第4話
翌日。いつも通り早めの起床から、綾子の朝ご飯を食べて会社へ向かう。
会社へ向かいながらある事を考えていた。
今日の夕方から行われる新作映画の打ち合わせに赤間を出席させるべきだろうか?
私はプロデューサーという責任のある立場、新作映画の打ち合わせに外部の人間は前向きな感情を持ってやってくる。
赤間のこの新作映画へのやる気はどれ程だろうか。
私だったらやはり明日新作映画の打ち合わせがあるとしたら、上司より先に帰る事は無いだろう。
むしろ、上司に早く帰りなさいと言われるまで下調べを怠らない。
本気で挑む人間達が集う場所に、私は私の部下として赤間を出席させるべきだろうか?
私は、昨日の様子だと赤間が全力で私のサポートをしてくれる様には思えなかった。
気がつけば会社に到着していた。
赤間は既に出社してパソコンの画面を眺めている。
余裕のある様なその姿に改めて疑問を抱いた。
「あ、おはようございます」
私に気が付いた赤間が挨拶をしてきたが、私は聞こえないフリをしてしまった。
静かにデスクにつき、自分のパソコンを起動する。
正午。沈黙の中、淡々と仕事をしていると赤間が気まずそうに話しかけてきた。
「あの、、持田さん」
「はい」
「本日の夕方からの打ち合わせの準備についてなのですが、、」
「あー、今日は最初の打ち合わせだから、私一人でやります」
「、、え?」
"なんで?"と書いてある様な顔とはこういう顔だろう。
「、、、何か至らない点がありましたでしょうか?」
赤間は今にも泣き出しそうな顔でそう尋ねた。
赤間が映画の仕事が大好きなのは私もよく知っている。
ただ、好きだけでやっていける仕事では無い。
私から見て赤間にはまだやる気が足りないのだ。
私が責任のある立場、つまり私の仕事に全力でサポートをしてくれ、私がこの膨大な仕事量の中でいかに働きやすくしてくれるか、という事が重要なのである。
「そういう話ではなくて、ただ最初の打ち合わせだから集中したいだけです」
「、、、昨日のリマインドメールを出す直前までは私も出席する予定だったかと思うのですが」
赤間はとにかく我が強い。簡単に引き下がりはしない。
「昨晩考えて決めた結果です。私の仕事なので」
そう言うと赤間は目を少し赤くして何も言わずに俯いた。
私はただ、目の前のパソコンに向かって別件のメールを打ち続けた。
夜、新作映画の打ち合わせが終わり会議室から自分のデスクへ戻る。
22時を過ぎていたが赤間はまだ自分のデスクに居た。
「、、、お疲れ様です」
私がデスクに着くと赤間が小さい声で呟いた。
「お疲れ様です」
特に彼女の方を見る事もなく私は答えた。
いつも通り、広いオフィスに私と赤間だけが取り残され、キーボードの音だけが鳴り響いている。
終電が近づくと赤間が帰り支度を始める。
「あの、、、持田さん」
「はい」
「明日なのですが、少しミーティングをする時間を頂けますでしょうか?」
「、、、はい、大丈夫です。18時頃でも大丈夫ですか?」
「はい」
「じゃあ宜しくお願いします」
「ありがとうございます、宜しくお願いいたします。お先に失礼いたします」
赤間はそう言うと足早に去って行った。
赤間のことだ。明日のミーティングの議題は「どうして今日の打ち合わせに出席させてくれなかったのか」だろう。
格好良く言えば"ミーティング"、実質は"答え合わせ"だ。
私は軽くため息をついて、また自分のパソコンに向かった。
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