第5話
翌日。
出社してから夕方まで、赤間とは殆ど会話もする事無く過ぎていった。
着々と"18時頃"が近づいていく。
赤間から提案されたミーティングとは言え、私は上司として赤間の意欲をより高めさせるミーティングをしなければいけない。
「持田さん、ミーティングさせて頂いても宜しかったでしょうか?」
ぴったし18時になった頃、赤間から話しかけられた。
「もちろんです、会議室で良いですか?」
「はい。」
距離でいうとデスクから約20メートル程の会議室がやけに遠く感じた。
無言で向かう会議室はなんだか裁判所の様に思える。
社内で一番奥にある会議室に入る。
当たり前の様に沈黙だ。赤間は廊下を歩いている時から顔を上げない。
無言のまま、私がドアから見て下手側、いわゆるお客様席に座る。
赤間も俯きながら上手側に座る。
我々の"ミーティング"が始まる。
「持田さん、お時間頂き有り難うございます」
「いえ、今日の議題はなんですか?」
「、、、昨日の新作映画の打ち合わせについてなのですが」
やはり。何故、私を出席させなかったのか、だ。
「出席させて頂けなかった理由をお伺いしたくて、、、」
「理由?新作映画の打ち合わせだから私が集中したかったからです」
「、、、私が出席する事によって持田さんの集中力が欠けるという事ですか?」
「、、、あのさあ、君の立場は何?」
「、、、え?」
「私の部下だよね?つまりアシスタントだよね?私の仕事を一緒にやっているっていう感覚じゃないのかな。私はね、ものすごい仕事量を抱えていて、それでも一つ一つ丁寧にやりたいと思ってるんだよ。だから、私が一緒に働きたいと思うのは、あ、赤間の事をどうこう言ってる訳じゃなくて、ただすごく優秀な部下が欲しいんだよね。赤間が優秀じゃないって言ってる訳じゃないんだけど、赤間は自分の意にそぐわない事があるとすぐ態度に出すよね。それは正直私にとってものすごくストレスで。この仕事量の中でいかにストレス少なく仕事できるかを考えてるから。、、、昨日の打ち合わせは特に集中したかったし、赤間のやる気もよく分からなかったから、一人で出席する事にしました」
息継ぎを忘れて、本音をペラペラと話した。
赤間は目を大きく開いてから、また俯いた。
「、、、赤間さあ、やる気はあるの?」
「、、あります」
「成長したいって思ってるんだったら、一から私から学びたいっていう姿勢を見せてよ」
「、、え?」
「プロデューサーってそんな簡単になれる仕事じゃないから。私はその狭き門の先にいる人間で、私は私から全てを学びたいって思ってる人間にしか教えてあげたいと思えないよ、当たり前だけど」
「、、、」
「私には私の流派があるんだから。」
誠心誠意、思っている事を正直に伝えた。
今の若者に言うとパワハラだ、とか言われる様な事も言ってしまったかもしれない。
でも赤間は本当に映画の仕事をしたいと思っている人間だ。
このぐらいの厳しさは、むしろ彼女の力になるはずだ。
「、、持田さんのお考えはよく分かりました。」
しばらくの沈黙の後、赤間はボソッとそう呟いた。
「、、分かってくれたならよかったよ。」
彼女に伝わったかと思うと、私は今日のミーティングはここまでだ、と安堵した。
「、、、少し考えさせてください」
赤間は俯きながら、そう呟くと足早に会議室を出ていってしまった。
安堵していた私は、文字通り"ポカン"という顔をしていただろう。
何故だ。彼女は何を考えるのだ。
とは言え、反省点をまとめるのだろうと内心思っていた私は
まさか翌日、赤間が無断欠勤をするとは思ってもいなかった。
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