7.

「凛、スカーフずれてるよ。もー、卒業式くらいちゃんと制服着ないと」

 卒業生退場のアナウンスの後講堂を出ると、水咲さんはそう言ってセーラー服のリボンをととのえてくれた。

「凛は東京進学かぁ、なかなか会えなくなるね」

 水咲さんは遠い目で空を見上げていた。綺麗な青空だ。

「水咲さんは医学部だよね、お互い頑張ろう」

「うん、いつまでも泣いてたらたっくんに心配されちゃう。あいつちびっ子のくせに一丁前に心配しいだったもん。あの子に合格、伝えられてよかった。後期までもつれてたら間に合わないとこだった……あ、そろそろ電車乗らないとマズいんじゃないの」

 腕時計はいつの間にか、おやつの時間付近をさしていた。

「やば、次の次乗らないと新幹線間に合わない」

 きっとこれが、水咲さんと話せる最後だと思った。直感だった。いくらでも連絡を取る方法はあるけれど、こうして――少なくとも彼女にとってある意味特別な存在でいられるのはもう、これで最後だと。

「向こうでも頑張ってねー!」

 走って駅に向かう僕に、水咲さんは聞いたこともない大声で手を振ってくれた。

「ありがとう、水咲さんも頑張ってねー!」

 僕も人生最大くらいの大声で手を振り返す。不思議と寂しいとは思わなかった。


 あれから水咲さんには会っていない。それでも東京での多忙な日々の中で、今でも水咲さんのことをふいに思い出す。

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水咲さん 紅音さくら @aknsakura

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