Ⅷ
ロディが帰るまでは部屋で大人しくしている様に言っていたマリアが、玄関を出て行く音で気付いたのか、リビングの扉を覗いている。
「おいで、マリア。もう良いよ」
呼び寄せると、ぱぁっと笑顔になって抱きついて来る。
いつもこんな風だから、自分が好かれていると言う優越感に惑わされそうになって、ただ時々それが野良猫の様に餌をくれる人になら誰でもそうなんじゃないかと思う時もある。
「マリア、これからはここでずっと俺と一緒に暮らす事になるが、お前はそれでいいか?」
キョトンとして、何故? とでも言いたげな顔だった。
「お前には父親がいる。日本に帰りたいなら、そうする事も出来るが……俺は、ここにいて欲しいと思っている」
マリアはコクリと頷くと、ルースの掌を取って“STAY”と書いて見せる。
「じゃあ、もう秘密はナシにしよう。マリア」
何の事か、この顔は多分分かっている。
マリアは躊躇い動揺し、少し後ずさる様にしてルースの膝から下りようとする。
まるで悪戯した猫が、ジワリジワリと後退するかのようだった。
「待ちなさい、マリア。俺は別に怒っているわけじゃない」
もう一度自分を跨がせ、向かい合う様にして抱き合った後ルースはゆっくりとマリアの背中を擦りながら口を開いた。
「マリア、声、出してごらん」
左右にぶんぶんと首を振って、今度は強く抗い膝から下りようとする。
「大丈夫、君が声を出しても誰も咎める人は此処にはいないんだ」
マリアが自慰をする際中に、喘いでいるのを聞いた。
少し高くて甘いその声は、すぐにルースの中に疑問を齎した。
首にある傷は声帯を切られたものだとばかり思っていたが、声帯を切られているのであれば、喘ぎ声なんて出るはずもないのだ。
マリアが何故喋らないかは分からないが、喋れないのではないと言う事は分かっていた。そしてさっきまでここにいたロディが兄の証言として言い残して行った事は、あまりにも切ない答えだった。
性交以外で喋る事は禁じている――――。
兄は弟をそう躾けて、情事の際にしか鳴かない美しい鳥だと言って彼を売り飛ばしたと笑いながら言ったと言う。自分より秀でた弟だと言うだけで、どれだけ憎めばそんな事が出来ると言うのだろうか。
つまりマリアは“そう言う事”をすれば喋って良いと思っている。
だから、犯行の日時をどうやって知ったかを上手く伝えられなかった時、マリアは指をしゃぶって“そう言う事”をしようとした。
有体に言えば、ルースを誘っていたのだ。
「マリア?」
抱きついて離れない癖に、顔を上げようともしないマリアを覗き込む。
口を震わせながら、言葉を発する事を怖がっている。
過去、言葉を発しただけでどれだけの仕打ちを受けたと言うのだろうか。
よしよし、と背中を擦ってやりながら、あまり無理強いするのも良くないのだろうかと時間を掛けた方が良いのかも知れないと思い始めて、やっぱり、と言い掛けたルースの口をマリアが塞いだ。
「っ!?」
キスをされているのだと気付いた時には、薄い舌先でルースの唇は綺麗に舐め取られて、チロチロと中へ入れてくれとマリアの舌先が唇の隙間をなぞっていた。
「なっ? ちょ……マリッ……んっ」
喋ろうと開いた唇の隙間に、やっと開いたとばかりに舌を入れて来る。
この、ド淫乱が! とルースは内心悪態突きながらも抵抗する意志の方が負けそうになっていて、僅かに腰が揺れているマリアのものが立ち上がっている事に気付いた。
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