冒険者リーベル(2)
この4人組の冒険者は、セレーネに住む人々や駆け出しの冒険者なら誰でも知っているタチの悪い冒険者集団である。
駆け出し冒険者が魔獣を仕留める寸前で、冒険者を抑え込み、魔獣のトドメをさして、報酬を横取りしていく。
さらには、得た金で豪遊し、酔った勢いで
翌日の営業ができない程にだ。
悪行高き4人組ではあるが、実力は駆け出しの冒険者のレベルでは歯が立たないほど強い。
そのため、セレーネの人々やセレーネに滞在する冒険者達は、逆らう事は出来ず、ただ見過ごすことしか出来ないでいた。
「酒だ!酒!早く持ってこい!」
4人組のリーダーらしき男が、大きな声を張り上げながら、大きな丸テーブルの席に座る。
それに続くように、残りの3人も辺りをギロッと睨みながら、同じテーブルの席につく。
先程まで冒険者達で盛り上がっていた店内は一気に静まり返る。
「はい!お客様、どのようなお酒をご所望で」
ガルフは、4人組を怒らせないよう、とびっきりの営業スマイルで注文をとりにいく。
「この店にある酒、全部持ってこい!金ならいくらでもあるからな」
リーダーらしき男が、大袋の中に入った大量の銀貨をガルフに見せつける。
その金は、冒険者や露店から巻き上げた汚い金である。
周りにいる冒険者達は、4人組の方を睨みつける。
おそらく見つめている冒険者のほぼ全員が、4人組の餌食になっていたのだろう。
しかし、それに気づいた他の3人が辺りに威圧的な態度で睨みを効かすと、冒険者達は萎縮して、一瞬で目を逸らした。
「うおー、何という大金!早速、酒をご準備致します」
ガルフは、わざとらしく彼らの気分を持ち上げると、そそくさとカウンターに戻り、セレーネ特産の高級ブドウ酒を大きな木製ジョッキに並々に注ぐ。
「お待たせいたしました!」
ガルフは、笑顔のまま、それぞれの元へブドウ酒を運ぶ。
「ブドウ酒じゃねえか!こりゃ、たまらんな」
リーダーらしき男が、ブドウ酒の芳醇な香りを嗅ぎ、満足気な顔を浮かべた。
そして、ガラガラの汚い声で乾杯の音頭を叫ぶと、ジョッキに一口をつけた。
だが、一口飲んだ瞬間、男達の顔色が一変する。
「おい、店主。なんだこの酒は」
「セレーネ特産の高級ブドウ酒でごさいます」
「何が高級ブドウ酒だ!こんなもんただの水じゃねえか!俺達をなめんじゃねえぞ」
そう言うと、リーダーらしき男が、ジョッキを持って席から立ち上がると、ガルフの頭の上でジョッキを逆さにした。
入っていたブドウ酒を全身に浴びるガルフ。
そんな仕打ちをされても、ガルフは、「申し訳ございません」と頭を深く下げる。
その様子を見ていた他の3人は、大笑いしてガルフを指差していた。
"バン!"
すると、カウンターの方から、勢いよくテーブルを叩く音が聞こえる。
4人組の視線が音のする方に向かう。
その正体は、眉間にシワを寄せ、いかにも怒りに満ちた表情をしているリーベルであった。
「なんだそこの女。酌でもしてくれんのか?それとも違う尺の方か?」
リーダーらしき男が、腰を振りながら、ヤラシイ笑みを浮かべる。
他の3人も指笛を吹いてリーベルを煽る。
「フンっ、バカバカしい。調子乗るのも良い加減にしなさい、野蛮人共」
「ああっ!てめぇ、何様のつもりだ、ゴラァ!」
「何様って……?」
そう言うと、リーベルは席を立ち上がり、ゆっくりとリーダーらしき男の元へと歩を進める。
何が起こるのかと、周囲の冒険者達が固唾を飲んで見守る。
徐々に近づくリーベル。
リーダーらしき男も、リーベルの堂々と立ち向かってくる姿に少し怖気付く。
そして、男の目の前に着いた瞬間。
少しの間を置いた後、リーベルが一呼吸し、口を開く。
「私は、サンフレア王国、第ニ王女、リーベル・フィン・サンフレア!」
腰に手を置き、「どうだ、すごいだろ!」と言わんばかりのしたり顔のリーベル。
そのリーベルの姿に、呆気にとられたのか目が点になっているリーダーらしき男。
そして、周囲の冒険者までも拍子抜けした表情でリーベルを見つめていたのであった。
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