第53話 羅刹(らせつ)ハンター

 椅子から転げ落ちた三匹の妖怪は、立ち上がりながら口々に叫んだ。


「“蛇怪牙じゃかいが”って……あの妖怪狩りをする妖怪……本当に居たドン~?」


「アレハ誰カノ作リ話ダト思ッテイタッチ~」


「いや……半魚ッチ! 覚えてないゲロか?」


「ワシも“蛇怪牙じゃかいが”の事は……噂ぐらいでしか聞いたことが無いドン?」


 そんなに昔から妖怪狩りが行われているなら、もっと被害があってもいいはずと思った輪入道だった。


「“蛇怪牙じゃかいが”とは、智蛇ちじゃしもべ……邪悪にりつかれた妖怪たちの事なのよ」


 沈痛な面持ちでリンカ様が言った。

 神の一族の不始末に心を痛めているようだ。


「…………」


「“蛇怪牙じゃかいが”は智蛇ちじゃの命により、疑わしい妖怪を狩りだしては……差し出すのじゃ」


「やっぱり……喰らうためにドン?」


 容赦なく大きくうなずくガッパ爺である。


 輪入道の顔色が蒼くなっている。

 若い妖怪達より長く生きている分、恐怖をイメージする記憶を沢山持っている。


「ナラ! ナラ! “天牙一族”ハ、今デモ妖怪ヲ護ッテクレテイルッチ? 泰平君モ僕ヲ護ッテクレルッチカ?」


 半魚ッチが震えながら泰平寄り添ってきた。

 しかし、五郎は何かを考え込んでいる。


「僕は! 僕は……何も知りません……そんな力なんか……」


 泰平は、何も分からず、両手を振りながら後ずさりしている。

 その姿を眺めながら、満面の笑みを浮かべて仁王立ちしているのは雪ん娘だ。

 やっぱり、泰平は弱い方が良い! っと思っているのだろう。


「こやつは、中途半端にしか覚醒しておらんから、まだ普通の人間と言ってよい。“召喚者しょうかんしゃ”となるには、まだまだ修行が必要じゃ」


「ほらね~♪ まだヒヨッコ泰平なんじゃない♪」


「雪ちゃんだって……ヒヨッコ雪女じゃないかよ~」


「なんですって~」


「なんだよ~~」


 雪ん娘と、泰平が活躍するのは、もう少し先になりそうだ。


「こりゃ~! 黙って聞かんか~!」


 中途半端でも、覚醒しかけている泰平には知っておく必要があるとガッパ爺は考えていた。


「分かったわ♪……でも……隠さないで、ちゃんと教えてよ♪」


「実は、これから話す事は……泰平の両親の事じゃ……」


「え? 僕の……母さん……父さん?」


 思わぬ展開に泰平の目が輝いた。


「両親って……あんたが、子供の頃に行方不明になったという?」


 雪ん娘が身を乗り出してきた。


「警察では行方不明として片付けたが……あれは嘘じゃ」


「嘘……って! なっ……? 嘘なの?」


「ある理由があって、自ら身を隠したのじゃよ……」


「幼い泰平を……残して?」雪ん娘の母性愛だ。


「皆もうすうす気づいているじゃろうが……こやつの両親は“天牙一族”の正統な後継者であり……優秀な“召喚者”じゃたんじゃ」


「質問ゲロ! ……あの……その人達は……“羅刹らせつハンター”じゃないゲロか?」


 河童の五郎が口を挟んできた。

 彼には思う事があるようだ。

 そう言えば、“蛇怪牙じゃかいが”の話が出て、一切口を挟まなかった事に泰平は気づいた。


「そのとおりじゃ! 河童くんは……“羅刹らせつハンター”を知っておるのか?」


「知ってゲロ! たぶん……いや! 知ってるゲロ!」


羅刹らせつハンター”とは、妖怪を襲う“蛇怪牙じゃかいが”から妖怪を守る二人組の“ハンター”の事じゃ」


「……その方々が、泰平さんのご両親♪ “羅刹らせつハンター”なのよ♪」


「マジ……ドンか? 悪鬼羅刹あっきらせつと戦う人間が居ると噂は聞いてはいたが……それが泰平の両親だったドンか?」


 単なる噂話だとタカをくくっていた輪入道は更に驚いた。

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