07『旅の過程にこそ価値がある』

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「だから、自動化ゲートの利用登録してきたんだって。判子も押してもらってる」


 自動化ゲートの登録済みの判子を係員にみせて説明するも、言葉が通じず、首を横に振って聞きいれようとしない。


「There is no stamp.」


 出国時はともかく、上海空港でも入国時の自動化ゲートはすでに運用されている。

 サクヤは、自助通道と呼ばれる自動化ゲートの前で係員に足止めをされていた。

 どんよりとした空の下、茶色い長江が近くを流れる上海浦東国際空港に飛行機が着陸したのが午前十一時。サクヤにとって一年半ぶり、三度目の上海だった。

 一九九九年に長江河口に造られた上海浦東空港は、総面積四〇平方キロメートル、上海市中心部から三〇キロに位置し、クロースパイラル方式の滑走路を四本有した二十四時間全天候型国際空港であり、空港には世界で初めて実用化された高速磁気浮上鉄道、上海トランスラピッドが接続し、最短七分二〇秒で市街まで行けるよう整備されていた。

 機内でもらった入国検疫申告書を記入して検疫の係員に提出し、サクヤは入国審査へ向かい、係員に呼び止められたのだ。

 待たされたのち、システムがわかっている人を呼んでもらえて事なきを得た。

 不愉快な思いをしたくないなら、スタンプは押してもらっておいた方がいいかもしれない。これでは便利なのか不便なのかわからないけれど、とサクヤは苦笑いをして息を吐いた。

 荷物を受け取りに行くと、回りだしたターンテーブルの最初の荷物が、サクヤのスーツケースだった。両目を見開いてしばし硬直した。


「まじか」


 搭乗手続きで荷物を預ける際、誰もプライオリティを利用しなかったのか。あるいは利用したけれどスタッフが優先しなかったのか。


「イミグレの詫びと捉えておこう」


 サクヤはスーツケースを受け取り、その場をあとにした。


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