第27話 作戦開始!
「……そこで雪ん娘の出番じゃ!」
「いよいよ私の出番ね♪」
人差し指をたてると、指先に向けて軽く息を吹きかける雪ん娘。
指の周りをクルクルと雪の結晶が円を描くように舞いながら昇って行った。
「泰平が言ったように、ワニが火に誘われることはない。じゃが……奴らは、変温動物だから寒さに弱い……」
「そうか! 雪ちゃんが池の水温を吹雪で下げるんだね」
「輪入道の炎に暖を求めて集まって来る……という訳じゃ!」
「なるゲロ~! その間に僕が“イザナギの
「……でも……私、寒さに弱いから自分の吹雪に長い間は耐えられないわよ」
雪程度なら問題ないが、吹雪になると自信がない雪ん娘である。
半妖である自分がもどかしそうだ。
「そこは考えておる。雪ん娘がワシを着ればよいのじゃ。ワシの妖力は泰平が一番よく知っておろ~」
寒い冬でも、高い山の頂でも、輪入道の荷車に乗って飛んでいけるのは、ガッパ爺のヒート妖力のおかげである。
泰平は雪ん娘に両手で大きく丸を作って合図した。
「さすがガッパ爺! でも……みんなの役割は分かったけど……僕は何を?」
自分の出番が思いつかない泰平は心配になった。
「ちゃんと用意しとる。お前は、あの岩に登って監視するのじゃ」
池から少し離れた雑木林の中に、池全体を見渡せるくらいの小高い岩山があった。
「おたのし池は、極端なひょうたん形のせいで、下からではワニたちの様子が分からんからの。あの場所からなら一望できるはずじゃ」
ガッパ爺を着こんでいる泰平の右腕を岩山の頂に向けて言った。
「なるほど……ワニたちが集まったら、五郎さんに合図をするんだね」
「先走るな~! 状況を“妖怪スマホ”で逐一報告するのじゃ。タイミングはワシが決める」
「なんだよ~! 信じられてないな~」
「あたりまえじゃ! お前など、まだ200年は早いわい」
「人間なんだから、そんなに生きられないだろ~」
「まぁまぁ~。とにかく泰平くん次第で僕の安全が決まるゲロね。よろしくお願いゲロね」
絶妙なタイミングで割って入った五郎。
皿の水がこぼれないように、15℃の角度で頭を下げる仕草に、雪ん娘が笑った。それにつられて、ガッパ爺が、輪入道が、泰平も笑った。
「よしドン! そうと決まれば、頑張って池を取り戻すドン!」
「お~~~っ!」
みんなが
「それじゃ~ガッパ爺! ワシは反対の岸に行って燃えてくるドン~」
「頼むゲロ~よ~。輪入道さん」
輪入道は、まだ目立たないように青白い炎を少し出しながら飛び去った。
それを見送った泰平は、ガッパ爺を渡すために雪ん娘に近づいた。
「しかし気になる……まさかの……まだ早いと思うが……」
自慢の貝のボタンを外しながら歩く泰平を上目づかいで見つめ、ガッパ爺が独り言を
「気になる? ……まだなにかあるとでも?」
ガッパ爺のさりげない独り言に反応した泰平である。
“ワシの言葉を一言一句聞き逃すな!”という教育が身に染みている。
「聞こえたか? 何でもない……今のは気にせんでいい……」
(何かを隠しているな! 合羽のくせにガッパ爺は顔に出やすいからなぁ)
泰平は着ていたガッパ爺を脱ぐと、もう
「恋人じゃあるまいし!
泰平に手を伸ばしながら雪ん娘が憎まれ口をきいている。
「雪ちゃん♪ 僕が、見張っているから……もし、ワニが襲って来たら直ぐに逃げるんだぜ。ケガでもされたら雪女のおばさんに申し訳ないからさ♪」
「同い年のくせに生意気よ! 泰平こそ、只の人間なんだから……私が護ってあげないと何もできないでしょ? 私は強いから大丈夫よ」
雪ん娘は、泰平に好意以上の気持ちがあるのに素直になれないでいる。
こちらも、まだまだ純情な女子中学生雪女である。
泰平は「俺だって……」と、言い返しかけたが口をつぐんだ。
実際、引っ越しセンターにやってきた妖怪が、泰平を見て急に暴れだした時、雪ん娘に助けられた事が、一度ならずとあった――それだけに強く言えない引け目があった。
「ちぇ! 力では妖怪には敵わないからなぁ~。じゃあ……行ってくるね♪」
「頑張れ~泰平♪ 少しだけ期待してるわよ♪」
男心をうまくコントロールする術を身に着けている。
旅人を誘惑する雪女のDNAかもしれない。
雪ん娘を気づかい何度も振り返る泰平。岩山に着くと軍手をはめ、岩肌に手を掛け昇って行った。
「よし、それでは作戦開始じゃ! 輪入道から炎が立ち昇ったら、同時に雪ん娘は吹雪をおこしてくれ……気合入れて行くのじゃ~」
河童の五郎は、屈伸運動をしながらスタンバイを始めた。
いつの間にか……周りは少し薄暗くなっていた。
「あまり暗くなると、夜行性の爬虫類たちが凶暴になってしまうから、今からは時間との勝負じゃぞ~」ガッパ爺に気合が入ってきた。
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