言えなかったこと。
伝えたくて。誰よりも伝えたくて。その胸に届いてほしくて。
言葉にしようとした。言葉にしたかった。でも、できなかった。
彼を前にすると言葉が詰まってしまう。他の人と会話が申し分なくできるかと言われれば間違いなく否だが、彼と相対している時はもっとほかの何かが、胸を締め付けているような気がしてならなかった。
「…はぁ、結局最期まで伝えられなかったや。」
誰もいない病室で一人、乾いた笑いを溢しながら誰にともなく呟く。私の体は、精神的なストレスによって機能のいたるところが破壊されているらしい。
もちろん人工的に作られた役割を担う機械に任せることができれば生きることも可能なのだろうけれど。
流石にそこまでして生きることに執着する必要はない。そもそもそれでは生きているというより生かされているようではないか。そんなのはみっともないし、両親に負担をかけるわけにもいかない。
「どうせ私なんて死んだ方が…」
――いいんだ。
そう続けようとしてとっさに口を噤んだ。
絶対に言ってはいけない言葉だと、本能ではなく理性で理解したからだ。
私は、幸せ者だ。確かに親の負担にならないように機械による補助を拒むことになってしまったが、それでも幸せなのだ。十分すぎるほどに。
本心から愛してくれる彼がいる。死んだ方がいいと呟いた私に、本気で怒ってくれた彼がいる。私の存在が近いうちに過去のものになり、風化していくものだとしても。
それでも嬉しかった。涙が出るほどうれしかった。
誰かに必要としてもらえることの喜びを教えてくれた。
発言の重さを本気で教えてくれた。
誰よりも大好きだと言葉にしてくれた。
それだけで私は満たされているのだ。これ以上この世界に何を望めばいいのだろう。
わがままを言えるのであればもっと生きたい、とかそういうものなのだが、無理もほどほどにしないと神様に後で怒られてしまう。
「…ぁ、ひとつ、後悔がある、といえば…ぁるのか、も…」
抑えていたつもりなのに、気が付けば口からは嗚咽が滲み出ていた。死への恐怖というよりも、大切にしてきたものを忘れて永久の眠りについてしまうという物寂しさが私を締め付けているのだ。
「――最期に…彼、に、一度でいいから、『大好き』だって言いたかった、なぁ…」
これが私の。唯一の後悔だ。
後悔 いある @iaku0000
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