第51話 天牙一族

 ガッパ爺は一息ついた。


 しかし、誰も口を堅く結んで、開こうとしない。


 しばらく沈黙が続いた後、泰平がポツリと切り出した。


「それが僕の先祖……そして“天牙一族あまがいちぞく”のルーツなんだね……」


 泰平が、今の話をどこまで受け入れる事が出来たのか定かではないが――。

 ただ、どこか誇らしげで、少しだけ大人に近づいた顔になっていた。


「しかし、サタンまで絡んでいたとは……ビックリゲロね~!」


「“ヤマタノオロチ”モ怖イケド……“サタン”ハモット怖イッチ~!」


 河童の五郎と、半魚ッチは手をつないでいる。

 よほど怖かったようだ。


 天牙一族あまがいちぞくとは“八岐大蛇ヤマタノオロチ”の義蛇ぎじゃ仁蛇じんじゃの意思と力を受継いだ集団である。


 確かに、ある意味――神族の末裔まつえいと呼べる存在なのかもしれない。


 そして、その天牙一族あまがいちぞくを束ねるかしらこそが天牙神社の宮司なのだ。


「二匹の大蛇の能力……その“最後の力”って、どんな力なの? 泰平がそれを……受継いでいるの?」


 半ば信じ難い――と、いった表情で雪ん娘が尋ねてきた。


「…………」


「ネェ~♪ ネェ~♪ もったいぶらずに早く教えてよ……ガッパ爺ィ~~♪」


 泰平の事になると何故か黙っていられない雪ん娘である。

 思春期まっ只中の女子中学生である。

 我慢は身体に悪いと思っている。


「分かった! 分かった! 今教えてやるから、黙って聞くのじゃ! 雪ん娘はせっかちでイカン」


 前に前にと出てくる雪ん娘を、ガッパマネキンの両手を伸ばして制止した。


天牙一族あまがいちぞく”が秘める力は二つ。


 一つは――。


【義の力】


 悪しき者にりつかれた人や妖怪を元に戻す力。

 また、心に巣食う邪心を追い払う力。

 つまり“浄化の力”である。

 だから、他の大蛇達と違い、智蛇ちじゃの邪心に惑わされなかったのだ。


 もう一つは――。


【仁の力】

 

 深い愛によって、すべてを包み込む包容力。

 愛と信頼を持って妖怪と融合することで、その妖怪の能力を、我が能力とする。

 つまり“召喚しょうかんの力”である。


“召喚の力”を継ぐ者は、体内の五か所に五つの能力を宿す事ができる。


『両手首』『両足首』『首』其々に違う妖怪の能力を宿し、その部分が赤く光る時、その妖怪の能力が解放されるのだ。


 まさに神族の“最後の力”といえる能力であった――。

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