第35話 丘に向かって

「お~い! またせたドン~!」


 輪入道が荷車をひいて帰って来た。


「すまん~すまドン! “喰い喰いペリカン”にアレコレ質問されて……なかなか離してくれないものだから遅れてしまったドン」


「えっ? 輪入道さんも“喰い喰いペリカン”の言葉が分かるんですか? 妖怪翻訳は五郎さんの……」


「泰平~知らないの? 輪入道さんは、あ~見えても、妖怪大学を首席で出てるのよ」


「雪ん娘! あ~見えては余計ドン。こ~見えても嫁入道には『知識が髭を生やしたような顔』って褒めてもらってるドン♪」


 嫁入道の話になるといかつい眉毛が、ハの字に下がる輪入道だった。


「でも、妖怪大学って……あの……“ぬらりひょん”が学長してるって噂の?」


「そうよ! ガッパ爺はそこの特別教授もしてるのよ……ねぇ♪ガッパ爺」


「ウッホン! まぁ、そんな事より……輪入道よ……リンカ様は何かおっしゃっていらしゃらんかったか?」


「わはは~! ガッパ爺~変な敬語ドンな~♪ 別に……ただ状況を説明しただけドン……しかし、何故か泰平の事を気にしていたドン」


 輪入道は、ハの字に下がった眉毛を揺らしながら笑っている。


「僕の事を? あ~そうだった! リンカさんを丘に待たせたままだった……心配しているよね」


 泰平は、いつ帰るとも告げないで作戦を決行したことを思い出した。


「誰よ……さっきからリンカ、リンカって? 女性じゃないの?」


 雪ん娘が、いろんな怒りを継続している中――更なる怒りの矛先を泰平に見つけた。


「女性と言えば、女性だけど……雪ちゃんもここに来た時に丘で逢っただろ? “喰い喰いペリカン”彼女の名前がリンカさんなんだよ~」


 これ以上雪ん娘を怒らせると不味まずいと感じた泰平は“イザナギの勾玉”を小脇に抱えると、いそいそと荷車に乗込んだ。


(雪ちゃん……もしかしてヤキモチ妬いてくれているのかな?)

 口に出せるわけもないが――チョット嬉しい泰平である。


「泰平~何をニヤニヤしているのよ……気持ち悪い。変な誤解していないでしょうね?」


 共に中学生――どちらもまだまだ思春期まっただ中。


 輪入道がそんな二人を笑いながら眺めていると、五郎が見慣れない者を抱えて荷車に乗り込むのが見えた。


「おい? 河童が抱えているその……ゆるキャラみたいなのは……何ドン?」


「半魚人ゲロ。名前は半魚ッチ。輪入道さん達に迷惑かけたけど……友達ゲロ。許してやってゲロ」


 気を失っている半魚ッチを荷車の床に寝かせると、消え入るような声で答えた。


「へぇ~! あのデカブツだった半魚人が……こんなにチンチクリンになったドンか? 半魚人とは面白い妖怪ドンな」


「まぁ~輪入道。そこから先は丘に戻ってからじゃ……忘れ物はないの? 泰平! 大事な勾玉を落とすんじゃないぞ……よし! 輪入道、飛んでくれ~」


 全員が荷車に乗ったことを確認すると発車の号令をかけた。

 人間と半妖、二匹の妖怪と雨合羽の付喪神つくもを乗せた輪入道が丘に向かって飛び立った。

 と、いっても数百メートルしか離れてないから二十秒程度で着いてしまった。


「ただ今~リンカ様♪ お待たせゲロ~」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る