冒険者リーベル

 

 冒険者ギルド内に併設する酒場バルに向かうリーベル。


 広い店内には、20個程のテーブル席とカウンター席がズラリと並び、冒険者達で毎日賑わっている。


 リーベルは、カウンター席に座るや否や、カウンターテーブルの頭を突っ伏し、大きくため息をついた。

 すると、カウンター越しに、チクチクとしたあご髭をたくわえたガタイの大きな店主がリーベルの背中を一発叩いた。


「イッターっ!ちょっと何すんのよ、ガルフ」


 背中を優しくさすりながら、ムッとした表情をして店主のガルフを見上げる。

 そんなリーベルの様子を見て、どこかの王様のような豪快な笑い声をあげる店主のガルフ。


「いやー、これでも手加減したつもりなんだがなぁ」

「全然手加減になってないわよ!」

「すまんすまん。それで、えらくため息なんかついてどうしたってんだ?」


 リーベルは、先程の受付での出来事をガルフに話すと、ガルフは再び大きな笑い声をあげた。


「ちょっとー!何笑ってんのよ!」

「わるいわるい。相変わらず懲りねえなと思ってな。しかし、お付きの者がいんのに、何でまた自ら冒険者になったんだ?あの付き人は、なかなかの実力と聞くが」

「私には絶対にやらなきゃいけない事があるの」

「サンフレア王国の復活か?」

「そうよ。私には義務があるの。だから、自らの力で王国を……」


 そう言うとリーベルは、拳をギュッと強く握りしめ、悔しそうな表情を浮かべていた。

 そんなリーベルに、ガルフは優しく微笑むと、今度は手加減有りでリーベルの肩を軽く叩いた。


「そんな決意されたら今日はサービスしてやろうじゃねえか、リーベル!」

「ほんとに?やったー!何でも頼んでいいの?」

「もちろんだ!これが店主特権ってやつだな!」

「それじゃあ……」


 リーベルは、カウンターに置かれた看板に書かれたメニューを見ながら、次々に料理を頼んでいく。そのほとんどが肉料理だ。女の子らしく、一品だけスイーツを注文していたが。


「肉ばっかりじゃねえか!バランスの良い飯食べねぇと成長しねぇぞ」


 そう言うと、ガルフはリーベルの発育途中の残念な胸に視線を向ける。

 視線に気づいたのか、リーベルは両腕で胸元を覆い隠し、キリッとガルフを睨む。


「どこ見てんのよ、ガルフ。引っ叩くわよ。これでも見た目よりはあるのよ」

「わかったわかった。俺が悪かった。まあ、野菜も食わねぇと栄養が偏るから、スペシャルサラダも追加しておいてやるよ」

「えー、野菜、キライ」

「文句を言うんじゃない。おい、キッチンの坊主。サラダ追加だ」


 ガルフは、カウンターの奥にあるキッチンに声をかける。

 すると、キッチンにいた一人の男が、低い声で「了解しました」と料理を作りながら応える。


 その男は、スラリとした高身長で、背筋はピンと伸び、左目を覆う前髪に、少し長く伸びた黒髪をくくっている。

 後ろ姿だけでも男前だと分かるほどであるが、お顔の方も予想を裏切らない男前な顔立ち。

 目尻の上がったキリッとした目に加え、眉は上がっていて鼻は高く、唇の薄い、大人なクールな顔立ちである。


 そんな容姿から、冒険者ギルド内だけでなく、街の女の子には大人気で、毎度毎度声をかけられている。

 しかし、彼は、彼女達の声には応えようとは一切しない。

 普段も寡黙で、男とですら楽しく話している姿を見た事がない程だ。


 そして、リーベルも彼の魅力に取り憑かれた女の子の一人なのである。


「かっこいいなー」


 うっとりとした目で料理を作る彼を見るリーベル。

 しかし、リーベルにはカッコイイと同時に、彼の悲しげな雰囲気とどこか懐かしい雰囲気を感じ取っていた。

 そのミステリアスな所が、またリーベルの恋心をくすぐる。


 すると、ガルフがリーベルの顔を覗きこんできた。


「ちょっと邪魔!野獣の顔なんて見たくないわ!」

「野獣とは、失礼な奴だな。しかし、ほんとにお前さん、あいつの事好きなんだな」

「べっ、別に好きとか言ってないし!」


 好きという言葉に敏感に反応してしまったリーベルは、恥ずかしさのあまり火を噴くように顔を真っ赤にさせた。

 一方のガルフは、そんなリーベルをニヤニヤと見つめていた。


 その時だった。


 "ガタン!"


 大きな破壊音が店内に響き渡る。


 すると、店の木製のドアを蹴飛ばし、態度の大きなタチの悪い4人の冒険者が入ってきたのだった。


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