09『旅の過程にこそ価値がある』

 ―――――09

 

 一瞬ふわりと浮いたあと、静かにゆっくり動き出した午前十一時四十五分。離陸時の飛行機の感覚に似ている。徐々にスピードが上がり、一分で時速一〇〇キロ、二分で時速三〇〇キロに達し、加速が止まる。

 周辺の騒音問題もあり、最高時速四三七キロで走るのは九時と十時と十五時の、一日三時間だけ。それ以外は時速三〇〇キロに制限され、所要時間も七分四十秒から八分十九秒になっている。


「こっちのほうが揺れなくて、乗り心地はええなぁ」


 最高時速は前回体験しているから、とサクヤは自身に言い聞かせて窓の外を見る。

 どんよりした空の下、建ち並ぶ鳥居のような形の送電鉄塔や木々が、並行する四車線の道路を走る車が、後ろ後ろへと遠ざかっていく。


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