10時30分。私達の会社の出勤時間だ。
赤間の姿が無い。
昨日のミーティングでやる気があると言っていた割に遅刻とはどういう事だ。
私は改めて赤間に疑問を抱いた。
午前11時。
未だ赤間は出社せず、遅れますという連絡も無い。
もしやまだ寝ているのだろうか。そうだとしたら、なんて呑気な人間なのだ。
午前11時30分。
これは確実に寝ているだろうと感じた私は電話をかけてみる。
発信音が鳴った後、呼び出し音に切り替わる事無く、留守番電話サービスにすぐ繋がった。
直留守という事はもしや携帯の充電も切れているのか。
そして午後12時。痺れを切らした私は社内で赤間と最も仲が良い指原に声を掛けた。
「指原」
「はい?」
「赤間がまだ出社しないんだけど何か知ってる?」
「いえ、何も連絡無いですか?」
「そうなんだよ、もしかしたらまだ寝てるかもしれないな。今日は特に打ち合わせとかは無いから休みなら休みでも大丈夫なんだけど。」
「なるほど。ちょっと私からも連絡してみますね。」
「悪いね、何か分かったら教えてください。」
「はい。」
指原はものすごい速さで文字を打ち、赤間へメールを送ってくれた様だった。
赤間に気を取られていて、自分の今日の仕事に少し乗り遅れた気がしたので、一度赤間の事は忘れて仕事に集中しようと思った。
午後3時を回っても、赤間からの連絡は無かった。
私は、赤間はもしや"飛んだ"のではないかと若干感じ始めていた。
これまでにも何人かの若者が少し注意をしただけで辞めていった。
赤間はこの2年間、何度も注意をした事はあったが、それでもめげずに頑張れる若者だった。それは私の見当違いだったのだろうか。
赤間が出社していない事に気がついた松原が私のデスクへやってきた。
「おい持田、赤間は今日休みなのか?」
「あっ、はい。ちょっと連絡がつかなくて、、、」
「はあ?なんかあったのか?」
「いや、最初は寝坊かと思っていたのですが、さすがにこの時間なので、、、」
「、、、どういう事だ?」
「連絡も無く、電話をしても直留守という状態で、状況が読めないんです。」
「、、、逃げたのか?」
「いえ、今はなんとも申し上げられず、、」
その時、4つ隣の席に座っている指原が「え?!」と叫んだ。
フロアに響く程の大きさだった為、殆どの社員が指原へ注目した。
携帯の画面を見ながら指原の目は一気に潤み、手が震え始めた。
これはただ事では無さそうだ。
松原は私の元を離れ、指原の方へ近づいた。
「どうした指原。」
「あ、、、あの、、、」
松原の方に顔を向けた指原は既に完全に泣いていた。
「、、、赤間さんからこんな連絡が、、、」
赤間?瞬時に反応した私は指原の携帯の画面へ向かい勢いよく近づいた。
「こ、、、これは、、、」
松原が携帯の画面に出された文を読み、すぐさま私の顔を見た。
私の目が人生で一番見開いた瞬間だった。
「ごめん、これが最後の連絡です。もう持田さんがいる世界で生きていたくない。死んで楽になります。指原にはすごい感謝してる、今までありがとう」
指原の携帯を奪って何度も読み返した。
松原は脳内整理をしているのかなんとも言えない顔で私を見ていて、
指原は涙の奥に殺意が潜んでいる様な目で私を見ている。
私は何度も読んだ末、思考回路が停止した。
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