冒険者リーベル(3)

 

 少し間が空いた後、リーダーらしき男がプッと吹き出すと、そのまま大きな笑い声をあげた。

 それにつられて、他の3人組も笑い出す。


「おい、お前達!何を笑っているんだ!」


 リーベルはムッとした表情で、リーダーらしき男を見つめる。


「テメェが王女だと?バカバカしい。どう見ても駆け出し冒険者じゃねえか」

「フンっ。じゃあ、これを見るといいわ」


 そう言うと、リーベルは持っていたステッキの先端に埋め込まれた赤い宝石を見せつける。

 その宝石には、太陽の紋章が刻まれていた。


「なんだこの紋章?」

「ヘヘーン!これがサンフレア王国の王家に伝わる伝説の魔法石。サンドレアよ!」


 リーベルは、またもやドヤ顔でリーダーらしき男に対抗するが、男は、再び大きな笑い声をあげた。


「うわははははっ!冗談も程々にしてくれよ、嬢ちゃん。そんなもん、そこらへんの赤い魔法石にその紋章を刻み込んだらいくらでも作れるだろうが」

「違うわよ!これは、サンフレアの……」

「おうおう、分かった分かった。じゃあ、信じてやるよ。混沌の闇に最初に支配された弱小王国の王女ってな!うわははははっ!」


 リーダーらしき男は、馬鹿にしたような笑みを浮かべ、リーベルの頭を撫でたその瞬間。


 リーベルは、男の手をステッキで振り払い、男の心臓辺りにステッキを向けた。


「おいおい、何の真似だ、嬢ちゃん」

「許さない……」

「えっ、なんか言ったか?」

「私を馬鹿にしても構わないわ。でも……サンフレア王国を馬鹿にする事は、王女として許せないわ!」


 そう言うと、ステッキの先端に埋め込まれたサンドレアが赤い光を放ち始めた。


 目を瞑り意識を集中させるリーベル。

 そして、ハッと目を開けると、力強い声で詠唱を言い放つ。


「解き放て!サンフレイム!」


 すると、ステッキから凄まじい勢いで直径1メートル程の炎の玉が放たれ、リーダーらしき男に直撃する。

 男は、炎の玉ごと吹き飛ばされると、数十メートル先の壁に思いっきり叩きつけられた。


 リーベルの活躍に、周囲の冒険者達が歓声を上げる共に、日頃の恨みを口々に言い始める。


 だが、それも一瞬で消える。


 石やセメントの粉が舞った白い靄から、ゆっくりと立ち上がる影が見えた。

 そして、その靄が徐々に消えていくと、何事も無かったかのように、服についたゴミを払う男の姿が、全員の視界に映る。


「おうおう、まさかこの俺様がここまでの仕打ちを受けるとはなー」


 男は、不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとリーベルの方へと足を進める。


 そして、リーベルの目の前に着くと、リーベルの持っていたステッキを握りしめ、リーベルから奪い取った。


「ちょっと!返しなさいよ!」

「返すわけねぇだろうが。俺様をあんな目に合わせた罰だ!」


 そう言うと、男はステッキを振り上げ、リーベルの頭上からありったけの力を込めて振り落とす。


 殺される……。


 何の抵抗もできないリーベルは、ただただ恐怖で目を瞑った。


 "ドスンッ"


 店内に響き渡る鈍い音。

 周囲の視線がリーベルの方へと向けられる。


「あれ……私、死んでない?」


 リーベルは、自分の手を握っては開いてを繰り返し、自分の存在を確かめる。

 生きている事を実感すると共に、視界が暗くなっているのが分かった。


 リーベルはゆっくりと振り返る。

 すると、目の前に見覚えのある人物が優しく微笑んでいた。


 そう、キッチンで働く、リーベルの憧れの彼であった。


「どうして……?」


 リーベルは驚きの表情を隠せないまま、彼に問いかける。

 だが、彼は、何も答えず微笑んだまま、スッと立ち上がった。


「何だテメェは?正義のヒーロー気取りか?ああ?」


 リーダーらしき男は、嘲笑しながら彼を挑発する。

 しかし、彼は、そんな挑発、1ミリも効いてない様で、澄ました顔で男を見つめる。


「おい、兄ちゃん。あんま調子に乗るんじゃねぇぞ!」


 彼の態度に怒りが爆発した男は、リーベルのステッキで彼に襲いかかった。


 しかし、彼はその攻撃を軽快にかわすと、振り上げた足で、男の右腕を蹴り落とす。

 男は、激痛のあまり、持っていたステッキを手放し、左手で負傷を負った箇所を抑えていた。


「なかなかやるじゃねえか。だが、これならどうだ」


 そう言うと、男は、何やら瞑想に入った。

 そして、数秒後、目を開いて詠唱を言い放った。


「我が身よ、強固なれ!ハーデニング」


 唱えた瞬間、男の全身が黒い鋼に覆われていく。


「無敗のこの体で、テメェの体をズタボロにしてやろうじゃねぇか!」


 男は、雄叫びをあげながら、強固な鋼の体で彼に突進していく。


 だが、彼は、平然とした表情で、男の突進を迎え入れると、右手で男の鋼の頭を鷲掴みにし、突進をストップさせた。


 そのまま彼は、一呼吸おき、全神経を右手に集中させる。

 そして、右腕を軽く引くと、今度は力いっぱいに男の頭を押し放った。


 その凄まじいパワーで、男は再び壁に叩きつけられる、完全に意識を失った。


 完全勝利である。


 周囲の冒険者達が歓声を上げると共に、彼の方を一点に見つめていた。

 もちろん、リーベルもその内の1人である。


 彼は、床に落ちたステッキを拾うと、リーベルにそっと手渡した。


「あ……りがとう……ございます」


 リーベルは、憧れの彼から手渡されたステッキを気恥ずかしそうに受け取る。


 だが、彼は無表情のまま、その場から離れると、キッチンの方へと戻っていったのだった。


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