第48話 堕天使ルシファー

 地の底に転げ落ちて行った二匹の大蛇。


 胴のない二匹の大蛇は重なるように真っ暗な地の底に横たわっている。


 ただ、命が尽きる様子は微塵もなかった。


「なんてことをしたんだ……仁蛇じんじゃ!」


「ごめんなさい……義蛇ぎじゃ……今はこうするしかなかったの」


 仁蛇じんじゃはある決心をしていた。


 しかし、その為にはどうしても、義蛇ぎじゃの力が必要だった。


智蛇ちじゃは何かにりつかれたみたいに邪悪になった……それは、あなたも気づいていたでしょ?」


「……確かに……だけど……」


 義蛇ぎじゃは、彼女の気まぐれだろうと言い聞かせていた。

 仲間を疑うことも悪だと考える義蛇ぎじゃである。


智蛇ちじゃは知恵の神……彼女は昔からある野心を持っていたの」


「ある野心? 昔から?」


「そう……『自分たちの強大な力があれば、この国を我が物にできる』そんな……考えを密かに持っていたのよ」


「そんな! 我々は神といっても、神族に使える“僕神ぼくしん”なんだぞ!守護神を差し置いてこの国を支配するなんてできるわけが……」


 古代神には――


 神々を従える――【天上神てんじょうしん


 神々の作った国を統治する――【守護神】


 国造りの土台を作る――【破壊神(ダイダラボッチたちがそうである)】


 人々に神の教えを伝える――【僕神(ヤマタノオロチ、古妖たちがそうである)】に分けられる。


智蛇ちじゃは天上神をあざむいて、ある取引をしたのよ……」


「取引? 誰と? 天上神をあざむく? そんな事ができるもんか……まして取引なんて!」


 神に仕えることが自分の天命と信じている義蛇ぎじゃである。

 神に背くなど、あってはならない暴挙ぼうきょなのだ。


 しばらく目を閉じて考え込んでいた仁蛇じんじゃは、ゆっくりと義蛇ぎじゃの額に、自分の額を押し付けると、ゆっくりと目を閉じた。


ズッズッズ~~~~~! 


 仁蛇じんじゃのイメージが、義蛇ぎじゃの頭の中に、映像となって土石流のように流れ込んできた。


「こ……これは! この戦いは……この戦いは……」


 義蛇ぎじゃの驚きの声が地の底に反響した。


「……ちゃんと観るのよ! 義蛇ぎじゃ!」


「う、うわ~~~! こんな事が……」


「ちゃんと観なさい! それは、神と神の……壮絶な戦い……何世紀にもわたる戦い……」


 仁蛇じんじゃは尚もイメージを送り続けた。


 どれくらい時間が経ったのだろう――。

 何分、何時間? いやほんの一瞬だったような。


 漆黒の闇の中は物音一つしない静寂に包まれている。


「ハァ、ハァ! ……そうか……そうだったのか~! 智蛇ちじゃが取引をした相手というのはアイツだったのか」


 荒く深い息遣いを整えようともしないでうなり続ける義蛇ぎじゃ


「分かったわね! 神との戦いに敗れ……神の国を追われ地獄に落とされた……」


「……堕天使……ルシフア~~!」


 義蛇ぎじゃの瞳が鈍く、青白く光りだした。


「そうよ……今は、サタンと呼ばれている最悪の悪魔王よ」


「あいつだったのか……」


 善悪をつかさどる神である義蛇ぎじゃにとって、悪の権化といわれる“サタン”は最も忌み嫌う存在だった。


「でも……どうしてサタンと智蛇ちじゃが……?」


「これから先は私の想像だけど」


「…………」


智蛇ちじゃは、私たちの中で最強の“精神感応テレパシー”の能力者。サタンも多くの仲間を裏切り者に洗脳した……“精神感応テレパシー”の能力者なのよ」


「二人の能力が呼応した……と?」


「私たちに気づかれないように、シンクロしていたと考えたら……智蛇ちじゃの豹変もうなずけるわ」


「じゃあ……智蛇ちじゃはサタンに操られていると?」


「それはどうかしら? 智蛇ちじゃは、この国の女王になりたいという野心を持っていたし……」


「じゃあ、その野心に……サタンが……」


「両者の利害が一致したのね……神とも戦えるサタンの力を利用したい智蛇ちじゃと、地獄から抜け出したいサタン……」


「でも……サタンは地獄の最下層に幽閉ゆうへいされて抜け出せないだろう?」


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